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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第3章 眠れる■星の■

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異譚29 同時多発

 日々起こる異譚。


 その連続性に一貫性は無い。けれど、しっかりといやらしいタイミングで発生している事と、異譚支配者の向こうに何者か(・・・)が存在しているという事実も相まって、そこに作意を感じずにはいられない。


 それは事情を知る全員が分かっている事であり、そろそろ何がしかの動きがあってもおかしくは無いと思っている。


 誰もが緊張と警戒で張り詰めている中、それは突如として起こった。


 対策軍に鳴り響く警報。が、その後にいつもは流れないアナウンスが流れる。


『異譚同時発生!! 異譚同時発生!! 各先遣隊は(すみ)やかに異譚に先行してください!! 繰り返します!! 異譚同時発生!! 異譚同時――』


 授業中。けれど、アナウンスが在れば即座に動き出す。


 春花はそのままカフェテリアを後にし、アリスのプライベートルームへと向かう。


 他の童話の魔法少女達も異例の事態にも関わらず、即座に行動に移る。


「探知系は全員変身して異譚の数を出来るだけ探って!!」


 朱里が指示を出せば、みのり、詩、笑良の三人が変身をする。


 三人は集中したように目を閉じて異譚の位置と数を探る。


「……一、二、三……う、嘘……! もっともっと在る……!」


「結構遠くまで在るね。ワタシじゃ数までは分からないなぁ……」


「……近場は、もう行ってる。行くなら、遠くから……」


「数は最大何個まで確認できるの?」


「に、二十は最低でも確認できるよ! ち、近すぎて一つか二つか分からないのも在るけど……!!」


「なるほどね……」


「今までに類を見ない程の数ですね」


 直ぐにでも出撃したいけれど、勝手に出撃して戦況を荒らしたくない。


「すまない、待たせた!!」


 かなり急いだ様子で沙友里がカフェテリアに入って来る。その後ろをアリスがとことこと付いてくる。


「ブリーフィングは割愛する。全て同じ異譚だ。星と花は予備戦力を残すつもりだが、ウチは全員出撃で行く。チームはローテーションのままで固定だ。前代未聞の数だ! 直ぐに出撃してくれ!」


 沙友里の号令に返事をし、全員がカフェテリアを後にする。


「チェシャ猫は此処に居て」


「キヒヒ。了解だよ」


 アリスはチェシャ猫を残し、窓から飛んでいく。


 アリスは空を飛び、一番近くの異譚――では無く、一番遠くの異譚へと向かう。


 対策軍から一番近くは他の魔法少女に任せれば良い。一番速く移動出来て、一人で異譚を終わらせる事が出来るアリスが遠くから異譚を潰していった方が被害が少ない。


 と、いうのを、勿論もう片方の最強格である魔法少女が考え付かない訳も無い。


「ちゃんと考えてんじゃない。偉い偉い」


 空を飛ぶ(・・)アリスの横に、空を跳ぶ(・・)ロデスコが並ぶ。


「遠くだと遅くなればなるほど被害が大きくなる。速くて強い私が外から潰していくのが一番効率的」


「速くて強いアタシ達(・・・・)、ね。まぁ、強い人間の定めよね、仕事量が増えるのは」


 言いながら、ロデスコは器用に飛んでいるアリスの背中に座る。


「それじゃ、端までよろしく。アタシは魔力を温存させてもらうから」


 優雅に脚を組んで、のんびりとした様子で爆速飛行を楽しむ。


 爆速で飛んでいるために、ロデスコの髪はこれでもかという程に乱れる。


「乗り心地悪いわね。星三」


 謎の評価(レビュー)をするロデスコに、アリスがむぅっと眉を寄せる。


「文句が在るなら乗らないで」


「文句じゃないわ、評価よ。真摯に受け止めて改善なさい」


 言って、ぽんぽんっとアリスのお尻を叩くロデスコ。


 何ともなしに叩いたけれど、ロデスコは驚いたようにアリスのお尻に手を置いて、むにむにっと容赦無く揉みしだく。


「セクハラ」


 心底嫌そうな顔をするアリス。


「あ、ごめん。……いや、アンタ肉付いて無さ過ぎじゃない? ちゃんとご飯食べてるの?」


 珍しくアリスを心配したような顔をするロデスコ。


 アリスの背中に寝そべるようにしてアリスの顔を覗き込む。


 魔法少女の身体付きは変身前の身体付きがそのまま反映される。アリスの場合は男から女になっているので、身体付きはあまり反映されないのだけれど、肉付きは反映されている。


