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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第1章 漁港の王様

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異譚11 避けようの無い真実

 位置情報と建物の大きさを加味して、今いる場所がショッピングモールだと五人は判断していた。


 魔法少女達は小型の情報端末を保有しており、そこに異譚が広がる前の地図が載っており、魔法少女達の位置もGPSで拾っているため位置情報にずれは生じていない。


「ショッピングモール……っていうより、廃城?」


「どちらかというと教会みたいだわ。ほら、屋根の上に十字架が立ってるし」


 しかして、異譚の中のショッピングモールは様変わりした姿になっていた。


 とんがり屋根の双塔に、ステンドグラスのバラ窓。建物の所々に西洋建築の趣が見られるけれど、そのどれもが荘厳とは程遠い陰鬱さを孕んでおり、教会とは言ったものの神聖さは皆無であった。


 さながら悪魔でも崇拝していそうな外観のショッピングモールへと足を踏み入れる五人。


 しかして、中に入れば直ぐに花の魔法少女に遭遇する。


 花の魔法少女は童話の魔法少女達を見て一瞬ぴくりと眉を動かすも、直ぐに取り繕ってぺこりと頭を下げる。


「救援ありがとう。先行部隊だけじゃ全滅だったわ」


「損害は?」


 花の魔法少女のお礼に特に返す事無く、事務的に訊ねるアリス。


 そんなアリスに、後ろでロデスコが呆れたような顔をする。


「要救助者は全員無事。……けど、うちの子が一人重傷。今回復魔法で治療してるけど、ちょっと時間がかかりそう」


「サンベリーナ。手伝ってあげて」


「う、うん! 分かったよ! ヴォルフちゃん、ごーごー!」


「あ、自分も行くんッスね。了解ッス」


 サンベリーナ一人で行くと思っていたヴォルフだったけれど、サンベリーナに指示されて怪我人の元へと早足に向かう。最早タクシーみたいだなと思いつつも、サンベリーナは先輩なのでそんな事言えない。


