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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第3章 眠れる■星の■

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異譚54 wish upon a star

 眼下で極光が凍るのを見届けるアリス。


 仲間達が日に一、二度しか使えない魔法を行使する。それほどまでの局面。それほどまでの相手。


 アリスもその局面をただ黙って見ていた訳では無い。


 時間にしてたった数分。その数分がアリスには重要だった。


見えた(・・・)


 閉じていた右目を開ける。


 この形態のアリスの左目は真実を見通す事が出来る。


 この目の前では、全ての欺瞞は意味をなさない。


 例え巨大な身体の奥底に隠していようとも、アリスの目(・・・・・)の前には意味をなさない。


 アリスは致命の大剣(ヴォーパルソード)を構えながら降下する。


 抑えていた魔力を解放し、大剣に魔力を込める。


 アリスの魔力を感知したヴルトゥームは、大輪の花と化した両手をアリスへと向ける。


 人型や寄生植物体もアリスへと殺到する。


『私の邪魔をするな。私の夢を奪うな。私の緑を奪うな。人間なんて、(けが)すばかりの惑星(ほし)の冒涜者の癖に』


 極光が放たれる。


 放たれる極光に対し、アリスも大剣を振るう。


 花の極光と致命の極光が衝突する。


 しかし、純粋な力勝負であれば致命の右に出るモノは無い。


 花の極光は致命の極光に飲み込まれ、ヴルトゥームへと直撃する。


『ぐっ……』


 アリスに迫る人型や寄生植物体は、極光の余波によって全て吹き飛ばされる。


『まだ、まだ……』


 致命の極光で身体の半分を破壊されたヴルトゥーム。しかし、ヴルトゥームは死に絶えない。こんな事で死ねる程、神は生温くはないのだ。


 地面から幾つもの巨大な花が咲く。


 巨大な花は眩い光を放ち、極光をアリスへ放つ。


 確かに、一撃の威力はアリスの方が高いだろう。けれど絶対数はヴルトゥームの方が多い。


「馬鹿正直に撃ち合うつもりはない」


 アリスは放たれた極光の数々を華麗な身のこなしで避ける。


 相手は地に根を張っていて、防ぐか相殺するかしかないけれど、アリスは自由に空を飛ぶことが出来る。馬鹿正直に戦う必要は無いのだ。


 全てを躱しながら降下し、アリスは大剣を構える。


「自分のエゴを惑星(ほし)に押し付ける貴方も、惑星(ほし)の冒涜者」


『ですが惑星(ほし)は生きる。貴方達のようにいたずらに死に向かう事は無い。永久(とわ)に続く楽園になるだけです』


「独り善がりの楽園は誰かにとっての地獄にしかならない。私はそんな地獄で生きるつもりは無い」


 言いながら大剣を振り降ろす。


 放たれる致命の極光を相殺するように、花々から極光が放たれる。


 しかし、致命の極光はその全てを飲み込む。


 二度目の極光もヴルトゥームの身体を消し飛ばす。最早美しさの欠片も無い花の残骸。それでも、ヴルトゥームが死ぬことは無い。


 それでも大きな損傷を受けているのは確かだ。思念で語りかける声も電波の弱いラジオのように聞き取り辛い。


『こ、の先、が……生き、地獄……だと、しても……?』


「その未来を決めるのは貴女じゃない」


 残り少し。最後の一撃を放つべく、アリスは大剣を振りかざす。


 しかし、ヴルトゥームもただでやられるつもりは無い。


『わ、たし……の、楽園の方が、まだ、優しい(・・・)。……アレ(・・)が、居る以上……それは、変わらない……』


 残った片腕を上げる。割れた花が輝き、極光を放つ。


 地面に生える花々も一斉に極光を放つ。


『その、幸福が……どうして分からない……!! 私、で、地獄を……止めようと、いうのに……!!』


「異譚支配者も貴方も、私達からすれば地獄の顕現者。お呼びでないのは、言わなくても分かるでしょ」


 致命の大剣(ヴォーパルソード)を振り下ろす。


