異譚43 古代的魔法少女形態
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イェーガーの援護を受けながら、アリスは背後に追いすがる敵をぶっ千切る。
致命の剣列を全て集め、一つの大剣を生み出す。
致命の大剣。アリス最大の魔法にして、一撃必殺の魔法。
「……やっぱり」
手元に在る致命の大剣はやはりアリスの知っている見た目とはかけ離れた物だった。
無骨だった大剣の意匠は煌びやかに彩られている。古代的でありながら現代的、現代的でありながら未来的。そんな見た目をした大剣の刀身は一切の光の反射を許さない程に、また深い闇を思わせる程に黒かった。
「く、黒い、致命の大剣……?」
「危ないからポケットの中から出ないで」
目に見えた明らかな異常に困惑するサンベリーナ。しかし、アリスは構わずサンベリーナの頭を押してポケットの中に詰め、致命の大剣を握る。
耐衝撃シールドに直撃するその瞬間、アリスは躊躇う事無く致命の大剣を振るった。
強烈な衝撃がアリスを襲う。だが、あの時の直撃程ではない。
黒い極光が耐衝撃シールドに弾かれる。四方八方に飛び散る黒い極光は地面を穿ち、建物を破壊する。
『ちょっと!! アンタが街を破壊してどーすんのよ!!』
「サンベリーナ!! 背後は任せた!!」
「わ、分かったよぅ!! 絶対護るからねぇ!!」
『いや聞けし!!』
ロデスコを無視して話を進める二人。ポケットの中で声を上げ、アリスに防護魔法をかけるサンベリーナ。
『アリス!! いったん止めて!! 味方が巻き込まれちゃうわ!!』
「大丈夫……っ!! もう少し……っ!!」
『もう少しでこっちが死にそうなんですけど!?』
もう少し、あと少しでナニカが掴めそうなのだ。
アリスは今まで致命の大剣を、全ての致命を揃えた究極の魔法くらいにしか捉えていなかった。
だが、その思考は浅かったと言わざるを得ない。
アリスの致命の大剣は耐衝撃シールドには効いていない。つまり、耐衝撃シールドへの致命が無いと言う事になる。
結論、アリスの致命の大剣は完全ではない。今目に見えている変化も含めて、致命の大剣はまだまだ進化の余地があると言う事に他ならない。
ヴルトゥームの科学はアリスの及び知らぬ代物だ。及び知らぬ代物に対する致命など分かるはずもない。
だから、結局のところ、求められるのは純粋な破壊力だ。
生半な魔法では難しいだろう。けれど、アリスが今手に持っているのは最強の魔法、致命の大剣だ。
その致命の大剣も、今や進化を遂げている。それを、今まさに実感している。
「あ、アリス……大丈夫?」
サンベリーナもアリスの致命の大剣を何度か見ている。致命の大剣の一回の消費魔力量もおおよそだけれど理解はしている。
先程から、アリスはその魔力消費量を大きく超えている。
「大丈夫。まだまだ全然」
アリスの目には目前の障害しか映っていない。
「こんなものじゃない……致命の大剣は、こんなに弱くない」
「あ、アリス……?」
致命の大剣がもっと強い事をアリスは知っている。記憶に無くとも憶えている。
思い出せ。思い出せ。思い出せ。
アレを殺した時の事を。思い出せ。■■■■■■■を殺した時の事を。
忘れていても知っているはずだ。忘却は枷の代償。枷の一つは外されて、忘却の少しは蘇ったはずだ。
思い出せ。自分が何者であるか。
思い出せ。自分がどれほどの者なのか。
この世にふたりと居ない、■■■■だと思い出せ。
致命の大剣の古代的に見える意匠がほんのりと光を放つ。
アリスの服が形を変える。
髪は黒く短くなり、肌は焼けたように褐色に色付く。空色のエプロンドレスは色を薄くし、最早白と見紛う程度にしか青を残さなかった。袖は全て無くなり、手首には黄金に煌めくバングルがはめ込まれる。
黄金と宝飾の込められた髪飾りと襟飾り。アリスの左目の下まぶたから黒い線が伸び、その少し横から先の丸まった黒い線が伸びる。
その様相を一言で表すのであれば、エジプトのファラオが当てはまるだろう。
肩まで覆う襟飾りの下から、青色の外套が伸びる。
「あ、あああああアリス!? あ、アリスが、え、エキゾチックになったよぉ!! 嬉しい綺麗最高!!」
ポケットの中から顔を出して興奮するサンベリーナを気にした様子も無く、アリスはいったん致命の大剣を止める。
致命の大剣極光はなりを潜め、アリスは耐衝撃シールドから離れる。
サンベリーナは喜んでいるけれど、戦場に居る誰もがアリスのその異質さを感じ取っていた。
今までに感じた事の無い魔力量。そして、魔力の質。あまりにも異質。魔法少女とも、異譚生命体とも違う魔力。
敵も、味方も、誰も彼もがアリスに注意を払う。
誰の目も気にした様子も無く、アリスは星間重巡洋艦のみに注意を払う。
アリスは右目を閉じ、左目だけで星間重巡洋艦を見やる。
「……なるほど。空間を断裂してるのね」
耐衝撃シールドは空間を断裂させているのだ。空間が断裂されているからこそ、魔法が通らない。魔法だけでは無く、人も、物も通らない。
空間と空間の間に虚無が在る。その虚無はあらゆるものを拒絶する。だから何も通らない。虚無は何も通れない。
分かっていた事だけれど、かなり高度な科学だ。今の地球の科学など足元にも及ばない程の科学力。
だが問題無い。科学が負けていても、魔法では負けていないのだから。
「ロデスコ。後に続いて」
ロデスコの返事を聞かず、アリスは致命の大剣を握る。
アリスの致命の大剣に含まれる致命が更新される。
相手が虚無であれば、そこに実在を与えてやれば良い。アリスの致命の大剣であれば、それが可能なのだから。
高速で星間重巡洋艦へ迫る。そして、致命の大剣を振るった。
たったの一撃。今までの拮抗が嘘のように、耐衝撃シールドに大きな穴が開いた。
「わ、わわわっ!! す、凄いね、アリス!!」
きゃっきゃっとポケットから顔を出して喜ぶサンベリーナ。
「そうね」
サンベリーナを見てふっと笑みを浮かべるアリス。
その笑みを見て、サンベリーナははわわと顔を赤くする。
「アンタ、随分とイメチェンしたじゃない」
後に続けと言われたロデスコは、アリスの言葉を疑う事無くその後に続いていた。
しかし、アリスを見る目は少しばかり厳しい。見た事の無いアリスの恰好や、感じた事の無い魔力の質。信頼できる仲間だとは言え、警戒をしてしまうのは当然だ。
「……ほんとだ」
ロデスコに言われて気付いたのか、アリスは自身の恰好を見て驚いたように目を見開く。
「ほんとだって……アンタねぇ……」
見た事が無い恰好をしていて、感じた事の無い魔力の質。けれど、変わらないアリスの反応に思わず警戒が緩む。
アリスが致命の大剣を消せば、アリスの姿も瞬く間にいつもの姿に戻る。
「ひとまず、行きましょう。後ろも騒がしくなってきたからね」
ロデスコが進む事を促せば、アリスはこくりと頷いた。