異譚50 我が儘娘
100万PVありがとうございます。
というところで申し訳無いですが、公募原稿書くので更新頻度少し遅れます。
申し訳無いです。
迫る浮遊する花と蔦の数々を、ロデスコはたった一蹴りで全てを焼き払う。
「あら知らないの? 植物って火に弱いのよ?」
ロデスコは爆速でヴルトゥームへと迫る。
そして、まるで豆腐でも切るような軽い足取りで耐衝撃シールドを蹴り裂く。
「アンタが植物でアタシが炎。アタシの方が有利なのは、道理でしょう?」
流れるような動きで裂けた耐衝撃シールドの隙間から入り込み、ヴルトゥームへ迫る。
『控えなさい下郎』
横合いから蔦が飛び出し、ロデスコを弾き飛ばす。
「ぐっ!」
『貴方はただ速いだけです。動きが単純であれば、対処は容易です』
耐衝撃シールドにぶち当たったロデスコは、即座に体勢を立て直して耐衝撃シールドを蹴り裂いて外へと出る。
耐衝撃シールドの外へと出たロデスコを、浮遊する花と蔦が襲う。
ロデスコに迫る花と蔦をアリスの二本の大剣が斬り裂く。
「大丈夫?」
ロデスコを庇うように、ヴルトゥームとロデスコの間に立つアリス。
「あんがと。ったた……」
蔦で打たれた腕をさするロデスコ。
直前で籠手に覆われた腕を滑り込ませる事が出来たとはいえ、咄嗟の防御では完全には防げない。
「だ、大丈夫? わ、わたしが回復するよぅ!!」
サンベリーナがロデスコの腕を治療する。
我慢できるくらいの痛みだけれど、気にしないでいられるのならばそれに越したことは無い。
三人はヴルトゥームから距離を取る。
「アタシの速度が読まれてる。ま、当然っちゃ当然よね。我ながら捻りの無い動きだったもの」
広い場所であればある程度捻りの利いた動きも出来るけれど、耐衝撃シールドの中となると難しい。
「アタシが崩す。アンタが攻めて」
「了解」
ロデスコの意図を即座に理解したアリスはこくりと頷く。
二人は最初と同じように別々の方向へ散開する。
相変わらず爆速で移動をするロデスコ。
蔦、浮遊する花、発光する花の熱線。その全てを掻い潜り、ロデスコは外側から耐衝撃シールドを削る。
アリスは剣槍を射出して、耐衝撃シールドに空いた隙間からヴルトゥームを狙い撃つ。
『小癪』
剣槍はヴルトゥームの蔦に阻まれるけれど、弾かれる事無くしっかりと突き刺さる。
何本も、何本も、アリスはヴルトゥームに鉄の剣槍を射出する。それに合わせて、両手に持った大剣を振るい斬撃を飛ばす。
どんな攻撃をしてもアリスの攻撃は蔦に阻まれる。
致命複合を引き上げる事で、攻撃が通じるようになるのだろうけれど、どうにもヴルトゥームに対する違和感が拭えないのだ。
本気を出さなければいけないのは分かっている。けれど、余力も残しておかなければいけないと頭の片隅で答えが出てしまっているのだ。
星間重巡洋艦の耐衝撃シールドを突破する時に耐衝撃シールドの構造だけではなく、その奥の星間重巡洋艦の構造を少し覗き見る事が出来た。
まだ力に慣れていないので少しの情報しか見る事が出来なかった上に、その情報を論理的に理解する事は出来なかったけれど、アリスの頭の中で答えだけが出た。
明確ではないけれど、確かに信用が出来る答え。
致命の大剣はまだ使わない。それに、考え無しにばかすか放てるような魔法でも無い。体感的な魔力総量は上がっているとは思うけれど、それでも致命の大剣の消費魔力量は桁違いだ。
二人は縦横無尽に駆け回り、ヴルトゥームを翻弄する。
