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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第3章 眠れる■星の■

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異譚49 分岐点

 自身の攻撃が少ししか通用しなかった。


 それは、ロデスコにとって初めて――という訳でもない。


 異譚侵度Aの異譚を幾つかこなしてきた。その内の一つを、一人で踏破する事も出来た。


 その中で異譚支配者と一対一(サシ)で戦い、死闘を繰り広げた。


 口ではその成果を軽く話してはいるけれど、本当は一歩間違えれば死んでいてもおかしくない程の戦いだった。


 その戦いの中、ロデスコは初めて勝てないかもしれないと思った。死ぬかもしれないと、本気でそう思った。


 その時、ロデスコの具足が変化した。


 元々、ロデスコの具足は膝下までの丈だった。そして、具足や服装も今よりも装飾は少ないものだった。


 それが、死闘の最中に変化を起こし、今では世に知られるロデスコの姿となったのだ。


 花の魔法少女と同じように、童話の魔法少女もその見た目に変化を起こす。変化とは成長であり、見た目だけでは無く中身(・・)までもがステップアップ(・・・・・・・)すると言う事だ。


 死ぬかもしれないという危機に心が折れるか、奮起するか。それが、魔法少女の成長の分岐点となる。


 ロデスコには明確な目標が在る。それを叶えるだけの才能と、根性、負けん気が在る。


 それは、今も変わらない。


 神という今までに考えも及ばなかった相手。自身の蹴撃(魔法)が通じない相手。


自分じゃどうする事も出来ないであろう耐衝撃シールドを攻略してみせたアリス。自身の知らない魔法を使い、知らない姿を見せたアリス。


 この決戦に際して、不安と勝気(かちき)の激情がせめぎ合っており、その上で怒りという感情もめらめらと燃え上がっていた。


 勝手に先になんて行かせない。少しでも先に行ったのであれば、直ぐにでも追い付いてやる。


 嫉妬では無い。焦燥では無い。一言で言い表すのであれば、決意だ。


 ロデスコは最初からギア(・・)が入っていた。それが、ヴルトゥームを前にして最高潮に達したのだ。


 燃え上がる炎の化身(魔法少女)


 爆発的加速で、全てを置き去りにして耐衝撃シールドを蹴り開く(・・・・)ロデスコ。


 アリスのように実在を与える訳でも無く、ただ純粋な()で耐衝撃シールドを超える。


 確かな手応えに満足する間も無く、花と蔦がロデスコを襲う。


 ロデスコは即座に花と蔦を迎撃しながら後退する。


 今のロデスコの爆発的加速は、今までのロデスコが本気で加速した時に匹敵する程の速度だ。本気と言う事は、以前の狩人の異譚の異譚支配者を倒す時に使った、超火力による流星を思わせる蹴撃と同等の速度という事だ。


 本気の速度が通常の移動の速度に成り代わる。


 本気の速度はロデスコでも軌道修正が難しい。ちょっと力を込めただけで爆速で動けてしまうというのは、本気の速度の制御が出来ないロデスコにとってはデメリットにしかならない。


「アリス!! アンタも本気出しなさい!!」


 直ぐに直ぐ、力は馴染まない。簡単で単調な攻撃をする事くらいしか出来ない。きっと、ヴルトゥームも直ぐにそれに気付く。


 だからこそ、一人では勝てない。悔しいけれど、これがロデスコの今の限界だ。


「最初から本気出してる。……でも、分かった」


 両手で持っていた十剣(テンソード)を片手で持つ。


致命複合ヴォーパルコンポジット十剣二式(テン・ツー)


