異譚41 開戦
90万PV超えました。ありがとうございます。
童話の魔法少女達がお昼ご飯を食べ終わった頃、まるでタイミングを見計らったように強烈な魔力をこの街に残った魔法少女達全員が感知する。
屹立する星間重巡洋艦の船体に山なりに光線が幾つも浮かび上がる。
光線の部分を境界にして、船体の表面が剥離していく。
それはまるで巨大な花のように、美しくも雄大に花弁を広げる。
花の中央には一本の円柱型の建物が屹立しており、円柱の最上部には半球状の光る部位が存在している。
星間重巡洋艦とは同型の船の総称である。本来のこの船の用途は惑星間移民のための移民船である。
星間移民船ヴルトゥーム。それが、この船の本当の名である。
だが、この場合移民とはつまり侵略を意味する。それは、本来の用途とはかけ離れた内容だ。
この移民船ヴルトゥームは本来の用途を既に失って久しい。だからこそ、星間重巡洋艦とヴルトゥームは呼称する。移民とはかけ離れてしまったこの船を、移民船と呼ぶことは出来ないのだから。
ただ生き残るため、ただ奪うための船。
全ては、新たな故郷を手に入れるために。
『出撃なさい、我が尖兵達』
星間重巡洋艦からヴルトゥームの尖兵が出撃する。
開戦の合図は無い。これはただの侵略だ。奪うための行為だ。そこに正当性は無い。故に、戦時国際法も意味をなさない。
静かに、けれど確かに、戦闘は始まった。
戦闘開始前、幾度となくブリーフィングは重ねられており、魔法少女達の配置も既に決まっている。
そのため、魔法少女達は戦闘行動開始と告げられた段階で、即座に自身の持ち場へと向かった。
戦線は三層で構成され、最前線である第一層にアリス、朱里、みのり、第一層から漏れて来た敵を処理するための第二層に白奈と菓子谷姉妹、最終防衛ラインである第三層に珠緒と詩、そして後方支援として笑良、瑠奈莉愛、餡子という配置になっている。
魔法少女は出撃組と後方支援組とで分けられる。
出撃組には歴戦の魔法少女達が選ばれ、後方支援組にはまだ魔法少女として日の浅い者が選ばれる。
童話組は瑠奈莉愛と餡子は日が浅いため後方支援組になる。また、熟練の魔法少女である笑良も後方支援組なのだが、笑良は瑠奈莉愛と餡子を監督するために後方支援組となっており、また、怪我をした魔法少女を治療するための人員でもある。
同じく、みのりも回復魔法を使えるけれど、みのりは前線で戦う魔法少女達を支えるための回復要員である。回復魔法だけであれば、童話組ではみのりが誰よりも得意なのだ。戦いながらの回復もお茶の子さいさいである。
「私達は先に行く。全員配置に付いて」
アリスはロデスコの腕を掴み、サンベリーナをエプロンのポケットに入れて即座に最前線へと向かう。空を飛べるアリスが二人を運搬するのが一番早い。
最前線では警戒に当たっていた魔法少女達が既に戦闘行動に移っており、各所で激戦が繰り広げられている。
魔法少女と戦闘をしているのは、人型の敵と三つの頭を持つ怪物、そして、異譚にも出現した寄生植物に寄生された動物達だった。
怪物の顔には目が無く、ただ目が合っただろう位置にはぽっかりと眼窩が空いている。怪物は口と眼窩から炎を噴出しており、魔法少女達を苛んでいる。
火炎は余程高温なのか、炎が掠った建物は瞬く間に融解していく。
全身は凶悪な刺で覆われており、建物や地面を刺先が掠っただけでバターをスライスするように簡単に斬り裂いてしまう。接近戦をするのは得策ではないだろう。
人型の敵はまるでフェンシングの防護服の様なものを身に纏っている。魔法少女達よりも長身であり、恐らく成人男性よりも更に背が高いと思われる。
右手には小さな砲身のような物に覆われており、その先から光線が射出されている。
