異譚44 人間
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耐衝撃シールドの内側へと入りこむ事に成功した三人。しかし、耐衝撃シールドの内側に入り込んだと言う事は、孤立無援という事でもある。
このまま敵陣へと突っ込むので、必然的に敵の数も増える。
アリスは致命の剣列を展開し、炎と雷の大剣を左右に持って敵を迎撃する。
ロデスコも具足で敵を両断し、炎で敵を焼き尽くす。
「どっから入る?」
「敵が出てくるところから」
「ま、そうよね」
「サンベリーナ、どこから出て来てるか分かる?」
「あ、えっと……あ、あそこだよ!!」
ポケットの中から顔を出して一方を指差すサンベリーナ。
よく見やれば、一番下の花弁とその上の花弁の間から続々と人型が現れていた。
しかし、三頭の獣はまた別のところから出て来ているようで、花弁と花弁の間からは人型しか出てこない。
「ロデスコ、着いてきて」
「了解。てか、アンタ居たのね」
「い、居たよぅ!! ずっとアリスのポッケの中に居たんだから!!」
素でサンベリーナの存在を忘れていたロデスコが思い出したように言えば、サンベリーナはアリスのポケットの中からぷんぷんと怒ったように両手を上げる。
三人は人型を蹴散らしながら、人型が出入りしていると思われる場所に向かう。
しかし、花弁と花弁の間には何も無く、在るのは花弁と花弁が重なる溝のみだった。
「嘘吐き」
「う、うううう嘘なんか吐いて無いよぅ!! し、信じて、アリス!!」
ロデスコが言えば、慌てたように弁明をするサンベリーナ。
「いや、此処で合ってる。見て」
アリスが指差す方を見やれば、二人は顔を顰める。
「うぇ……何コレ……」
「わ、わわわっ……歯磨き粉みたいに出てくるよ!?」
「なにその独特な例え方?」
花弁と花弁の隙間。
サンベリーナの例えを借りるのであれば、歯磨き粉の入ったチューブから捻り出された歯磨き粉のように、人型は隙間から出現している。
体表をぬめぬめとした粘液で湿らせた人型は、その見た目も相まって非常に気味が悪かった。
ともあれ、此処は出口だけれど入り口では無いようだ。
「これじゃあ入れない」
「壊したところで、通れるかも分からないものね……」
人間のような見た目をしてはいるけれど、人型は真っ当な人間ではない。隙間から捻り出ている事から、まともな通路になっているとは思えない。
「……マーメイドを連れて来た方が良かったかも」
マーメイドであれば音で地形や形を把握する事が出来る。今回のような建物の捜索にはもってこいの能力だ。
「アンタリストラね」
サンベリーナにロデスコが言えば、サンベリーナは慌てたようにアリスを見上げる。
「わ、わたし頑張るよアリス!! す、すっごく頑張るよ、アリス!! ポケットに入るから持ち運びも楽だよ!!」
「大丈夫。サンベリーナは頼りにしてる」
「そ、そうだよね!! そうだよね!!」
にぱっと嬉しそうに笑みを浮かべるサンベリーナ。
「ロデスコ。此処を割ろう」
「まともな通路になってるとは思えないけど?」
「まともな通路に入るまで壊せば良い話。それに、此処を潰せば人型が出てくる頻度を減らせる」
「後ろの負担も減らせるって訳ね。オッケー、じゃあ壊しましょう」
ロデスコが花弁を蹴って具足を鳴らす。
「致命複合・二剣」
炎と雷の大剣が融合し、一本の大剣になる。
「じゃあ、行こう」
「ええ」
アリスが炎雷の大剣を振るい、花弁を壊す。
花弁には耐衝撃シールドは備わっていないのか、炎雷の大剣で簡単に壊す事が出来た。
だが、予想通りそこに道は無い。隙間らしいものは在るけれど、流石にそこは通れない。
