表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/71

7,魔術教授シェリル。

 


(いよいよ、次に殺されるのは、あたしたち──)


 アリスがそう覚悟を決めたとき。

 ふいに反骨精神のようなものが沸き起こった。


 こんなところで、殺されてたまるか。


 呆然としているトーマスに飛びつき、押し倒す。

 さらに近くに転がっていた騎士団員の死体を引っ張ってきて、自分たちの上に覆いかぶせた。


(魔人も、騎士団員ではない一般市民のあたしたちへの関心は、もともと薄かったはず。それなら──)


 トーマスの耳元で強く囁く。


「トーマス。ぴくりとも動かないで。死んだふりよ。息もするな」


 長い、長いあいだ。周囲では、首を刎ねられた騎士団員が倒れる音だけがしていた。

 やがてそれもなくなり、静寂。


 それでも数分待ってから、アリスは死体から這い出した。ウルガラも、もう一体の魔人も、姿はなくなっていた。他の獲物を探しにいったのだろう。

 なぜなら。この場には、生きているのはアリスとトーマスだけ。あとは死屍累々。騎士団一個中隊が、あっけなく全滅だ。


「トーマス。行くわよ。トーマス?」


 呼吸を止めていたトーマスが気絶していた。


 アリスが呆れながらビンタしていると、ようやく目覚める。


「ほら立って」


 やがて市街地から出る避難民の一群に、行き当たった。

 トーマスはなんの疑いもせず、その流れに加わった。


 アリスも仕方なく加わりつつも、これでは魔人から目立つだけでは、とも思う。しかし襲撃は行われず、郊外の軍事要塞へと行きつく。


 戦争がなくなったあと、新たな要塞が造られることはなかった。だからこの要塞は【変革】前からの代物。ただし、一応はちゃんと維持されており、常駐の騎士団員もいた。

 避難民たちは、この要塞に入っていく。


 アリスとトーマスも要塞の中庭に行き、そこで一息ついた。

 だが休んでいる暇はない。けが人の手当などで、人でが必要。手伝っているうちに、アリスはトーマスとはぐれていることに気づいた。


 そのかわり、一人の知り合いを見つける。桜色の髪を短く切りそろえ、白衣をきた女性。従姉であり、魔術学院の若き教授でもあるシェリルだ。


「お姉さん。こっちに避難していたのね」


 シェリルには実の妹のように可愛がってもらっていた。とはいえ、アリスを見つけても喜んだ顔を見せないあたり、シェリルは平常運転のようだが。


「やぁ、アリス。無事だったんだね。それはなにより。心配だったよー」


「本当に心配だったの?」


 どうもシェリルの反応が軽すぎる。いつものことだが。


「もちろんだって。で、君のボーイフレンドはどこに? トーマンといったっけ?」


「トーマスね。そして断じて、ボーイフレンドではないので」


「はい、はい」


「ねぇお姉さん。彼ら──魔人について、何か掴んでいるの?」


【変革】以降、ヒーリング系以外の魔法は封じられた。ただし研究することまでは禁じられていなかった。

 魔術学院では、禁忌の魔法も含めて、体系的な研究がなされている。【裏次元】についても、シェリルは詳しいだろう。


 だがシェリルは、彼女にしては珍しく、驚いた様子だった。


「おや? 政府の機密情報である『魔人』を、わが従妹はどうして知っているのかな?」


「機密情報なの? 知らなかったわ。触れ回ってはいないけれど」


「誰から聞いたの?」


「誰と言われると──7大家がひとつアブサロチ家の当主ウルガラの部下、と答えるしかないわね」


 ウルガラを「閣下」と呼び跪いていた魔人(アリスが初めて遭遇した魔人)が、はじめに「自分は魔人」と名乗ったので。


 さらに驚き顔のシェリルを見て、アリスは妙な胸騒ぎを覚えた。


「7大家? アブサロチ家? それ、本当なのかな?」


「嘘なんかついてどうするのよ?」


「まぁそうだろね。テキトー言ったら、偶然にも、禁断の書の単語と同じものが出てきたりはしないだろうし」


「禁断の書?」


「どこの学術世界にもあるわけだよ。専門家しか閲覧してはいけない、そんなマル秘の本というものが。しかしアリスは、わたしの可愛い妹だ。それにアブサロチ家の当主と遭遇して生き残るという、稀有な体験もした」


「えーと、つまり?」


「特別に禁断の書を見せてあげよう」


「……まって。なぜお姉さんが持っているの? そういう禁断の書って、門外不出では?」


 するとシェリルはにっこり笑って、


「それはね、どさくさに紛れて、こっそり持ち出したからだよ」


「……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