2,アロンについての考察。
中央図書館は静かだった。
利用者は多いが、みんな黙りこくって読書や調べものをしている。
(ここは、トーマスの同類がいるところなのよね。あたしには不向き)
とはいえ歴史教師から出された課題をこなさないと、あとが怖い。嫌なことは、さっさと済ませてしまうに限る。
司書の手を借りて、二種類の参考図書を探す。まず〖次元の狭間〗について。さらに【変革】以前の刑罰について。
アリスが思うに、論文をらくらくと書くためには、核となる本を見つけることだ。
ただし丸写しはダメ。あの歴史教師のことだからチェツクするだろうし、丸パクリがバレたら、とんでもないことになる。
ドサッと、閲覧用のテーブルに複数の参考図書を置く。いちばん薄い本から試してみた。
しばし読みながら、なんとなく口に出す。
「ふーん。〖次元の狭間〗とは、その名の通りなわけね。次元と次元のあいだにあると」
とたん周囲にいた利用者から、にらまれた。うるさかったらしい。
「……すいません」
(まったく、神経質ね──ところでこの本、貸出可能だったかしら?)
貸出不可だったので、その場で重要な個所を書き写す。
アリスたちが住まう世界は、【表次元】というそうだ。
魔法理論上、【裏次元】が存在している。ただし、いまだ確認はできていない。
【表次元】と【裏次元】の間が、〖次元の狭間〗。
ちなみに〖次元の狭間〗への入り口は、特殊な古代魔法で作られると。
またまた魔法理論によると、〖次元の狭間〗では生き物は、歳を取らない。
アリスは読んでいた書物を、ぱたんと閉じた。
(つまり、〖次元の狭間〗に投げ込まれたら、永久にさ迷うことになるわけね。どんな場所かも分からない、次元と次元の間で──それって、死刑宣告よりもキツいかもしれないわね)
ただし別の書物によると──〖次元の狭間〗への追放刑は、実際に行われたのは一回だけだったらしい。
その著者によると、唯一〖次元の狭間〗に追放された者の名は──アロン。
当時の王国の権力を握っていた機関が、何としても排除したい相手だったとか。
なぜ死刑でなかったのか。それは死刑が不可能と考えられたからではないか──と著者は推測している。
ようは、アロンという囚人を殺すことは、無理だと。
(だとしたら、それってもう人間というより、化け物じゃない)
アロンという男に興味を持った。
が、論文テーマから脱線しそうだ。
そこでアリスは本筋に戻り、〖次元の狭間〗についてできるだけ調べる。
「ま。これだけ調べておけば、先生も文句はないでしょ。あとは家に帰って、まとめるとしましょう」
参考にした書物を返却しようと、席をたつ。
そのとき激しい揺れが起きる。
地震だ。それもアリスが体感したことのないほど大きい。固定されている書棚がぐらぐら揺れて、ついに倒れてきた。アリスに向かって。
アリスはスライディングするようにして、書棚の下敷きにならずに脱出。紙一重だ。
だが地震はおさまりそうにない。
それどころか激しさを増していき──
「嘘でしょ!」
壁に亀裂が走るのが見えた。しかも裂け目はどんどん広がっていく。
(この図書館、倒壊するんじゃないの!)