異譚46 partner in crime
毎回感想貰えるのとても嬉しいです。
レビューとかもとても嬉しいです。
そもそも読んでくれてる事自体嬉しいです。
馬鹿と悪役は高い所が好きというロデスコの暴論を信じ、アリスは炎雷の大剣で天井をぶち抜いた。
螺旋階段を作り、ぶち抜いた天井を上っていく。
「此処、破壊しなくて良いの?」
ロデスコが言えば、アリスは周囲を見回す。
広大な敷地の壁一面に収納された火星人の脳。ヴルトゥームが与えた、不死のテクノロジーの詰まった脳。
ヴルトゥームの言う事が真実であれば、此処を壊したところで外の戦況に大きな変化は起きない。
だが、それ以外の問題がこの場所には在るのだ。
ヴルトゥームに勝ったその後、人類はこの宇宙船を調べるだろう。隅から隅まで、全てを調べ尽くすはずだ。今の人類に無い科学技術を持った宇宙船は、科学者や各国の首脳陣から見れば宝の山に違いない。
耐衝撃シールド。星間航行技術。寄生植物。宇宙船。そして、不死。その全てが、魔法では無く科学で実現しているのだ。
つまり、今すぐにではなくとも、人類も到達出来るはずの技術と言う事になる。それも、魔法などという選ばれた者にしか使えない代物では無く、誰もが使える技術としてだ。
アリス達が認知していないだけで、それ以外の技術も高度なものだろう。
この戦いの先、この国はこの技術を独占するはずだ。その立場を取れる。何せ、自国のみでこの脅威に立ち向かったのだから。分け前を与える必要が無いのだ。
この技術を独占した結果、自国のみ科学技術が発展していく。そうなれば、各国間のパワーバランスは大きく傾くだろう。不死なんて、その最たるものだと考えて良い。
「……壊そう」
「分かった。ならアタシが――」
「時間が無い。私がやる」
アリスの周囲を炎が舞う。
炎は瞬く間に花々を燃やし、壁一面を融解させ、こぼれ出た不死の脳を焼き尽くす。最早原型など残らない程に、最早それが何だったのか分からない程に、全ての判別が出来なくなるまで燃やし尽くす。
この戦いにおいて、まったく必要のない殺し。けれど、先の事を考えれば必要な殺し。
全て燃え尽きたのを確認した後、アリスは炎を消す。
「行こう。早く終わらせないと」
螺旋階段を上るアリスの背中にロデスコは言葉を投げる。
「……全部終わった後に言うのは卑怯かもだけど、アタシとアンタで決めた事だから。責任アタシにも在るわ」
だからこの殺しを一人で背負い込むな。言葉にはしなかったけれど、ロデスコの言葉の真意は理解できた。
「……そう。なら、共犯者ね」
「仲間よりよっぽど良い関係ね」
ロデスコが笑って言えば、アリスも少しだけ口角を上げる。
「確かに」
少しの違い。けれど、明確に笑みを浮かべるアリスを見て、サンベリーナは慌てて両手を上げて主張する。
「わ、わたしも! わたしも見てたから共犯者だよ! だ、だから大丈夫だよ、アリス!」
「そ。ありがとう」
礼を言って、アリスはサンベリーナの頭を撫でる。
「は、はわわわわっ」
アリスに撫でられて嬉しそうに顔を弛緩させるサンベリーナ。
サンベリーナを片手間に撫でながら船内を破壊し、三人は上へ上へと上がっていく。
途中、幾つかの施設を通ったけれど、そのどれもがアリス達にはさっぱり分からないものだった。
しっかりと周囲を警戒しながら、サンベリーナがぼそりと気になっていた事を漏らす。
「あ、あの変な黒い靄、何だったんだろうね……?」
あの時、ヴルトゥームがなにがしかを言おうとした時に現れた、正体不明の黒い靄。