「後ろから来ても面倒だし、さっさとぶっ壊しま……って、マジ?」
二撃目に移ろうとしたところで、朱里が面倒くさそうに声を上げる。
アリスが破壊した個所がみるみるうちに復元していっているのだ。瞬く間に元の花弁に戻ったのを見て、朱里は面倒くさそうに溜息を吐く。
「面倒ね。アンタ一人で行ける?」
「余裕」
言って、アリスは即座に炎雷の大剣を振るう。
「付いてきて」
「りょうかいりょうかい」
壊し続けるアリスの後をぴったりと付いて行くロデスコ。
壊し続けている間にも、みるみるうちに再生していく星間重巡洋艦。
アリスが壊し続けているので前には進めているけれど、後ろは既に再生されている。
「……これ、閉所恐怖症だったら失神ものよね」
「で、出口とか、本当に在るのかな?」
「無きゃ困るわよ。アタシ達ぺしゃんこになっちゃうじゃない」
ずんずん進んでいく三人。
そうして、ようやく炎雷の大剣以外の光源が目に入る。
出口が在った事に安堵する三人だったけれど、その光景を見て唖然とする。
「……何、これ……」
そこは半球状になっている広場だった。
幻想的な花を咲かせる植物達が床一面に広がり、天井の中心には太陽光と見紛う程の明るさと自然さを持つ照明が備わっている。
だが、それだけでは唖然とする事は無い。問題は、壁一面に在る窓だ。
半球状の壁から天井にかけて緑色の光を放つ窓が規則的に並んでいる。アリス達が出て来たところも例外では無く、アリス達の足元には硝子の破片と何やら分からない水、そして――
「何コレ?」
――何やらよく分からない、緑色の物体が散らばっていた。
ロデスコが足先でつんつんと突く。
『人としての心は無いのですか? 惑星が違えど、彼等も人なのですよ?』
何処からともなく、聞こえてくる声。この声に、アリスは覚えがあった。
「ヴルトゥーム……」
『よくご存じですね。私なぞ、枯れた大地に眠るだけだった存在だというのに』
「物知りな猫が居んのよ。アンタが大した強さも無い事くらい知ってるわ。大人しく降参して、さっさと宇宙に帰ったら?」
挑発するようにロデスコが言う。
だが、ヴルトゥームは冷静に言葉を返す。
『いいえ、帰りません。私の悲願は、この緑の惑星でのみ果たされます。でなければ、彼等の信奉する神として、そこに散っている彼等に申し訳が立たないというものです』
少しも感情の伺えない声。それが本音かどうかは分からない。
けれど、一つ気になる事を言っていた。
「ち、散らばってる……?」
『ええ、貴女達が散らした命ですよ。知らぬとは言わせません』
「まさか……!!」
ヴルトゥームの言葉を聞いて、ロデスコは何かに気付いたかのように足元の緑色の物体を見やる。
「これ……これ、人間なの?」
『ええ、それはまごう事無く、人間です。貴女達とは違い、火星人ではありますが』
ヴルトゥームはロデスコの言葉を肯定する。
「じゃ、じゃあ、この壁一面に在るのって……!!」
「これも、人間……? でも、明らかに要領が……」
散らばった緑の物体は、明らかに人としての要領が足りない。
アリスは近くに在る窓の中を覗く。
その中には両手で包める程の緑色の物体が入っていた。
緑色。けれど、少しだけ覚えのある形をしている。実物では無い。図鑑や理科の教科書にイラストとして載っているのを見た事が在る。
「これ、まさか……」
『ええ。火星人の脳です』
何でも無い事のように、ヴルトゥームは言い放つ。
「う、うぉぇ……っ」
人間の脳だと聞いた瞬間、サンベリーナはアリスのポケットから顔を出したまま嘔吐する。
アリスとロデスコは吐く事はしなかったけれど、それでも胸糞悪いものを見たように顔を顰めた。
 




