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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第3章 眠れる■星の■

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異譚19 肉食獣

 リモート授業の最中。警報が鳴り響き、菓子谷姉妹とみのりが出撃した。


 因みに、ローテーションとして菓子谷姉妹とみのり、瑠奈莉愛と詩と珠緒、餡子と笑良と白奈となっている。


 皆が授業を受けている間に、異譚は終わり三人が帰ってくる。


 帰って来た三人は授業中だったけれど、何も言わずにひっそりと授業に参加した。


 これなら確かにクラスを抜ける時に騒がしくならずにひっそりと抜けて、ひっそりと帰って来られる。


 ただ、春花はともかくとして学校に友人のいる者達からしたら寂しいだろう。


 授業が終わり、休み時間。


 春花は端末を片付けようとするけれど、白奈がそれを止める。


「午後も使うから、そのままで平気よ」


「分かった」


 端末や荷物をそのままにして、春花は鞄の中から菓子パンを一つと飲み物を取り出して席を立つ。


「どこ行くのよ」


「え、共同カフェに」


「ここで食べれば良いじゃない。皆お弁当とか持って来てるんだし」


 言いながら、朱里は端末を押しやってから自分の前に可愛いランチバッグに入ったお弁当を広げる。


「キヒヒ。アリス、ここで食べれば良いじゃないか。移動するのも面倒だろう?」


「……分かった」


 チェシャ猫にも言われたので、春花は立ち上がった腰を落とす。


 びっと菓子パンの包装を破いて、ぱくりと齧る。


 チェシャ猫が春花の前に座り、あんぐりと口を開ける。


 春花はチェシャ猫の口の中に千切った菓子パンを入れてやる。


 菓子パンをもぐもぐと美味しそうに食べるチェシャ猫。


「春花ちゃん、それしか食べないの?」


 隣でお弁当を広げている笑良が心配そうに訊ねる。


「はい」


「小食なのねぇ」


「キヒヒ。食べなさ過ぎで心配になるよ。アリス、健康診断の体重はどれくらいだったんだい?」


「確か、四十二だったはず……」


「はぁ!? アンタ、身長幾つよ?」


「身長は百六十ぴったりだったよ」


「それで、四十キロ台……? アンタ、マジでいっぱい食べた方が良いわよ?」


「そうだよ! 食べないと元気出ないよ? ほら、この唐揚げ食べな?」


 笑良は自身のお弁当箱から唐揚げを箸でつまむと、春花の方へと向ける。


「はい、あーん」


 にこやかな顔で唐揚げを口元へと運ぶ笑良。まるで自然な動作に一瞬口を開きかけるも、おかしい事に気付いて口を閉じる。


「パンの袋の上に置いて貰えれば」


「あ、あー……そうだね。あはは、ごめんね? 春花ちゃん、顔が可愛いから、ついつい……」


 笑良は春花が置いた菓子パンの袋の上に唐揚げを置く。


「ありがとうございます」


「いいえ~」


 春花は置いてもらった唐揚げを手で掴み口に運ぶ。


 もぐもぐと咀嚼して、ごくりと飲み込む。


「美味しいです」


 春花が素直な感想を言えば、笑良は嬉しそうににこっと笑みを浮かべる。


「良かったぁ。手作りだから、不味いって言われたら泣いちゃうところだったよぉ」


「キヒヒ。アリスは何を食べても美味しいしか言わないよ。舌が馬鹿だからね」


「馬鹿じゃない」


 余計な事を言うチェシャ猫の口に菓子パンを放り込む。


 チェシャ猫は美味しそうにもぐもぐと咀嚼する。


「春花ちゃんは自分で料理とかしないの?」


「たまになら……」


「キヒヒ。アリスは料理上手だよ。全然作らないけどね」


 春花は料理が出来ない訳では無い。記憶が無くなる前に料理をしていたのか、慣れた手付きで料理をする事が出来る。


 まるで、ずっと料理をしてきたかと思う程、傍から見ても慣れた手付きだった。


 けれど、春花は料理を作りたがらない。たまに思い出したように食材を買って料理を作る事があるけれど、自分では食べずにチェシャ猫に食べさせている。


「へー、何作ったりするの?」


「肉じゃがとか、煮物とか、色々……」


「レパートリー年寄りじゃん」


 春花が言った料理を聞いて、朱里がぼそりとこぼす。


