異譚47 防衛線
アリス達突入組が星間重巡洋艦に潜り込んでいる間にも、星間重巡洋艦の外では激しい戦闘が繰り広げられていた。
第一層は星間重巡洋艦の衝突によって更地になった個所になる。障害物は無く、真正面から敵とやり合う必要が在る。
第二層は建物が残っている部分になる。街と更地の境界付近になり、障害物を利用して敵の攻撃から身を護りながら、最前線組を支援するのが役目である。
第三層は対策軍本部を防衛する役目に在る。つまり、最終防衛ラインと言う事だ。
既に最前線から空を通って敵が抜けており、第二第三防衛線でも戦闘が開始されている。
特に、前線からアリスが抜けた穴は大きかった。
広範囲及び高火力の魔法を行使できるアリスは、大勢相手の戦闘が得意である。一度に多くを相手取る事が出来るアリスが抜ければ、それだけ一人が倒さなければいけない相手が増えるのだ。
童話組の前衛が抜けた穴として、スノーホワイトとヘンゼルとグレーテルが前線に繰り上がり、第二層にイェーガーとマーメイドが繰り上がった。
アシェンプテルとヴォルフ、シュティーフェルはそのまま後方支援に回されている。
「ヘンゼルとグレーテル、空をお願いできる?!」
「合点」
「承知の助」
ヘンゼルとグレーテルはキャンディケインを出して跨る。
ヘンゼルとグレーテルの出したお菓子は、二人の意志の元で自由に動かす事が出来る。そのため、お菓子に掴まったり跨ったりすれば空だろうが水中だろうが自由に動く事が出来るのだ。
びゅんっと空に飛び上がり、空を飛ぶ人型と戦闘をするヘンゼルとグレーテル。
「たけのこロケット」
「きのこミサイル」
たけのこの形をしたお菓子と、きのこの形をしたお菓子を飛ばすヘンゼルとグレーテル。
空を自由に飛び回り人型を追い回すたけのこときのこ。
無数のきのことたけのこがびゅんびゅんと飛び回る光景はファンシーで可愛いけれど、その爆発の威力はまったく可愛くない。
耐衝撃シールドを物ともせず、爆発は人型の身体をバラバラに吹き飛ばす。
ヘンゼルとグレーテルの二人は大丈夫だと信じ、スノーホワイトは自身の事に集中する。
炎を噴出する三頭の怪物の下から、氷の刺を出現させて串刺しにする。串刺しにされた三頭の怪物は徐々に内側から氷に侵食されていく。
しかして、いかんせん数が多い。三頭の怪物も多いけれど、一番多いのは寄生植物に寄生された生物だ。
「面倒ね。凍りなさい」
迫る寄生植物に寄生された生き物――寄生植物体を一網打尽にすべく、半径百メートルの地面を凍らせる。
氷の地面を踏んだ寄生植物体は一歩ごとに氷に侵食され、スノーホワイトに到達する前に氷漬けにされる。
しかし、それは遠距離攻撃を持つ相手との距離が開くという事でもあり、空を飛べる人型にとっては関係の無い事でもある。
だが問題無い。
スノーホワイトは足の裏に氷のブレードを形成し、氷漬けになった地面を自在に移動する。
優雅に回りながら、敵の攻撃を避け続けるスノーホワイト。
滑りながら周囲に氷の槍を生成し、一斉に射出する。
射出された氷の槍の多くは避けられるけれど、上空から落ちて来た槍に気付かなかった三頭の怪物や寄生植物体は槍に貫かれ、何にも当たらずに避けられた氷の槍は地面に落ち氷の範囲を広げる。
凍結した地面は踏んだ敵を侵食し、徐々に徐々に蝕んでいく。
倒せなくても良い。スノーホワイトは戦い続けるだけで、自身の領域を広げていくことが可能なのだ。
地形すら利用して戦えるため、スノーホワイトも多対一の戦闘が得意である。
ただ、空を飛ぶ敵に対してはあまりに優位に立てない。何せ、空を飛んでいるのだから地面に足を付けないのだから。
しかして、スノーホワイトは一人で戦っているのではない。
突如、空を飛ぶ人型の腕が吹き飛ぶ。また違う人型の腕が吹き飛び、別の人型の腕も吹き飛ぶ。その全てが、武器の付いた腕だ。
「流石。良い腕ね、狩人さん」
『あんた等が下手糞なのよ』
超々遠距離からの狙撃で相手の武装を強制的に解除させるイェーガー。
しかし、耐衝撃シールドを貫通させるために、弾丸の威力と速度に多大な魔力を込めているので連発が出来ない。
加えて、どういう原理かは分からないが、武器装着部である腕を吹き飛ばしても即座に反対の腕に武器が生成されるので、腕を吹き飛ばしても一時しのぎにしかならない。
それでも、相手の攻撃の手が緩むのでかなりありがたいのだけれど。
スノーホワイトは幾つもの氷の槍を生成し、何度も何度も射出する。
「まったく、数が多いわね……」
『……私に、任せろ……』
マーメイドは空を泳ぎ、敵の中に突っ込んでいく。
人型が自由自在に空を泳ぐマーメイドを撃ち落とそうとするけれど、マーメイドは縦横無尽に人型の攻撃を避ける。
避けながら、マーメイドは口を開く。
ぷるんっと瑞々しい口からはなたれるのは――
『ほげ~~~~~~~~~~っ♪』
――美しい歌声では無く、適当に放たれた音程の外れた歌だった。
因みに、これはふざけている訳では無い。
マーメイドの歌は上手ければ仲間を癒す魔法となり、下手であれば相手を苛む歌となる。
音は衝撃波となり人型を吹き飛ばし、人型の攻撃さえも弾き飛ばす。
人型を無差別に襲うマーメイドの歌声。
地上に居ても聞こえてくる不快音声に顔を顰めるけれど、マーメイドがしっかりと仕事をしている証左なので文句は言わない。
『上は爆弾魔と騒音人魚。下は氷河期女。酷ぇ絵面……』
「最高にクールじゃない」
『クレイジーの間違いだろ』
軽口を挟みながらも、しっかりと敵を倒し続ける二人。
だが、油断は出来ない。
敵の攻撃は単調だが非常に厄介極まるのだ。
射出される光線には貫通と爆破という二つの性質がある。直撃した瞬間に爆発をし、更に貫通もするので障害物の後ろに居ても弾が届き、当たれば爆発をして周囲の者も巻き込まれる。
また、寄生植物の種を射出して相手に寄生させる事も出来るようで、既に魔法少女が何人も寄生されている。
向こうの数は減らないというのに、こちらの数は徐々に減っていく。
いつ解決するのか、いつ戦闘は終わるのか、それが分からない。ゴールを教えられずにマラソンをさせられている気分になる。
「出来るだけ早くしてね、三人とも……」
今は、三人を信じて戦うしかない。
勝って帰ってくるであろう三人を失望させないように、しっかりと護る。それが、スノーホワイト達の役目である。
「こっちは任せてね。絶対に皆を護り抜いてみせるから……!!」
全員は無理だと分かっている。人を選んでいると言われても仕方が無いけれど、アリスの知っている人だけでも護ってみせる。
一人に護れるモノには限りがある。だからこそ、その限りの全てを護ってみせる。
絶対に、アリスやロデスコ、サンベリーナを悲しませたりはしない。
自分と同じ思いは、もう誰にもさせない。