異譚1 被災地
お待たせしました。4章です。
公募の締め切りに追われ、38度の熱に見回れ、なかなか書けていませんでしたが、今日から再開します!
4章はアリスの過去回。アリスが英雄になるまでの物語です!
ヴルトゥームとの決戦から早くも一ヶ月が経過した。
ようやっと街の復興も終わり、住民達も各々の家へと戻る事が出来た。
季節は既に夏に差し掛かり、いつもの生活に戻っても直ぐに夏休みに入ってしまう。
避難中は受け入れ先の施設でリモート授業を受けていたので、授業の進行に遅れは無い。
しかし、それは子供に限った話だ。この街に店を構える者達は、この一ヶ月は仕事を出来ずにいた。一応、国からの補填は入るけれど、復興にも資金を回さなければいけないので、補填額は必要最低限になってしまう。
異譚保険というものも在るので、加入していれば保険金が下りるところもあるので、全員が全員生活が困窮する訳ではないけれど、それでも、一定数は生活に支障が出る者が居る。
異譚を終わらせればそれで終わり、という訳ではないのだ。
「んで、何処行くのよ」
がたんごとんと電車に揺られながら、朱里は隣に座る少女――アリスに訊ねる。
復興が終わってから、朱里はアリスに誘われるまま電車に乗り込んだのだ。
目的不明。目的地不明。何故連れ出したのか、いつ帰れるのかも不明。
正直、復興のごたごたがようやく片付いたので家で大人しく休んでいたいのだけれど、アリスがこうして誘うのも珍しいので素直に着いて来たわけだ。
「群馬」
「群馬の何処よ」
「前橋」
「前橋って……確か」
「うん」
朱里の言葉にアリスは頷く。それだけで、朱里はアリスが朱里を連れ出した理由を理解した。
前橋に入る前の駅で降りる。今は、此処が終点だ。
アリスを見た通行人がぎょっとした目をするけれど、アリスは気にした様子も無く歩く。
朱里も、誰かに見られるのは慣れたものなので特に気にした様子は無い。
駅から出れば、直ぐに背の高いフェンスが目に入る。
フェンスは遠くまで続いており、まるで終わりが見えない。
フェンスには業者が出入りするための入り口が在り、アリスは迷わずその入り口へと向かう。
「すみません。対策軍所属の魔法少女アリスです。中に入っても良いですか?」
「お話は伺っています。どうぞ」
入り口の前に立つ警備員に声をかければ、警備員はアリスを中へ通す。
躊躇いなく脚を踏み入れるアリスの後に朱里が続く。
フェンスの向こう。そこは、平和とは程遠い街並みが広がっていた。
辺り一面瓦礫が敷き詰められ、幾つかの建物は倒壊を免れてはいるけれど最早人の住める状態では無い。
「向こう側は瓦礫の撤去が終わってる。区画ずつで撤去をしてるから、向こうは整地とか建設が進んでる」
指差しながら、アリスは復興の状況を説明する。
確かに、アリスが指差す方にはぽつりぽつりと建物が建っているのが見える。それでも、数はあまりにも少ない。
瓦礫の中を歩くアリス。その後を追おうとして、朱里は自身がヒールで来てしまっている事に気付く。
「アリス」
「なに?」
「流石に、ヒールじゃ歩けないんですけど?」
言いながら、朱里は自身の足元を指差す。
「いつもヒールでは……?」
「魔法少女ん時と一緒にすんなっての。今はか弱い乙女なんだから。少しは気ぃ使いなさい」
魔法少女との時もヒールだけれど、脚力が違うのだ。魔法少女体であれば瓦礫も踏み抜けるけれど、変身をしていないのであれば脚力は普通の少女である。
アリスは魔法でスニーカーを作り出して、朱里に渡す。
「座る場所無いでしょ。肩貸しなさいよ」
「注文が多い……」
朱里はアリスの肩に手を置いて、ヒールからスニーカーに履き替える。
「デザインいまいちね」
アリスが作ったのはシンプルな白のスニーカー。色味もデザインもとてもシンプルである。
とりあえずこの瓦礫の先まで行ければ良いので、デザインなどは特別重要視していない。
「じゃあピンクにする」
朱里が言えば、アリスは即座に色だけを変更する。一瞬で朱里の履くスニーカーが可愛らしいピンク色に変色する。
「はぁっ!? クソダサっ! ちょっと元に戻しなさいよ!」
「じゃあ黄色」
「元に、戻せって、言ってんの!!」
蛍光イエローの靴に変色する朱里のスニーカー。
「やだ」
注文の多さに面倒になったアリスは、ぷいっとそっぽを向く。
「このっ……」
そっぽを向くアリスの頬を容赦無く摘まむ朱里。
「準備出来たら行く」
「ちょっ、色直せ、色!! ったくもう!! こんなんなら服装選んで来たのに!!」
文句を言いながらも、朱里はアリスの後に続く。
瓦礫の中を二人は歩く。
「この瓦礫、アンタなら簡単に撤去できるんじゃ無いの? 家建てるならともかく、瓦礫の撤去くらいやっても良いんじゃない?」
「瓦礫の受け入れ先のキャパシティが足りない。それに、生み出す事は簡単だけど、消し去る事は私に出来ない」
魔法で無から有を生み出す事は出来るけれど、元々在る物質を消す事は出来ない。
この瓦礫の原もアリスは魔法で消し飛ばす事しか出来ない。
「復興は政府に任せる。最初からそういう契約。徐々に復興の速度も上がってるし、仕事を受けてくれる会社も増えて来てる。新しい町の形も決めてるみたいだし、順調に復興は進んでる」
言って、街の復興計画の載ったパンフレットを何処からともなく取り出してロデスコに渡す。
「へぇ、有名コンテンツと連携したランドマークの建設に、異譚の資料館。県庁の再建設と移住者支援制度、ね……」
ペラペラとパンフレットをめくりながら素早く目を通していく朱里。
「この異譚の資料館って、こうなった原因の異譚って事で良いのよね?」
「そう。私が今日ロデスコに話す異譚」
言いながら、アリスは自身の前方を指差す。
「あれ見える?」
「見なくても分かるわよ。更地……っていうより、クレーターよね、アレ」
アリスの指差す先に在るのは、広範囲に及ぶ窪み。
「あそこで私は戦った。最悪の異譚支配者と」
「それ、ヴルトゥームとどっちが最悪?」
「個の力だけで言えば、私の戦った異譚支配者の方が強かった。相性の問題もあるけど、それでもあの異譚支配者は強かった」
歩きながら、アリスはあの時の事を思い出す。
「少し飛ぼう」
言って、アリスは朱里に手を差し伸べる。
「靴履き替える意味無かったじゃない」
文句を言いながらも、朱里はアリスの手を取る。
アリスは朱里と一緒に空を飛び、クレーターの中心に着地する。
クレーターの中心でアリスはソファを生み出して座る。
「ロデスコも座って」
「ええ。言われなくても」
アリスに促され、朱里はソファに座る。
アリスはテーブルを作り出し、その上に持参していたタブレット端末を置く。
「本当は私のプライベートルームで見ても良かったんだけど、此処で話す方が伝わると思ったから」
「伝わるって、何が?」
「私の罪の重さ」
タブレット端末を操作し、アリスは一つの動画を再生する。
「此処で私は英雄になった。なんて皆言うけど、本当は違う。私は此処で魔法少女に成った」
英雄なんて後付けの記号に過ぎない。アリスにとって、その記号は罪の証でもある。
「此処で、本当の意味で、魔法少女に成ったの」
 