 致命の極光は全てを飲み込み、ヴルトゥームをも飲み込む。


 致命の極光に身体を焼かれ、最早原型すら残らない程にぼろぼろになる。


 それでも、まだ()が在る。


 進化した致命の大剣(ヴォーパルソード)の三連撃ですら、ヴルトゥームを完全に倒す事が出来なかった。


 それほどまでの強度。それほどまでの存在。


 アリスは致命の大剣(ヴォーパルソード)を消し、姿を元に戻す。


 もう致命の大剣(ヴォーパルソード)を撃てない。限度である四回目を撃てば、アリスの変身は解けてしまうから。


『ま、だ…………あ……たも、……も……限界、の……はず……』


「うん、限界。でも、それは私に限った話」


 アリスは人差し指を立てて、空を指差す。


 アリスの指差す先では、一つの恒星(ほし)が煌めく。


「言ったでしょう? 手柄を譲る程、優しい子じゃないって」


 直後、恒星(ほし)は急速に降下する。


 全てを焼き尽くす破滅の凶星。


星に願いをウィッシュ・アポン・ア・スター


 ぼそりとアリスが呟く。


 その横を、流星が通り過ぎる。


 自らに落ちる死の流星を前に、ヴルトゥームは全てを諦める。


『……愚、か……ですね……人類……』


 流星はヴルトゥームを飲み込み、全てを焼き尽くす。


 衝撃波と共に熱波が広がる。街一面を埋め尽くす花は散り、空へ舞う。しかし、それは非戦闘区域に限った話しだ。


 流星が落ちた周囲は陥没し、周囲一帯を燃やし尽くしている。


燃ゆる荒れ地に立つのはたった一人の魔法少女。


「ふんっ、愚か上等。地獄だろうがなんだろうが、アタシが全部蹴り殺してやるっつうの」


 半分炎となった髪をかき上げるロデスコ。


「てか、全然一瞬で終わんなかったわね。かっこつかないわ、ほんと」


 ロデスコは上空から降りて来るアリスを見上げる。


「もっと鍛えないとね。今の攻撃を素で撃てるくらいに、ね」


 とんでもない事を言い出すロデスコだけれど、それに突っ込む者はいない。


「大丈夫?」


 ロデスコの元へと降りて来たアリスが、ロデスコを気遣うように言う。


「ええ、全然」


 ふっと余裕綽々の様子で髪をかき上げるロデスコ。


「良かった」


 アリスは安堵したように息を漏らす。


「……勝った」


「ええ、勝ったわね」


 周囲に散るヴルトゥームの燃え屑を見る。


「……全部燃えたわよね?」


「うん、全部燃えた。跡形も無く木っ端微塵」


「そ。なら、悪用はされないわね」


 ヴルトゥームの持つ科学力は今の人類の手には余る。痕跡すら残さずに消し去るのが得策だった。


「……いや、人型が居るわね。面倒だけど、あれも始末しないと」


「ロデスコは休んでても良い。後片付けは私がやる」


「アンタも限界近いでしょ。それに、二人でやった方が早いわ」


 ヴルトゥームには勝った。けれど、戦いはそれで終わりではない。人型や寄生植物体はまだ残っている。


「それじゃ、さっさと終わらせましょ」


「うん」


 頷き、空に飛び上がろうとするアリス。


「あ、ちょっと待った」


 しかし、ロデスコはアリスを止める。


「なに?」


 小首を傾げるアリスを見て、ロデスコは悪い笑みを浮かべる。


「しっかりディナーの予約しときなさいよね」


「分かった。ビュッフェ、ちゃんと予約しとく」


「良いとこよ、良いとこ。安いとこは許さないから」


「分かった」


「言質取ったわよ。さて、それじゃあ後始末しますか」


 勝負(・・)に勝っても戦い(・・)が終わった訳では無い。


 この戦いを終わらせるために、二人は駆け出した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ヴルトゥームのやられっぷりが最高に好きです 最初は余裕があって優雅に振る舞ってたのに、次々と奥の手を出しても次々と破られて、段々追い詰められて余裕がなくなり、最後は口論でも言い負かされて、…
[一言] ロデスコが最高にかっこいい……好き
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