「てか、アンタ記憶無いんじゃ無かったの? それで料理とか作れんの?」


「こらっ、朱里ちゃん!」


 センシティブな内容にも関わらず、ずかずかと踏み込んでいく朱里に笑良が声を荒げる。


「作れるよ。不思議な事に」


 しかして、春花は気にした様子も無く返す。


 記憶が無い事を春花は気にしていない。過去を知りたいとも思わない。だから、ずかずかと踏み込まれたところで気にしない。


 いつも通りの感情を窺わせない表情を浮かべる春花を見て、朱里は何かが引っ掛かるのか眉を寄せている。


「りょ、料理が作れるのは良い事だと思うよ! い、良い御婿さんになるんじゃないかな?」


 みのりがえへえへと笑いながら春花に言う。露骨なアピールに、チェシャ猫は目を細める。


「御婿……? は? そいつ男なの?」


 みのりの言葉に驚いたように目を見開く珠緒。


「キヒヒ。そうだよ。正真正銘男の子さ」


「男子の制服、着てるんだけど……」


 少し落ち込んだ様子を見せる春花。


「いや、女子でもズボン履いてる奴居るから。ていうか……は? まじ?」


「春花先輩男の子だったんッスか!?」


「お、驚き桃の木山椒(さんしょ)の木です!!」


 瑠奈莉愛と餡子はご飯を食べ終わったのか、春花のとこまでやって来て顔をまじまじと見る。


「睫毛長いッス」


「お肌もすべすべです」


「お目々もおっきいッス」


「顔も小さいです」


「「ほえ~、本当に男の子ッス(です)か~?」」


 小首を傾げながら声を揃える瑠奈莉愛と餡子。


 因みに、中学も高校も女子はスカートとズボンの好きな方を選べる。そのため、女子でズボンを選ぶ子も珍しくないため、最初は春花を女の子だと思っていたのだ。


 笑良は春花を男の子だと理解していた。ネクタイの色が男子用だったし、筋張った手を見て男の子だと判断した。


「髪の毛サラサラ」


「髪の毛ツヤツヤ」


 菓子谷姉妹も春花の頭を撫でりこ撫でりこしながら感想を漏らす。


 少女達に囲まれて好き勝手される春花。しかし、何故だかみるみるうちに顔を青褪めさせていく。


「キヒヒ。大丈夫かい、アリス?」


「あ、うん……」


 何故だか分からないけれど、寒くも無いのに身体に震えが走る。


 カタカタと、隠せない程の震え。


「ちょっと、大丈夫?」


「顔真っ青よ? 体調悪いの?」


「体調は悪くないよ。なんでだろう……」


 さすさすと震える手をさする春花。


 震える春花の心の底に、じくじくと疼く形容しがたい感情。


「……私には、分かる……」


 全員が何も分からない中、詩はソファでだらけながらぼそりと呟く。


「何が分かんのよ?」


 珠緒が問えば、詩はふっと笑みを浮かべながら答える。


「……肉食獣(陽キャ)に囲まれたら、辛い……」


 詩の言葉に、春花は少しだけ納得する。


 確かに、全員ベクトルは違えど明るい性格をしている。友人も多く、他人とのコミュニケーションにも臆さない。


「キヒヒ。確かに」


「おい失礼だなコイツ」


 頷くチェシャ猫に、朱里が悪態を吐く。


「……おお、可哀想に。怯える小動物よ……」


 どこから取りだしたのか、マジカルハンドで春花の頭を撫でる詩。因みに、ロボットの手なので撫でるというよりはコツコツと叩くようになっている。


「……肉食獣は、怖かろう……」


「誰が肉食獣だ」


「自分は狼なので肉食ッス! がおー!」


「猫は雑食ですよ! にゃー!」


 がおがおにゃあにゃあと犬歯を見せる瑠奈莉愛と餡子。


「キヒヒ。猫はにゃーとは鳴かないよ」


「それはアンタだけよ」


「キヒヒ。そうかい?」


「そうよ」


 わいわいわちゃわちゃ。楽しそうにお喋りをする少女達。


 端から見れば楽しそうに見える光景だろう。けれど、その輪の中が春花には居心地が悪かった。その理由は分からない。けれど、明確に居心地の悪さを感じずにはいられなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 血管の収縮と筋肉の緊張となると、記憶こそないが、頭部を触られるのにトラウマでもあるのか...?
[一言] 居心地が悪いのは当たり前である。挟まってはいけないもの挟まってしまったのだから……。
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