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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第1章 漁港の王様

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異譚15 ヴォーパルソード

きっと滑り込んでるはず

 ロデスコの言葉通り、一度も立ち止まる事無く駆け抜ける。


 一度でも止まってしまえば相手の物量でその場に押しとどめられてしまう。止まらず、突進力のままに進まなくてはいけないのだ。


 避けられるものは避け、倒さなくてはいけない相手は倒す。


 そうして漁港まで辿り着いたのだけれど、今までの敵の猛攻が嘘だったかのように攻撃の手が緩む。


 漁港には辿り着いた。けれど、その場所はアリスが核を観測した場所――加工場とは違った。


「――っ!! サンベリーナ! 核の位置は?!」


「ま、真っ直ぐ……あ、あれ?」


 ヴォルフの肩に乗っていたサンベリーナが泣きそうな顔で振り向く。


「な、なんでぇ? う、後ろになってるぅ……」


「はぁ!? 通り過ぎたって事!?」


 ロデスコが異譚生命体を蹴り飛ばしながら声を荒げる。


「違う。多分、逸らされた」


 アリス達は核へ向けて真っ直ぐ進んでいた。けれど、実際には真っ直ぐ一本道という訳では無い。サンベリーナの感知能力を方位磁針替わりにして進んでいたので、何度か道を曲がったりもした。


