そして始まる「(Epi/Puro)rōgu」3
戦闘が開始して一分、未だに怪人は討ち取られずその存在を証明し続けていた。
それを見て『監視世界』は独りごちる。
「怪人真蛇、怪神蛇龍姫の作り出した怪人の初期ロット。与えられた力は『蛇鱗』身を守る力があるがそれ以外特に特筆すべき能力はない、と以上の点と古くからの生き残り怪人であることと特殊な発明品を産み出したのという事実を踏まえた上で政府の定めた脅威度で正規ヒーロー1人で充分という評価の準2級の怪人...そう聞いていたのだがね。どう思う?『天体視感』」
「推定評価、戦闘C能力D補助Bその他B+で総合評価は脅威度またの名を優先殲滅位準2級...だっけか?評価をつけたやつはポップコーン片手に映画鑑賞でもしてたようだな」
『天体視感』の仮にも今戦っている怪人をを誉めるような言動に責めることは出来ない。
何故ならその理由が今現も存在し、の前で大立回りを繰り広げているからだ。
一級ヒーロー、その称号は伊達ではない。単身で低位の怪人組織なら壊滅せしめるほどの力と影響力を持っている。そのヒーローがチームを組んでなお仕留めきれないということはつまり......
「一級怪人の上、特級怪人...か」
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「フンッ!砕け散れぃ!」
振り下ろされる豪腕を寸でのところで身体を急停止させ回避する。振り抜かれたと同時に巻き起こる風圧が僕の身体を押さえ付けるが今はそれすらも身体の熱を冷ますだけのものにしか感じない。
「あぁぁぁぁっ!まだだっ!!『巨人』!その強靭な肉体、頑強性、見かけによらない俊敏さっ!そして何より小さな傷なら数秒で直してしまう自然治癒力。素晴らしいっ!正に『巨人』!オリジン!最高位の力!」
極限状態にどうやら口が少し軽くなってしまっているがそれすらもどうでも良い。脳が痺れるほどの興奮に全てを飲み込まれる。
腕の周りを滑るように『巨人』の巨体に潜り込み瞬時に腕や足をしならせた高速の打撃を加える。
「私を忘れてもらっては困る」
あぁ、忘れてないさ!しっかりと見ているとも。
普通に体を倒して躱しても間に合わない首元を狙った鎌の高速斬撃を足の力を抜いてくれ自分から落ちることでわずか数舜の差で回避する。
僕の『蛇鱗』なんて無かったように切り裂かれるであろう致命の一撃に冷や汗が止まらない!あぁ、でもやめられない。
「Mr.『身体加速』、その俊敏さと太刀筋の冷酷さで数多の怪人を刈り取った瞬殺のヒーロー!だが特筆すべしところはそこではなく高い強度の『身体加速』を使ってもそれに振り回されない精神力とその状況判断力!この早さ、能力強度6はあるね!間違いない」
「なんなんだこいつは...」
やだなぁ、ちょっと憧れのヒーローに囲まれて興奮しているだけの一般的模範怪人じゃないか。立ち回れているのはアンプルを事前に使っていたお陰だしね。
身体を支えていた膝を自ら崩し、自重で落ちる力を利用しながら体を捻り右足を通りすぎる『身体加速』の後頭部を蹴撃する、がそれは光の壁に防がれる。
あぁ素晴らしい精密さ、こんな高速戦闘中にピンポイントで正確に守りにこれるヒーローはそういない。
「恐ろしいほどの正確な防御壁、『光壁』だね。『光』と、この硬質すぎる感触は、ほんのちょっとだけ『強化』かな?まぁ、ダブルには至らないけれどそれを無くしても光の壁を自在に操って仲間を助ける。もちろんそれだけじゃなくて自分で近接戦闘も出来るし能力の応用もある、いやぁ隙が無い。男女間でもそうなのかな!」
「うっ、気持ち悪いわね...こいつ」
僕の独り言を無視して、無視して?ミラーガードは『光壁』を振り上げた足の真下に設置する。ほんの少し光が反射しているから気付けた、同時にいくつも精密動作は不可能だろうと予測しそれを『光壁』に接触している足を利用して身体事逆に回転する。正直もう手一杯なのだが嬉しいことに切り返してきた『身体加速』が目前に迫っている。
なんて熱烈歓迎、1人相手にするにも勝てない戦いに等しいのに動くのは3人、いや4人か。
脇腹が熱した鉄を差し込まれたかのように熱い、見なくても分かる圧倒的な俯瞰的空間把握能力を持つ『天体視感』だろう。『巨人』の巨大な体の隙間を縫う弾丸、正に神業、能力で立体的な視覚を得ていたとしてもそれをするのは本人の並々外れた腕と必中させるという確信にも似た自信だ。銃の方も普通ではない、僕の『蛇鱗』を軽々しく抜いてきたんだ、只人が喰らえばその時点でショック死は想像に固くない。