数は魔法少女の方が多い。けれど、魔法少女の方が押されているように見える。
空を飛んでいるアリスは、くるくると回転し始める。
「は? 何?」
突然回転しだしたアリスに困惑するロデスコ。
ロデスコの困惑を無視し、アリスは更に回転数を上げる。
「ロデスコ爆弾投下」
「誰が爆弾よ!!」
上空からロデスコをぶん投げるアリス。
ロデスコは文句を言いながらも、具足に炎を纏って急降下する。
火炎を纏い隕石さながらに敵へと突っ込むロデスコ。
ロデスコが突っ込んだのは、三つの頭を持つ怪物だった。
建物を容易く斬り裂く刺も何のその。ロデスコの蹴りで全てぶち折り、怪物を燃やしながら吹き飛ばす。
「かった……ッ!! アリス!! コイツ雑魚じゃないわ!! 気を付けなさい!!」
上空に居るアリスに注意を促すロデスコ。
ロデスコは身体を貫通させる程の勢いで蹴りを入れた。
けれど、吹き飛ばすだけに留まってしまった。ロデスコが思っているよりも三頭の怪物は堅かった。
「分かった。サンベリーナ、ロデスコに攻撃上昇の補助魔法を」
「ぼ、防御は良いの?」
「不要」
「わ、分かったよ!」
サンベリーナは遠く離れた位置に居るロデスコに補助魔法をかける。
アリスも降下して参戦しようとする――
「――ッ!!」
「あ、アリス、危ない!!」
――アリスの元へと人型がやって来る。
人型はどういう訳か空を飛び、アリスに向かって光線を撃ってくる。
アリスは放たれた光線を回避しながら、周囲に剣を生成して即座に人型に向けて射出する。
狙い違わず――というより、自動追尾出来るのだけれど――剣は人型に直撃する。
「……っ、こいつらも……!!」
だが、直撃した剣が弾かれる。この弾かれ方には見覚えがある。
耐衝撃シールド。星間重巡洋艦にあるそれとは規模が異なるけれど、それでもアリスの魔法を弾けるくらいの性能は持ち合わせているようだ。
けれど、強大な力は感じない。あの時程の抵抗力も無かった。個人サイズまで縮小させた出力なのだろう。
面倒だ。けれど、その程度の防御ならアリスにとって在って無いようなものである。
鋭く、尖った、槍のような剣を生成する。
致命の剣列程ではないけれど、貫通に特化した剣だ。
激しい空中戦を繰り広げながら、アリスは剣槍を射出する。
一瞬の拮抗。しかし、拮抗を打ち破ったのはアリスの剣槍だった。
アリスの剣槍は人型の心臓付近を貫く。人型に風穴を開けたアリスは、その人型を意識から外す。
「あ、アリス!! まだだよ!!」
「――ッ!!」
サンベリーナの忠告を耳にした直後、アリスに向けて光線が放たれる。
「だ、駄目だよ!! アリスに手出しさせないんだから!!」
大きく透明な花がアリスを包み込み、光線を完全に防ぐ。サンベリーナの防御魔法だ。
「ありがとう、サンベリーナ」
「い、良いんだよぅ!! アリスのためだから!!」
アリスにお礼を言われ、サンベリーナは特別嬉しそうに声を上げる。
「……風穴を開けたはずなのに」
「そ、そうだね。胸にぽっかり穴空いてるのに……」
アリスが風穴を開けた人型は、まるでなんて事無いような動きでアリスを追い、光線を撃ち込んでくる。
アリスは即座に通信機でロデスコへと警告する。
「ロデスコ。人型が厄介。耐衝撃シールドを持ってるし、身体に穴が開いても平気で動く」
『こっちも今確認した!! 身体半分にぶっ千切っても動いてるわ!!』
「テケテケとテクテクみたい」
『実在してるだけ、都市伝説より質悪いわよ!!』
一瞬ロデスコに意識を向ければ、ロデスコは耐衝撃シールドを一瞬の拮抗も許さずにかち割っている。
「全員に通達。人型は耐衝撃シールドを持ってる。それと、空も飛べるし、身体が真っ二つになっても動く」
アリスは全員に相手の戦力を通達する。
「厄介極まりない……」




