異譚10 殲滅
今日もまた滑り込みセーフ。そのはず。
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四人よりも早くショッピングモールへと辿り着いたロデスコは、ショッピングモールの状況を見て顔を顰めながら舌打ちをする。
「クソ多いじゃない! なんでこんなに居んのよ!」
ショッピングモールを囲むように多数の原始獣人の姿が見られる。
しかし、原始獣人だけではなく、巨大な蟇蛙のような姿の化物や、蛙頭をした人型の化物が存在していた。
百を超える異譚生命体の数に、流石のロデスコも考え無しに突っ込むのを諦める。
「ひとまず、引き剥がすのが得策ね……!」
赤い靴をガチャリと鳴らし、手近な原始獣人へと攻める。
爆発的に加速し、原始獣人の頭を蹴り潰す。
一体、また一体と、原始獣人を蹴り殺すロデスコ。
暴れ回る事で異譚生命体の注意がロデスコへと向けられる。
「相手してあげるわ。光栄に思いなさい」
ロデスコに殺到する異譚生命体達。
獣の速度で迫る原始獣人の鉤爪の攻撃を避け、顎を蹴り上げる。更に、背後から迫る原始獣人の鉤爪攻撃を背負い投げの要領でいなし、倒れた原始獣人の頭を踏み潰す。
ロデスコを引き裂こうと振り回される腕を蹴って折り、踵を頭に落として潰す。
高く跳びあがり原始獣人の頭を回し蹴りで潰し、空中で身体を回して顎を蹴り上げて潰す。
一撃一撃が必殺の攻撃力を誇るロデスコの蹴り。しかし、それは原始獣人の攻撃も同じ事だ。
原始獣人の鉤爪は車の外装を容易く引き裂き、アスファルトをクッキーのように簡単に砕いてしまう。
「馬鹿力……ッ!!」
まるで踊るように蹴り殺し続けるロデスコだけれど、原始獣人の攻撃力の高さには冷や汗を流す。しかし、原始獣人はロデスコの攻撃に恐れをなす事もなく迫る。
涎を垂らしながら迫る原始獣人に、ロデスコは嫌悪感丸出しに舌打ちをする。
「鬱陶しいわね!! 燃えろ赤い靴!!」
ロデスコが吠えれば、赤い靴が炎に包まれる。
爆発音と共に、音を置き去りにして走り、華麗に回りながら原始獣人を蹴り殺すロデスコ。
蹴るたびに爆発し、原始獣人は仲間を巻き込みながら吹き飛んでいく。
爆速で蹴り回るロデスコに、巨大な蟇蛙のような異譚生命体がベロを伸ばしてくる。
「きっしょいッ!!」
ベロを蹴り上げてすぐ、ロデスコは爆速で蟇蛙の異譚生命体に肉薄しその巨体を蹴り飛ばす。
巨体がゴロゴロと地面を転がり、原始獣人を巻き込む。
「アタシ蛙嫌いなの――よッ!!」
ギャリギャリと地面を削りながら回転し、がら空きになった蟇蛙の異譚生命体の腹に強烈な回し蹴りを叩きこむ。
足裏で爆発が起き、蟇蛙の異譚生命体が爆発四散する。
しかし、安心も出来ない。即座に原始獣人と蟇蛙の異譚生命体がロデスコに肉薄する。
原始獣人の爪牙を掻い潜り、蟇蛙の異譚生命体の舌を跳んで避ける。
「っじで……きりが無いわね!!」
ロデスコは一対一の戦闘は得意とするところだけれど、多人数を一気に殲滅するのは得意ではない。
「アリス遅いんだけど! 何道草食ってんのよアイツ!!」
「うぉぉぉぉ! やるッスよぉ!!」
「が、頑張って、ヴォルフ!」
ロデスコが愚痴ったところで、ようやっとヴォルフとサンベリーナがやってくる。
「アリスとスノーは!?」
「途中で原始獣人が来たから、倒しながら来るって!」
「まだ増えんの!? てか、それならスノーかアリスどっちかが来なさいよ! 範囲攻撃持ちなんだから!」
「じ、自分頑張るッスよ!」
「なら口じゃなくて手を動かしなさい!」
「はいッス!!」
「わ、わたしも援護するよ!」
サンベリーナがロデスコとヴォルフに魔法をかける。
「お手並み拝見ね、ヴォルフ!」
「はいッス!!」
獣の速度でヴォルフは原始獣人へと迫る。
鉤爪の攻撃を掻い潜る――事無く、ヴォルフは真正面から止める。
