蛇鱗という怪人3
夕陽が差し込む街並み、時刻は既に夕方頃だろう多分。
夕陽に目を焼かれながら死にかけというか既に死んでしまったゾンビのような行進を続ける。
街を歩く人には二度見され、子供には指を指され、ビラ配りには逃げられる。
いや、やりすぎだろ。
この調子だと食事処に着いても追い出されるんじゃないか?
いや流石に大丈夫か...しかし先に服を買った方が良いか...?最低限の人権を得る必要があるかもしれない。
うんうんと頭を悩ませながらおぼろ気に覚えている道を歩く。
おや?こんな所に診療所が出来たのか、大きな病院が有るとはいえ距離があるから身近なところに診療所が出来て良かったとと思う近所の人も沢山居ただろう。
「お姉ちゃん!早く行くよ!」
「直ぐ行くから待ちなさい、絶対に一人で突っ走っては駄目よ」
診療所の裏口から声がしたので脇に体を寄せる。どこか吸い寄せられるような気配を感じ、身を隠す。
すると元気な女の子が二人、どこかへ飛び出していった。
うーん。何か、何か引っ掛かるんだけど...駄目だ、疲労と空腹で頭が回らない。やはり先に食事を優先することにしよう。
再び意思を固めるに至り止めていた歩みを再開させる。
こうしていると住民の話し声や、家電製品屋のテレビの音が、するりするりと耳に入り込んでくる。
『今日未明ガルドタウンで誘拐事件が───』
「昨日の学院のテストがさぁ~」
「来月オープンのデパート知ってる?」
『アンドレシティで大規模なヒーローと怪人の抗争が───』
「なんかホームレスみたいなの居るんだけど...」
「気のせいだろ?このご時世に」
「おい、向こうで乱闘騒ぎだってよ...多分いつもの事だろうけど」
僕の偉大なる先輩いわく、足での情報収集は基礎の基礎、ネットが広まった今もその土地で活動するのなら直接現地で声を聞くこと。これを怠ったものは思いもよらない所で手痛い失敗をすることになる。
もちろん僕はその言葉を無視して色々やってかなり手痛い失敗をした。だからこそその言葉には価値があると認めた。
周囲の音から情報を探り、精査する。それが僕の武器の一つ、今は無理だから頭に留めておくに限ろう。
いや待て、誰がホームレスだ。
怪人が出るように成ってから、怪人側に落ちそうな低所得の住民に仕事の斡旋やら何やらをされるようになってそういう人達は滅多に居なくなったというのに......
そんな視線にさらされつつもようやくの思いで僕が知る、食事ができる上に安く怪人の僕でも食べるのに苦労しないであろう飲食店、「ワークナルド」へとたどり着いた。
金が無い怪人時代、人型に変装ができる僕や他の怪人達で何度が買いに来た事がある。
サンドイッチのような構造で手軽に食べられ、更にエネルギーまで高いという、まさにバランスのある栄養は必要ない僕らにとって神のような...じゃなかった理想的な食料だったのだ。
我慢すれば一食100マドゥで済むのだから僕ら怪人でなくとも愛用している人類は多いのだろう。
やっとこさ得られるエネルギーに重い足が気持ち軽くなったかのような気分に浸りながら自動ドアを開き入店する。
独特なメロディが流れ、油や肉の焼けるようなジャンキーな臭いがお腹の辺りを締め付けるだが不思議と嫌な気はしない。
成る程、これが人間が感じる空腹か。
知識としては知っていても実体験としてはこれが初めてとなる。
この体...不便だなんだと思ってたけど......かなり使える、この現象を調べて切り替え可能にできないだろうか。
「いらっしゃいませ、ごちゅっ!......失礼しました、ご注文はお決まりでしょうか?」
うん......これは先に服からだったね。
笑顔でお決まりの台詞を言おうとした店員が僕の風体を見るなり壮絶に舌を噛んだ、それでもなお笑顔を崩さず一切の客への疑問を棚に置き、そつがなく対応をこなす店員のプロ根性には称賛が芽生える。
その笑顔のまま表情が固定されてピクリとも動かなくなってしまったけれど...
おっと、注文は決まっているんだ向こうと頑張っているのに僕が躊躇ってどうするんだ。声が他の人間にどう聞こえるかの検証を行っていない為、リスクを減らす為に指先だけでメニューを指差す。
「はい!ミートサンドイッチとコォーラですね。230マドゥになります」
小銭何てものは無いので1万マドゥを黙って繰り出す。
笑顔が固まった店員はお預かりします、とそれを受け取り手際よくレジを操作していく。
あぁ、やっとだ。やっと何かを食べられる...よくここまで理性が持ったな、僕。
安堵に身を包まれ、意識が周囲に散って瞬間、背後から大きな物音がした。別に振り向く必要もないなと思い、無視をすることに決める。
固い金属が何かにぶつかる軽い金属音が響く。
店員が手に持つ小銭をポロリと落としたようだ。
だが拾いに行く様子が無い、僕...では無くその後ろをじっと見つめたまま口をパクパクさせている。
へぇ、この店員をこんな顔させるなんてどんなものがあるんだ?
そう思い、後ろの状況を確認する為に肩ごと振り返るとそこには......全身から毛が生えた異形の怪物が僕が入り口のガラスを突き破りこちらに迫る姿だった。
「ひょろいの、どけや」
その異形は確かに人類と同じ言葉を話し、確かな殺意を持って僕をその獣の肉体から生える凶悪な爪で────
世界が、急速に回転した。
この世界では怪人が存在し認知されている分、現代日本とあらゆる点に違いが出てきています。
それは学校の制度だったり、警察の対応だったり...