確かにヴルトゥームは堅い。けれど、速度は二人の足元にも及ばない。
『ちょろちょろと目障りな……』
「こんなでっかい船で来るアンタも十分目障りよ!!」
「激しく同意」
アリスは斬撃を止め、両手に持った大剣を浮かせる。
両手を前に出し、手と手の間に紫電を走らせる。
「サンベリーナ、防御」
「りょ、了解だよぅ!!」
サンベリーナに防御を任せ、集中して両手に雷を溜める。
ただの雷。けれど、アリスの魔法は通常の雷よりも威力は高い。
それでも、致命の剣列の雷の大剣よりも威力は劣るため、単体でヴルトゥームの耐衝撃シールドや蔦の防御力を超える事は出来ない。
それはアリスも承知の上だ。
だが問題無い。衝撃は通らなくとも、相手が生物であり体中に水分が含まれているのであれば、電撃は通る。
そのための槍は打った。
周囲に散らばる鉄の槍。そして、ヴルトゥーム本体から伸びているであろう蔦に刺さる鉄の槍。
「上手く避けてね、ロデスコ」
「は?! ちょっ――」
待てとロデスコが言う前に、アリスは雷撃を放出する。
響く轟音。目が眩む程の閃光。
雷撃は一直線に走るだけでは無く、鉄の槍に向かって枝を伸ばすように広がる。
一瞬でヴルトゥームへと到達し、鉄の槍を伝って身体中を走り、その身体をくまなく焼き尽くす。
全身から煙を上げるヴルトゥームを見て、アリスは再度両手に大剣を握る。
『……その程度で、私が死に絶えるとでも?』
煙を上げながらも動き続けるヴルトゥーム。
しかし、アリスは驚いた様子も落胆した様子も無い。
アリスは小首を傾げながら、ヴルトゥームを見やる。
「我が儘娘が私に手柄を譲ると思う?」
アリスがそう言った直後、ヴルトゥームの真上から流星が落ちる。
その炎は全てを吹き飛ばし、焼き焦がす。
衝撃波に目を細めながら、アリスはヴルトゥームからの反撃を警戒する。
だが、炎に包まれたヴルトゥームの中から平然と歩いて出てきたロデスコを見て、反撃の心配は無いと分かり警戒を緩める。
ロデスコは半分炎となっている髪をさっとかき上げる。
「悪いわね、美味しいところ貰っちゃって」
「別に。終わらせるのが一番良いから」
「ふんっ、良い子ちゃんぶっちゃって」
アリスの頭を軽く小突くロデスコ。
かく言うロデスコも、前代未聞の緊急事態を終息させる事が出来た事に対する安堵感は在る。
「よ、良かったよぅ……こ、これでようやくいつも通りの生活に戻れるね」
にこっとポケットの中から顔を出すサンベリーナ。
『いいえ、そうはなりません』
三人の安堵を嘲笑うように、何処からともなく声が聞こえてくる。
三人は即座に、今なお轟々と燃え盛るヴルトゥームへと視線をやるけれど、燃えたままのヴルトゥームに動きは無い。
『この星間重巡洋艦の本当の名は星間移民船ヴルトゥーム。つまり、この船は私その者なのです』
「ならこの船ごと壊せば良いだけの話ね。元々そのつもりだったし、手間は変わらないわ」
『そうはなりません。貴方達にはこの場で死んで貰います』
ヴルトゥームの言葉の直後。
アリス達の居る区画――花の楽園が振動する。
『イオドは良い仕事をしてくれました。空間爆発のデータを自ら提供してくださるだなんて』
キィンッと空間が振動する。
まずいと思った時にはもう既に遅かった。
『簡単に誘い込まれてくださって感謝します。貴方達さえ居なければ、魔法少女は烏合の衆ですからね。では、さようなら』
一際大きな音が鳴ったと認識した瞬間には既に衝撃に包まれていた。