 十本の剣が左手に集まり、一つの剣と成る。


 左右の手に一本ずつ握られている大剣。


 致命複合ヴォーパルコンポジットは複合する数が増えれば増えるだけ消費魔力量も増える。


 アリスは一度、致命の大剣(ヴォーパルソード)を放っている。それも、一度に放つ魔力消費量を大きく超えての一撃だ。


 いつものアリスであれば魔力切れ(ガス欠)を気にする程の魔力消費量だけれど、何故だか魔力には随分と余裕がある。それでも、明確に魔力を消費しているという自覚はある。


 無限に魔力が在る訳では無い。それはロデスコも同じ事。


 ロデスコが本気を出した以上、アリスもそれに合わせて本気を出さなければ勝機を失う。


 爆速で暴れ回るロデスコを援護する形でアリスは二本の大剣を振るう。


 アリスの攻撃は一度だけでは蔦を完全に破壊は出来ないけれど、二度三度と攻撃を重ねれば破壊は可能だ。


 一直線に爆速で動くロデスコとは対照的に、高速でトリッキーに動いて連撃を重ね続けるアリス。


『鬱陶しいですね。操り人形(マリオネット)の分際で』


 蔦の先に花が咲く。綺麗な花は花弁をめいっぱい開いて発光する。


 光り輝く花からは煙が上がり、その直後に熱線が放出される。


 熱線は花々を焼き尽くし、地面を融解させる。


「自分の庭を自分で荒らしてちゃ世話無いわね!!」


『種はまだあります。貴方達を排除した後に、また咲かせれば良いだけの事』


 幾つもの熱線が二人を追う。


「む、むむむぅ!! わ、わたしだって、役に立つんだから!!」


 二人の戦いに置いてけぼりになっている事に気付いたサンベリーナは、ポケットの中から顔を出して両腕をばっと上げる。


「お、おいで、黄金虫(コガネムシ)くん達!!」


 サンベリーナが呼べば、何処からともなく大量の黄金虫が飛んでくる。


 黄金虫は蔦に止まると、ハムハムと蔦を食べ始める。


 黄金虫を振り落とそうと動く蔦だけれど、黄金虫は気にした様子も無くハムハムと食べ続ける。


「……黄金虫は広葉樹の葉を食べるのでは?」


 葉では無く、明らかに蔦を食べている黄金虫を見て小首を傾げるアリス。


「わ、わたしの黄金虫くん達はなんでも食べるんだよ!! す、凄いでしょ!!」


「んな事ぁどうでも良いのよ!! アンタ、それ在るんなら最初っから使いなさいよ!!」


「だ、だって!! 回復にも魔力残さないといけないから!! け、結構魔力使うんだからこれぇ!!」


「なら出し惜しみは無し。速攻で叩こう」


「わ、分かったよぅ!!」


 アリスの言葉にこくこくと頷くサンベリーナ。


『花を汚す忌々しい害虫風情が……』


 地面から先の割れた蔦が現れる。割れた先は扇状になっており、扇の端は刺が幾つも付いている。まるで食虫植物であるハエトリグサの様な見た目だ。


 ハムハムと蔦を食べる黄金虫に食らいつく食虫植物。


「む、むむむぅ!! こ、黄金虫くん達を食べないでよぅ!!」


 黄金虫が食べられ、ぷんすこと怒りを露わにするサンベリーナ。


「も、もぐらくん部隊出撃!! 根っこからガジガジして!!」


 サンベリーナの号令で、またもや何処からともなく現れたもぐら達が在り得ない速度で地面を進み、がじがじと根っこや茎を食い荒らす。


「の、のねずみさん部隊も出撃だよぅ!! ガジガジしちゃって!!」


 何処からともなく現れた――以下略。


 野ねずみはガジガジと蔦に噛みつく。


 小さき者達の総力戦。綺麗な花の楽園が、今や虫と小動物が跋扈(ばっこ)する地獄絵図と化している。


『不愉快。不愉快極まりない。共存共栄の余地のない生物は、どうしてこうも不愉快なのか』


「アタシ達からしたら、それ全部アンタへの評価よ!! 人の振り見て我が振り直しなさい!!」


『不要です。数ある頂点の内の一つである私が合わせる必要など無いのです。先導者に合わせるのが、後従の当然の義務です』


 ヴルトゥームの周囲を浮遊する花の数が増え、食虫植物の数も増える。


 浮遊する花と食虫植物はアリスやロデスコに迫る。


『諦めなさい。此処は私の庭です。私の方が有利なのは、道理でしょう?』


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― 新着の感想 ―
[一言] 相手が科学技術を使ってて、マジカル的ななにかではなく純粋な力でなんとかなるなら核爆弾でもずどどどーんってすればあるいは……人は避難してるんだし。まあ、街はぶっ壊れるけど正直しゃーないと思い……
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