原始獣人の膂力は凄まじい。その膂力を真正面から受け止めるヴォルフの膂力もまた凄まじいという事に他ならない。
鉤爪の付いた手をヴォルフは握り潰し、原始獣人ごと振り回して他の原始獣人にぶち当てる。
ぐちゃりと肉が潰れる嫌な音に顔を顰めながらも、ヴォルフは鉤爪で原始獣人の心臓と思われる部分を穿つ。
ロデスコの技術を伴った華麗な戦い方と違い、ヴォルフの戦い方は乱暴で野性的だ。
鉤爪で首を裂き、上半身と下半身に引き千切る。
攻撃するごとにヴォルフの毛は逆立ち、獣のように爛々と目が輝いている。
「大丈夫、アンタ?」
「だ、大丈夫ッス……!! ちょっと、気が立ってるッスけど……!!」
「魔法少女ってより、野獣少女ね……」
「それは酷いッス!!」
口を動かしつつもしっかりと戦闘をこなす三人。
しかして、幾ら数を減らしてもそれ以上に増えてしまってキリが無い。
「こりゃ救援も呼ぶ訳ね! アタシでも御免だわ!」
「自分もう疲れたッス!」
「アタシだってうんざりしてるわよ! っんとに、アイツまだなの!?」
ロデスコが悪態を吐いたその時、上空からぼふんっと何かが着地する。
「うわっ!? なんッスか!?」
驚くヴォルフとは対照的に、ロデスコは舌打ち一つして落ちて来た二人と一匹に文句を言う。
「おっそい!」
「先行したのはそっちでしょ」
チェシャ猫から降りながらアリスは涼しい顔で返す。
「凍りなさい」
チェシャ猫に乗ったまま、スノーホワイトが指を弾けば、巨大な氷が即座に生まれその圧倒的質量で原始獣人達を押し潰す。
しかし、それでも増える数の方が異常に多い。
「って、アンタらめっちゃ引き連れてきてない!? めっちゃこっちに来てるんですけど!? 手間増やしてどーすんのよ!!」
「問題無い」
怒鳴るロデスコに対して、アリスは悠然と言葉を返す。
「サンベリーナ。異譚生命体の近くに一般人は居る?」
「う、ううん! わたし達と他の魔法少女だけだよ!」
「そう。ありがとう」
「ひゃ、ひゃわわっ!? い、良いんだよぅアリスのためならわたし何でもやるから!!」
はふはふと鼻息荒く言うも、既にアリスは聞いておらず、その意識を異譚生命体に向けていた。
アリスが悠然と手を振れば、即座に幾つもの剣が虚空に出現し、正確に異譚生命体を貫く。
近くの敵を殲滅しつつ、アリスは意識をショッピングモール全体へと巡らせる。
瞑目し目蓋を上げた直後、ショッピングモールに存在する全ての異譚生命体の真上に剣が出現する。十字を模した、まるで墓に立てる十字架のような剣の数々。
「執行」
アリスの言葉の直後、一斉に十字架の剣が異譚生命体を頭上から貫く。
例外なく、全ての異譚生命体は十字架の剣に串刺しにされその命を終わらせる。
ショッピングモールに存在した全ての異端生命体を一瞬で殲滅せしめたアリスは、しかし疲れた様子も見せずにぱんっと手を叩く。
それだけで、異譚生命体を串刺しにした十字架の剣は跡形も無く消える。
「要救助者がいるみたいだから、一度合流しよう」
それだけ言って、アリスはショッピングモールの方へと歩いていく。
チェシャ猫に『Drink Me』と書かれた瓶を食べさせ、元の大きさに戻ったチェシャ猫は再度アリスの肩に飛び移る。
ショッピングモールに来る道すがらに原始獣人を集めたのは、単に面倒を省くためだ。一度に殲滅した方がアリスにとって面倒が少ない。それに、原始獣人程度が何体集まろうとも物の数ではない。それ以上の数を持ってしてアリスは迎え撃つ事が出来るのだから。
「す、凄いッス……」
一瞬の出来事に唖然とするヴォルフに、面白くなさそうにするロデスコ。
「あいっかわらずバケモンね、アイツ」
自分達では悪戦苦闘する数でも、アリスにとっては物の数にもならない。そして、あれだけの魔法を行使してなお消耗を見せないアリスの保有魔力量の多さ。
これが英雄。これが、最強の魔法少女と謳われるアリスの実力なのである。それもまた、アリスの一端でしかないけれど。




