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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第3章 眠れる■星の■
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異譚45 不死のテクノロジー

「うぇっ……あ、アリスのポッケで吐かなかった。偉いよ、わたし……ケポケポ」


 言いながら、気持ち悪いのかまたもや吐いてしまうサンベリーナ。


 いかに異譚に慣れていようとも、この光景は見るに堪えない。


 ただグロテスクなだけであれば、サンベリーナも吐かなかったはずだ。


 これは人としての尊厳が失われている。ヴルトゥームは火星(アイハイ)人の脳だと言った。つまり、火星(アイハイ)人にも身体や頭は在ったのだ。


「コレ、生きてんの?」


『ええ、生きていますよ。彼等はこの私の信奉者。末永く生きて貰わなければ困ります。ゆえに、彼等には不死(・・)を与えたのです』


「不死……?」


『はい』


 ヴルトゥームの返答と共に、何処からともなくホログラフの映像が投影される。


 映像に、恐らく火星(アイハイ)人と思われる人間が映し出される。


『生物が生きるのに必要不可欠なのは脳です。彼等の脳を摘出し、彼等の脳と植物を融合させます。ただ、それだけは不死には成り得ません。長寿にはなるでしょうが、いずれ死を迎える事は必至です。ですので、また別の生物と融合させました』


 映像に映し出されるのは、火星(アイハイ)人の脳と見た事の無い生物。


 半透明で不定形の生物。それが何なのかは分からないけれど、クラゲのようにも見える。


 その二つは映像の中で融合を果たした。というより、脳に吸収されたといった表現の方が正しいだろう。


『永久を生きる不定形の生物です。別の惑星の原生生物で、研究のために捕獲していましたが、思わぬところで役に立ちました。この生物は火星(アイハイ)人の脳と相性が良かったのです』


 そうして完成した不死の脳は培養液に満たされた入れ物に収納される。


『そうして、水と光で永久に生きながらえる脳が完成したのです。先程燃えてしまったモノはもう無理ですが、散らばっているだけであればまだ回復の余地はありますね』


 ヴルトゥームがそう言うと、地面から数人の女性が現れる。


 背の高い、美しい見た目をした女性達。しかし、まともに見えるのは顔だけだ。蔦で編まれた身体に、身体から直接生えた葉と花弁の衣服。髪も葉や花弁で出来ている。


 突然現れた人型に警戒をする三人だけれど、人型に敵意は無く、三人の足元に落ちる脳を拾って培養液の入った箱に入れる。


「ま、つまりただ生かしてる(・・・・・)だけって事ね。はっ、趣味が悪い事この上ないわね」


 胸糞が悪いと言わんばかりに吐き捨てるロデスコ。


 生かされている(・・・・・・・)のと生きている(・・・・・)のとでは意味が違う。


 この脳達はただ生かされているだけだ。人として生きている訳では無い。


『私は、私の信奉者に私の惑星(ほし)テクノロジー(・・・・・・)を与えているだけです。双方、同意の上ですよ』


「どっちでも良いわそんな事。どっちにしたって、アタシが気に食わないって話よ」


 相手の事情なんてどうでも良い。そういう生き方を選ぶ事自体が気に食わない。


『それに、自由を奪っている訳ではありません。外で戦っている人型は、彼等が動かしています。何度でも使える、老いる事の無い身体です。使い捨ての身体なので、何度でも出撃可能です。通常では行動不可能の場所での行動が可能なので、生身よりも便利ですよ』