分かっているのはこの三人で戦っても勝てないという事実だけだ。世界中の魔法少女を集めたって、勝てる見込みは無いだろう。
それほどまでに圧倒的な威圧感を持った存在だった。
光さえ飲み込む黒い靄から見えた燃える三つの目。その目には確かな知性を感じた。
「さぁね……今のアタシ達じゃ勝てないって事くらいしか分かんないわよ」
「同感。多分、致命の大剣も通じない」
相手に何が通じるのかすら分からない。そもそも、死という概念を持っているのかも定かではない。
不死身の化け物なんて居るのかは分からないけれど、不死のテクノロジーがある以上、在り得ないとは言い切れない。
「その話は後で良いでしょ。今は、目の前の敵に集中しなさい」
「わ、分かったよ」
そこで三人は会話を止めた。
丁度良く、という訳ではないけれど、目的地にたどり着いたからだ。
炎雷の大剣で建物を壊し、辿り着いた先は目を疑う程に美しい庭園だった。
色とりどり大小様々な花々が咲き誇る絶景に加え、鼻孔をくすぐる蜜の甘い香り。
思わず見惚れそうになるけれど、三人の目的は庭園では無い。その先、せり上がった丘の上に、ソレは居た。
この世のモノとは思えない程、美しく大きな花。その花の中心から生える絶世の美女すら凌駕する美しい女性の上半身。
まるで御伽噺に出てくる妖精のような、神話に出てくる神様のような、そんな様相。異譚支配者の時点で相当な美しさを誇っていたけれど、実物はそれ以上の美しさだった。
長い睫毛の並んだ美しい目蓋を、ゆっくりと上げる。
『来ましたか。ようこそ、私の庭園へ。随分と乱暴な訪問ですね』
「荒いノックで御免遊ばせ。地球ではこれが普通だから、嫌なら宇宙に帰りなさい」
『嫌ならルールを変えれば良いだけの話です。勝者にはその権利が在るのですから』
優雅に両腕を広げるヴルトゥーム。
攻撃の動作かと身構えるけれど、ヴルトゥームに攻撃の意志は無いようで、庭園を紹介するように見回す。
『此処の花々は私の惑星の原生植物です。地球には無い、美しい花でしょう? この花々を繁栄させ、私の惑星をもう一度取り戻す。それが私の悲願なのです。地球は良い。花々が生きる土壌がしっかりしています。少々邪魔も居ますが……私が覇権を握れば大した事は無いでしょう』
すっと広げた両腕をアリス達に向ける。
『どうです? 花の楽園を創りたくはありませんか? きっと、宇宙一美しい惑星になりますよ』
「悪いけど、外来生物はお断りしてんのよ。アンタもアンタの惑星のモンも漏れなく全部駆除対象よ」
ガシャンッと具足を鳴らすロデスコ。
炎を巻き上げ、既に臨戦態勢である事を示す。
「それに、順番が逆。提案の前に侵略行為をしている時点で、交渉決裂待った無し」
炎雷の大剣を構え、背後に半透明の剣を円形に浮遊させるアリス。
「そ、そうだよ!! しょ、植生の上書きなんて許さないんだから!! お、お花見が出来なくなっちゃう!!」
サンベリーナは即座に回復魔法を使い、三人に微量ながらかかっていた幻惑の効果を打ち消す。
入って来た途端に鼻孔をくすぐった蜜の甘い香りは、ヴルトゥームの幻惑の権能を運んでいたのだ。
それにいち早く気付いたサンベリーナは即座に魔法でその効果を打ち消したのだ。
ヴルトゥームがお喋りだったのもその時間を稼ぐためだったのだけれど、幻惑が効かないとなるとお喋りをする必要も無い。
最初から言葉など要らないのだ。邪魔なモノは全て排除して、この地球の頂点に立てば良いだけだ。
『そうですか。では、始めましょう』
ヴルトゥームの周囲に花が浮かぶ。
花は意思を持っているように自由に動き回る。
『この惑星は、私がいただきます』