 つまり、朱里はアリスの変身前の姿がかなり痩せているのを心配しているのだ。


 寝そべってみて分かるけれど、アリスの身体はかなり華奢であり、脇腹を触れば服の上からでも分かるくらいに肋骨(あばらぼね)が浮いている。


「なんか、アンタの私生活すっごい心配なんだけど」


「心配は必要無い。ご飯はちゃんと食べてる」


「食べてたらこんな身体になんないでしょ」


 ふんわりとした衣装で今まで気付かなかった。


 白タイツに包まれた脚が細いなとは思っていたけれど、まさか身体までこんなにがりがりだとは思っていなかった。


「アンタ、変身前の身体鍛えろとか言ってたけど、これじゃあ人の事言えないんじゃ無いの? 筋トレしたら?」


「……むぅ」


 確かに、トレーニングをしてはいるし格闘技なども学んではいるけれど、身体つきは気にしていなかった。


 アリスも自分の二の腕をムニムニして自身の腕の肉付きを確かめる。


「……ムキムキになった方が良いかもしれない」


「いや、ムキムキになる必要は無いんじゃない? ちゃんと筋肉付けなさいよって話」


 こんなに小さな身体に、信じられないくらい大きな力を秘めている。それだけじゃない。小さな身体に、信じられないくらい大きな責任を背負っている。


 ロデスコはぎゅっとアリスの細い腰に腕を回して、考え込むように眉を寄せる。


 アリスはかなりのお金を貰っているはずだ。異譚に出るだけで数千万円のお金がアリスに入る。だから、生活に困窮しているという事は無いはずだ。


 なのに、何故こんなに華奢な身体をしているのだろうか。


 ただ食が細いだけなのかもしれない。けれど、食が細いだけでこれほどまでに健康不良な身体になるだろうか。


 ずっと一緒に戦ってきた。一番長くアリスを見て来た魔法少女である。


 けれど、ロデスコはアリスの事を何も知らない。


「……そうだ」


 ロデスコはがばっと起き上がると、アリスに向かってしっかりとした声音で言う。


「勝負をしましょう、アリス」


「勝負?」


「そう。アタシとアンタ。どっちが多く異譚を終わらせられるかの勝負」


「異譚は遊びじゃない」


 ロデスコの提案にアリスは正論で返す。


 けれど、ロデスコも遊びで言っている訳では無い。


「アンタ誰に言ってる訳? 遊びでこんな事言わないわよ。真剣に、アンタと勝負したいって言ってんの。まぁ、不謹慎ではあるんでしょうけどね」


 皆が真面目に戦っている中、二人で数を競う勝負をしようというのだ。他の誰かに聞かれたら問題になるような内容である。


 けれど、この場にはアリスとロデスコの二人しかいない。


「アタシが勝ったら、アンタの正体を教えなさい。良いわね?」


 真剣なロデスコの声音に、ロデスコがふざけて言っている訳では無い事は理解できた。


 けれど、アリスの正体は最重要機密事項(トップシークレット)だ。アリスの一存で教える事は出来ない。


「私の一存では無理」


「なら、上に掛け合いなさい」


 言って、ロデスコはアリスの背中の上に立つ。


 アリスの爆速のお陰で、もう一番端の異譚までたどり着いたのだ。


「アタシが左回り。アンタが右回り。最初の異譚はアンタにくれてやるわ」


 飛び降り、空を跳んで異譚へと向かうロデスコ。


「勝負開始!! 手ぇ抜くんじゃ無いわよ!!」


 遠くでロデスコが叫ぶ。


 不本意ながらも勝負が始まってしまったけれど、アリスがやる事は何も変わらない。


「異譚に手は抜かない」


 それが、アリスの絶対不変の答え。


 アリスは真下に在る異譚に急降下した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 勝つんだロデスコ! アリスの健康は貴方に懸かっている!
[一言] ロデアリくるー?(語呂悪いかな? 本当不健康な生活してるからどうにかしてやってほしい、、、
[一言] ロデスコ勝て! でそのアホをなんとかしてやってくれ!
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