 女性の人型は脳を回収した後、自分達が出て来た場所へと向かう。


 そして、培養液の入った箱ごと地面に消えていく。


「どうりで、数が減らない訳ね……」


「でも、此処さえ壊せば終わる話」


 人型を操作する脳さえ潰してしまえば、人型の動きは止まる。


『いえ。そうなれば別の脳を直接埋め込むまでです。素材など吐いて捨てる程在るので、何体でも生み出せますよ』


「どっちでも良いっつうの。要はアンタを倒せば良いだけの話なんだから」


『それは早計というものです。私の科学力さえあれば、この惑星は更なる進化を望めます。それに、貴女にとっても悪い話では無いはずですよ、アリス』


「私?」


『ええ、この戦い。いえ、この異譚の溢れる世界の――』


 ヴルトゥームは言いかけ、言葉を止める。


 いつの間にか、そう、本当にいつの間にか、そこにソレは存在した。


 ソレは光さえ飲み込む程の黒い靄だった。何も反射しない、だたの闇。見るだけで怖気が走り、内から畏怖と不安が溢れ出る。


 知らず、アリスとロデスコは後退った(・・・・)


 一目見て分かる。勝てない(・・・・)


 一挙手一投足を掌握されているような圧迫感。心底から逃げたくなる威圧感。喚き散らしたくなる程の嫌悪感。


 その全てを飲み込んでソレと対峙出来ているのは、ひとえに二人が戦いに慣れていて冷静だったからだ。


 サンベリーナはあまりの恐怖にがくがくと震えて涙を流している。


 ソレが何なのかは分からない。けれど、それが圧倒的な強者であり、この地球上の誰も届き得ない存在である事は理解出来てしまうのだ。


 光すら吸収する闇から、三つの光(・・・・)が浮かび上がる。


 燃え上がる炎のような、闇夜に浮かぶ凶星のような妖しい光。何故だか、それが目である事は理解が出来た。


 その闇が顕現していた時間はたった数秒。けれど、永遠に感じる程の恐怖をこの場に居る全員に与えた。


 闇は何をする事も無く、姿を消す。


 瞬間、三人は同時に肩の力が抜ける。


『……口が過ぎましたね』


 ヴルトゥームが唐突に結論を告げる。平坦な声音に心なしか安堵の色が見えるのは、きっと気のせいでは無いだろう。


 進化前の致命の大剣(ヴォーパルソード)と拮抗する程の科学力を持つヴルトゥームですら恐れる相手だと言う事だ。


『どうやら、私達は敵対するしかないようです』


 アリス達からすれば分かりきった答え。けれど、ヴルトゥームはそれを再認識したと言った様子だった。


『では、交渉は決裂と言う事で。どちらがこの惑星の頂点に相応しいか、雌雄を決するとしましょう』


 それだけ言って、ヴルトゥームはアリス達へのコンタクトを中断した。


 だが、三人はそれどころでは無かった。


「なに、アレ……」


「わ、わわわわ、分からないよぅ!!」


 余程怖かったのか、しゃくりあげるように涙を流すサンベリーナ。


 流石のアリスも哀れに思ったのか、サンベリーナの頭を優しく撫でる。


「……手は出されなかった。多分、ヴルトゥームに口止めをしに来ただけだと思う……」


「それほど重要な事を()らそうとしてたって事ね……」


 アリスは深く深呼吸をする。


 アレが何であるのかは、正直とても気になる。けれど、目下の危機を後回しにするべきではない。


「……行こう。今はヴルトゥームを倒さないと」


「そうね。アレについては後で考えましょ。ほら、アンタも泣いてないでしゃんとしなさい!!」


「う、うぅ……っ、わ、分かってるよぅ……」


 涙と鼻水でべしゃべしゃになった顔をアリスのポケットで拭うサンベリーナ。


 アリスは至極嫌そうな顔をして、サンベリーナを摘まみだしてハンカチで包んでから反対側のポケットにしまう。


 サンベリーナは苦しそうにしながらもポケットから顔を出す。


「行くわよ」


「うん」


「うん!! で、何処に行くの?」


「「……」」


 サンベリーナの問いに、二人は顔を見合わせる。


 確かに、誰もヴルトゥームの居場所を知らない。


「とりあえず上に行くわよ」


「その心は?」


「バカと悪役は高い所が好きだって相場が決まってんのよ」


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― 新着の感想 ―
ニャル様か? ニャル様か~~?
[一言] 燃える三眼さん居るじゃん、やめてくれよな! まあなんか手出しはしてこないっぽいのでありがた……いやありがたくないな……
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