 恐らく、その何度かの内の一、二回の認識をずらされ、意図していない方に方向を間違えさせられたのだ。


「人型の魔法だと思う。多分、認識を誤魔化された」


「めんっどうねまったく!! もっかい行くわよ!!」


「お馬鹿。同じように突っ込んでも同じ結果にしかならないわよ」


「じゃどーすんのよ!!」


 もう一度同じ事をしても、同じ結果になる。核の位置を誤魔化され、方向感覚を狂わされる。


 そうなれば、五人は一生核の元へはたどり着けない。


「簡単な話」


 しかし、アリスに焦った様子はない。


「サンベリーナ、核の位置は」


「あ、あっちだよ!」


 アリスの問いに、サンベリーナは核の位置を指差す。


「ありがとう」


 お礼を言いながら、アリスはサンベリーナが指差した方を向く。


 感覚的に、核の位置はアリスの射程圏内。であれば、問題無い。


 アリスの前で紫電が迸る。


「これは……」


 空間が(ひず)み徐々にそれ(・・)が姿を現わす。


 少女が持つにはあまりにも無骨が過ぎる棒。しかし、それが全体像ではなく、それの一部に過ぎない事を、この場に居る全員が知っている。


 アリスが棒を握り、勢いよく引き抜く。


 歪んだ空間から姿を現わしたのは一振りの剣だった。


 無骨、けれど、美しく光を反射させる刀身。よく見やれば細部にまで拘られた意匠。


 その剣を見て、ヴォルフが感嘆したように漏らす。


「ヴォーパルソード……」


 ヴォーパルソード。アリスが持つ一撃の元に全てを終わらせる事の出来る最強最悪(・・・・)の剣である。


 アリスはヴォーパルソードを切っ先を背後に流して下段に構える。


 一瞬の溜め。直後に斬り上げる。


「うわっ!?」


 魔力の奔流が刀身から放たれ、前方に存在する全てを飲み込む。


 暴風が吹きすさび、衝撃波で直撃していない建物や木々すらも吹き飛ばす。これでは他に生き残りが居ても生きてはいられないだろうと思う程の一撃。


 全てが抉れた目前を見て、アリスはヴォーパルソードを仕舞う。


「ギリギリ届かなかった」


「ア……ンタねぇ……!! やるならやるって言いなさいよ!! 余波だけでキツイのよこっちは!!」


「ごめん」


「でも道は出来た」


「話を聞けってのこのポンコツ英雄!!」


「いたっ」


 余程頭に来たのか、ロデスコがアリスの頭をぽこっと叩く。因みに握り拳である。


「痛い……」


「アンタが悪い!!」


 頭を抑えるアリスをロデスコが一喝する。


「っていうか、道ってより更地じゃ無いのよ!! アンタ復興の事とかちゃんと考えてんの!?」


「考えてはいる。けど、核は一分一秒と野放しにしておけないから……」


「アンタなら直通で橋架けるくらい余裕でしょうが!!」


「あ……」


 今更気付いたというような顔をするアリス。


 確かに、アリスの魔法を使えば核まで橋を架ける事は可能だ。攻撃はギリギリ届かない距離だけれど、距離を詰めるために道を作るには十分な距離だ。


 一番早い方を選んでしまったアリスのミスだ。


 しらーっとアリスはロデスコから視線を外し、申し訳なさそうな顔をする。


「ごめん……」


「んっとに……このポンコツぁ……!!」


 アリスは街への被害を考えていない訳では無い。けれど、必要に迫られれば人的被害が出ない事を優先してしまう。


 今回の場合、核の付近に人型が居た事がアリスを焦らせる結果になった。


 ただ、アリスの判断も正しくはある。橋を架けるのにはそれ相応に時間がかかる。核を一秒でも長く放置すれば、それだけで異譚が広がってしまう。


 かかる時間を気にしてしまうのは致し方の無い事だろう。


「ロデスコ。過ぎた事は気にしても仕方ないわ。アリスが作ったこの道を行きましょう」


「更地ね!! 断じて道であるもんですか!!」


「ま、まあ、迷わないなら良いんじゃないかな?」


「橋だって迷わないわよ一本道なんだから!! アンタ達コイツに甘すぎ!! 叱る時にビシッと叱んないでどーすんのよ!!」


「なんか保護者みたいッスね……って、み、皆さん!!」


「何よ!!」


「来てるッス!! アリスさんが拓いた道からいっぱい来てるッス!!」


 ヴォルフが慌てたように指を差せば、確かにアリスが作った道から大量に異譚生命体がこちらに雪崩れ込もうとしていた。


「アンタもう一回撃ちなさいよ」


 一度更地になってしまえばもう後何回ヴォーパルソードを撃とうが変わりはしないだろう。


 そう言いたげなロデスコに、アリスは首を横に振る。


「そんなにぽんぽん撃てない」


 アリスのヴォーパルソードは高威力だけれど、日に何度も撃てるような代物ではない。ここぞというときに回数はとっておきたい。


「じゃどーすんのよ? あの数は流石に面倒よ」


「大丈夫」


 言って、アリスは悠々と更地にした道を歩き出す。


 何か考えがあるのだろう。そう考え、四人は顔を見合わせた後にアリスに付いて行く。


 猛スピードで接近する異譚生命体達は、あっと言う間にアリス達に肉薄してくる。


「どーすんの?」


「こうする」


 アリスは一度だけ地面を踏み鳴らす。


 直後、アリスが作った更地を走る異譚生命体達の足元がガラガラと崩れ落ちる。異譚生命体達は踏みしめる地面を失い重力のままに落下する。


 地面の下には高さ十メートルほどの溝が出来ており、その溝には無数の鋭い剣山がびっしりと生えていた。


落ちた異譚生命体は漏れなく全員が鋭い剣山に貫かれて絶命する。


 たった一瞬で広大な地面に穴を開けて剣山を作ったかのように思えるけれど、歩きながら準備をしていたのだ。まぁ、それでも普通の魔法少女からしたらありえない規模と速度ではあるのだけれど。


 粗方落ちた異譚生命体を見て、アリスは再度地面を踏み鳴らす。


 すると、みるみるうちに溝の上に蓋が出来る。


「アンタ、埋めた死体どうすんの?」


「……」


 ロデスコが鋭く問えば、アリスは困ったように沈黙した後にぽそりと返す。


「……整備費は私が出す」


「そ、そこまで気にしなくて良いと思うよ、アリス」


「高給取りなんだから微々たるもんでしょ。まぁ、金で解決できると思ってる辺り、現場の苦労を知らない考えだとアタシは思うけど?」


「うっ……」


 ロデスコの正論にアリスは思わずうっと呻く。


 珍しいものを見られたと、ロデスコは嬉しそうににやにやと笑みを浮かべる。


 そう。アリスが費用を出したとしても、死体を片付けるのは現場の人だ。その苦労にお金だけ払って解決しようと言うのだ。反感を持たれる言い方なのは間違い無いだろう。


「ロデスコ、アリスを虐めないで。それに、人にはそれぞれ役割があるのよ。アリスは異譚の鎮圧が仕事なんだから。それ以外の事をやってもらうのは当然の事でしょう?」


「その手間を増やしてやるなって事よ。ま、今回は剣山を直に作られるよりマシだけどね。アタシ、汚れた地面なんて歩きたく無いし」


「なら文句言わないの」


「はいはい。ま、珍しいリアクションも見れたし、今回はこれくらいで勘弁してあげるわ」


 にやにやと笑いながら、ロデスコはぷうっと不満そうにしているアリスの頬を突く。


「……整備も全部私がやるからいい」


「ぷふっ。拗ねてる~」


「拗ねてない」


「どー考えたって拗ねてんでしょーが。ぷふふっ、かっわいい~」


 ぷーくすくすと楽しそうに笑うロデスコに、アリスは更に不満そうな表情を浮かべた。


「せ、先輩達、緊張感無いッスね……」


「この二人が異常なのよ。他は皆気を張ってるわよ」


「そ、そーッスよね……それが、普通ッスよね……」


「自分をたもつのは良い事だけど、緊張感はキープしなさい。一瞬たりとも、気を緩めては駄目よ」


「は、はいッス!」


 スノーホワイトのアドバイスに、ヴォルフは再度気を引き締める。


 この先、いよいよ核とのご対面になる。気を引き締めなければ、やられるのは自分達の方である。


 そう。それが異譚。本来、一瞬たりとも気を緩められるような場所では無いのである。もっとも、じゃれているように見える二人も、一瞬たりとも気など緩めてはいないのだけれど、新人のヴォルフにはまだ分からない事であった。


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