「良いように使われてるわね」


「貴女も似たようなものでしょ」


「はぁ? アタシはあんなことしませんけどー?」


「新人歓迎会の時にサンベリーナをぱしりにしようとしたくせに」


「うぐっ……」


 ぐうの音も出ないほどの正論パンチを食らい、ロデスコが撃沈する。


 そんな二人を置いておき、アリスは花の魔法少女に訊ねる。


「敵の種類は外に居たので全部?」


「いえ。報告だと、もう一種いるわ。黒い、タールの様な液体生物って話だけど、私はまだ確認できて無いわね」


「そう」


 原始獣人。蟇蛙のような異譚生命体。蛙頭の人型の異譚生命体。そして、タールのような液体生物。


 最低でも四種は確認されているという事になる。


 ただ、アリスには一つ気掛かりな事があった。


 アリスはショッピングモール内に倒れている蛙頭の人型異譚生命体に視線を向ける。


 頭は蛙。手足も蛙のように変形している。だが、彼等は服を着ているのだ。汚れてはいるけれど、その造りは現代のものだ。


「あれは、そう言う事(・・・・・)?」


 抽象的なアリスの言葉に、花の魔法少女は神妙に頷く。


「ええ」


「そう……」


 知らなかった訳では無い。考慮しなかった訳では無い。けれど、実際にそうだと言われるとやはり心は痛む。


「あの狼の子新人よね?」


「うん」


「伝え方とかタイミングは気にしてあげなよ」


「うん」


 分かっているのか分かっていないのか。淡白な返事をするアリスに花の魔法少女は苛立った様子を見せた後、口早に今後の事を伝える。


「私達は要救助者の救護と護衛をこのまま行うわ。もうすぐ花の増援も来るから、貴女達はそれまでいてくれると助かるわ」


「了解したわ」


 ひとまず、花の魔法少女達の増援が来るまではアリス達もショッピングモールの護衛に加わる事になる。


 花の魔法少女が去った後、アリスは手近な長椅子に腰を下ろす。


「で、どーすんの?」


「増援が来るまでは待機。その後に核を探しに行く」


「そうじゃないでしょうが。あれの事よ」


 言って、ロデスコの視線は蛙頭に向けられる。


「あれ、純粋な異譚生命体じゃないでしょ? 服も私達が着るのと同じようなものだし、前情報とかあるだろうし、気付くのも時間の問題よ」


「さっきの戦闘で、ヴォルフは相対してた?」


「乱戦だったから、本人に聞かないと分からないわよ」


「そう」


 考え込むアリス。


 少なくとも、アリスであれば自覚無く手にかけるよりも、覚悟を決めて手にかけた方が良い。その方が相手にとっても失礼ではないと、アリスは思っている。


 だが、全員が全員同じ考え方を持っている訳では無い。それに、その事実に耐えられない者だっている。


 ここに居る三人は割り切っている。現に三人ともその道を辿って来た。


「道下さんが事前に教えてるって事、あると思う?」


「無いんじゃない? アタシん時もアンタから教わったし。それに、異譚は入ってみないと分からないし」


「……確かに。けど、そうすると説明するのは後の方が良いかもしれない。ロデスコみたいに吐かれても困る」


「別にそこ言わなくてもよくない?!」


「大丈夫よ。私も吐いたから」


「なんのフォローにもなってませんけど?!」


 ともあれ、精神的に来る(・・)内容なのは確かだ。


 沙友里が伝えなかったのは、その内容があまりにも重いからだ。それを直接目の当たりにしていない沙友里が伝えてしまっては事務的になってしまう。だからこそ、現場でそれを乗り越えた魔法少女達に伝えて欲しいと思うのだ。


 ただ、二人共まったく知らないという事は無いだろう。何せ、異譚はその中に在るもの全て(・・)を変えるというのは誰もが知っている事だ。


 瑠奈莉愛も餡子もその可能性に気付いている。いや、少し考えれば分かる事なのだから、彼女達に限った話ではない。講習の時等はあえてその事を伝えないけれど、それでも、異譚に入った生命体は全て異譚の影響を受けるという事だけは伝えてある。


「私が伝え――」


「え、ヴォルフちゃん!?」


 一番魔法少女としての歴が長いアリスが伝えると二人に言おうとしたその時、少し離れたところからサンベリーナの慌てたような声が聞こえて来た。


 慌てて声の方を見やれば、ヴォルフは柱の影でびちゃびちゃと何やら吐いており、サンベリーナはヴォルフの背後でおろおろと動き回っている。


 もしやと思い、アリスはサンベリーナに問う。


「サンベリーナ、何したの?」


「あ、アリスぅ! わ、わたし、この異譚生命体は元人間(・・・)だよって教えてあげただけで、他に何も……!!」


 サンベリーナの言葉を聞いて、三人は思わず溜息を吐いた。





 時は少しだけ遡り、サンベリーナが花の魔法少女の治療に向かった時の事だ。


「うっ、これは……」


 横に寝かされている魔法少女の傷は深く、肩から腹にかけて鋭い刃物で切られたかのような傷が出来ていた。


 血は止めどなく流れ、裂けた腹からはちらりと臓器が顔を覗かせる。


 吐きそうになるヴォルフだったけれど、重傷を負うまで戦った相手に失礼になると思い、口を手で覆って吐くのを堪える。


 しかして、サンベリーナは見慣れた様子で顔色一つ変えない。


 ヴォルフの肩から飛び降り、横たわる花の魔法少女の隣へと降り立つ。


「あ、後はわたしが引き継ぎます」


「……っ、わ、分かったわ……」


 回復魔法をかけていた二人が手を止める。


 サンベリーナが祈るように両手を組み、魔法を発動する。


「花よ、包み込んで」


 サンベリーナの言葉の直後、巨大なチューリップの花が花の魔法少女を包み込む。


 優しく温かな淡い光を放つチューリップの花に、ヴォルフは思わず見惚れてしまう。


 そのまま数分間チューリップの花が花の魔法少女を包み込み、最後に花弁が開いてはらはらと散っていく。


 チューリップの花の中に居た花の魔法少女の傷はすっかりと塞がっており、先程まで苦し気だった呼吸も穏やかなものに変わっている。


 その様子を見て、サンベリーナはほっと一息つく。


「き、傷は塞がったけど、今回は離脱させてください。相当体力を消耗させてしまったので」


「分かったわ。ありがとう、サンベリーナ」


 手当に当たっていた花の魔法少女がサンベリーナにお礼を言えば、サンベリーナは照れたようにはにかむ。


「す、凄ぇッス……! さすがサンベリーナ先輩(・・)ッス!」


 ヴォルフが興奮気味に言えば、サンベリーナは一瞬驚いたような顔をした後、満更でもなさそうな笑みを浮かべた。


 ここから、サンベリーナは明らかに調子に乗ってしまったのだ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「しかして」使いすぎじゃない? 一話に3回も出てくるようなメジャーな接続詞じゃないと思うんだけど ……
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