4,狩人のジェフ。
天からの光源は、数えきれない。
市街地全域へと、まんべんなく散っていく。
その一つが、アリスとトーマスの近くに落ちた。
光源が地面に不時着すると、そこから人が現れた。
いや人にしては、おかしい。まず体格からして、身長は3メートル近くある。それに肌の色が青い。
ヒト型、と呼称しておこう。
「トーマス、あれはなんなのよ?」
「痛いってアリス」
「あ、ごめんなさい」
気づかないうちに、トーマスの肩を力一杯に握っていたのだ。
トーマスがハッとした様子で、誰かにむかって手を振る。
「ジェフさん!」
混乱中の人込みの中から、大柄な男が走ってきた。顔に傷があり、いかにも百戦錬磨という感じ。腰には長剣をつるし、短弓も装備している。
アリスは小声で、トーマスに尋ねた。
「騎士団の人?」
武器を持っているので、そう推測した。
だがトーマスは首を横に振って、
「違うよ、ジェフさんは《狩人》さ。なんと、サーベルタイガー狩りの」
サーベルタイガーといえば、ここらの地域では、もっとも強力な獣だ。
トーマスによると、サーベルタイガーを狩るのに、通常なら5人は《狩人》が必要らしい。
それをジェフは一人で狩ってしまったと。
どうでもいいが、なぜトーマスがドヤ顔なのだろう。
ジェフがやって来て、トーマスの肩を叩いた。
「よぅ、トーマス。カノジョか?」
とアリスを顎でしめす。
顔を真っ赤にして口ごもったトーマスのかわりに、アリスが笑顔で応えておいた。
「いいえー。違います」
ジェフは保護者の立場から言う。
「お前たちは離れていたほうがいい。アレが何者か分からないが、安全とわかるまでは」
それから、アレと示したヒト型へと歩いていく。光源として降ってきてから、そのヒト型は、まだ動いていない。のんびりと周囲を見回している、ような感じだ。
ジェフが警戒した足取りで近づく。
それを離れたところから、アリスたちは息を呑んで見守った。
ヒト型の視線が、ジェフへと落ちる。
ジェフも人にしては背が高いが、ヒト型は3メートルはあるので。
ジェフが強張った声で言うのが、アリスのもとにも届いてきた。
「あんた達、どこの国の者だ? どういう魔法で、飛んできた? 飛空魔法は封じられているはずじゃなかったのかい?」
するとヒト型が、アリスたちの言語で言う。小ばかにしたように。
「お前たちが、【表次元】の最上級種族か。なんと軟弱な生き物だろうな」
ジェフが長剣を抜きはなつ。相手が大きかろうと、ジェフは気おされてはいない。さすがサーベルタイガーを一人で狩っただけのことはある。
「いいか、あんた。どう考えても、不法入国だぜ。王国から与えられた権利で、あんたを逮捕させてもらう。大人しく跪いてもらおうか?」
そこからの一連の動きが、アリスには目で追えなかった。
ただ、あまりに素早かった、とだけはいえる。
気づけば──ジェフの長剣がへし折られ、落ちていた。
そしてヒト型は、ジェフの両手をもち、足が地面から離れるまで持ち上げる。
そこに響き渡るジェフの悲鳴。
ヒト型が反対方向へと、ジェフの両手を引っ張っているのだ。
アリスのもとまでも、皮膚や筋肉や骨が裂ける音が聞こえてくるようだった。
ついに引きちぎられた、ジェフの両腕。
「ぎゃぁぁぁあああぁぁぁ!!」
「この程度で、【表次元】の人間は戦士を気取るわけか? どうやら、閣下が降りられる必要もなさそうだ」
ヒト型はゴミのように、ジェフの両腕を捨てる。
そしてまだ悲鳴を上げているジェフの頭部を、右手で乱暴に鷲掴みした。
アリスは心の中で、「やめて!」と叫ぶ。だがそれが聞き届けられるはずもなく。
ヒト型によって、ジェフの頭部が引き抜かれた。脊髄がずるずると、体内から引きずり出される。
隣でトーマスが泣き叫んでいる。
その中でもアリスは、ヒト型がこう言うのが、ちゃんと聞こえた。
「我々は【裏次元】よりやってきた。すべての次元の最上級種族、魔人だ」
アリスは直感的に思った。
(ああ、これは侵略行為なのね──というより、人類虐殺のはじまり)