と言っても僕も悶絶しているんだけど...アンプルの興奮剤作用と強烈な精神保全効果のお掛けで怯むこと無く動ける。ほんの一瞬でも体を硬直させたら『身体加速』と『巨人』に一瞬で引き潰されるんだよね。普段なら喜びに震える所だけど今は大事な大事な我が王の魂玉を持っている。負けるわけにはいかない、けれどこのままだと何もできずに負けるのは確定的だ。
だから、使うことにする。僕の集大成を───
「使うね、僕の研究結果。最高で最強のヒーロー達、楽しんでよ」
僕は2つの黒い鱗を地に落とした。
その黒い鱗は地面に落ちるなり直ぐに変化を表す。ドロリと泥のように溶けたかと思えば周りの塵や砂埃僕の流す血などを取り込んで、でかくそして形が整っていく。それ僕が我が王の役に立つために造り上げた研究成果の一部、『鱗人』は一瞬で人の形となってそれぞれ『巨人』の岩を砕く一撃を、『身体加速』の鉄をも裂く一撃を防いで見せた。
「なん、だそれは...?」
『身体加速』、『巨人』の動きが止まる。その一瞬を見逃してやるほど僕には余裕も時間もない。
手の形を整え、『蛇鱗』で最大強化を施し、『巨人』の懐へと飛び込み、刺し込む。
「ごぉ!?」
「『巨人』!」
「オーダー『突撃』」
僅か一単語の命令、『巨人』に手傷を負わせた瞬間に差し込む捨て身の特攻指令。それを受けた『巨人』の攻撃を防いでいた一体が全力で飛びかかり、同時に僕も更なる気合いを入れながら更に更にと奥へと踏み込む。
腹に突き刺さる抜き手に押され、たまらず後ろへ一歩下がった『巨人』へ『鱗人』が体当たりをぶちかましほんの少し空間が開く。
『巨人』が空けた隙間に体を潜り込ませ、体を倒し踏み込みの力を増すことで高速の一歩を踏み出した。それにより一歩目から最高の速度で走り抜ける。
二人は封じた、少なくとも生まれたばかりの『鱗人』は僕と同程度の戦闘力を持つように調整をしているので一~二分は持つだろう。経験を積ませてやれなかったのが非常に残念だけど彼ら相手に殺られるのならそれは怪人としての本望だろう。
そして、僕の試練はここからが本番だ。
『光壁』を操り、防御に秀るミラーガード。
『天体視感』によって得た視界による神業の銃撃を放つテンガン。
そして、なによりやばいのが
『監視世界』時間を操り停止減速させる力の最上位を持ち操るウォッチ。
くそっ!平時なら後先考えず突っ込んでそのヒーローの由縁たる光を一身に受けれたのに!
「まったく、ままならないな」
「あぁ、全くだ。君が最後になってしまったなんて失策だよ。最初に潰さなきゃならない存在を最後に残すなんて...『光壁』」
「えぇ、もう逃げ道は無いわ」
『光壁』が手を振るう、それだけで出口の通路が完全に封鎖される。
手加減してくれよ!雑魚怪人一体にそこまですんなよ!まぁ、持っているモノを考えたら当然の処置何だけどね!
腹から吹き出す血を『蛇鱗』の鱗を産み出して傷口を無理矢理塞ぐ。それと同時に『蛇鱗』の力を、素の力での最大限にまで高める。
深度7まで深めた力、そして元々持つ素の体術である程度の、『監視世界』以外なら抜けると確信を持てる。
だかウォッチの『監視世界』だけは対抗できない。
もっとも、事前に来ると分かっていたので何とでもなるように準備をしてきたつもりだが。
『蛇神姫』の正確に言えば『蛇』の能力が込められたオーブを思う。僕1人にこれだけのヒーローが全力で襲いかかる理由はこれだ、この『蛇』のオーブを人類が手に入れれば人類は『蛇』の力を得ることが出来る。
それは別に良い、人類が強くなり新しい光が生まれるのなら歓迎すべき事だ。
けれどそれはヒーローが自らが困難に打ち勝った報酬であるべきで、こんな雑魚怪人の討伐報酬にしては豪華すぎる。
だから渡さない、死んでも渡さない。たとえここの研究成果を奪われたとしても、これだけは譲れない。
これがヒーローの手に渡るのは復活した我が王を打ち倒した時だけだ。
その光景を思い浮かべると、何故かいつも笑みが深くなってしまう。
「異常者が...」
『天体視感』がよく分からないことを呟きながら再び銃を構える。僕は異常じゃないよ、怪人だ。これが怪人のデフォルトだ。
少なくとも僕はそう思っているし事実その通りだろう。
『鱗人』のストックはあと二つ、βアンプルの効果は十全に発揮している。そして遅効性のαアンプルの効果もやっと効果が出てきたところだ。心なしか僕の自慢の『蛇鱗』の艶が良くなっている気がするし。
これならば通じる。
ははは、気分が良い。きっと勝負はきっとこの数秒で決まるのだろう。
指を整え親指を折り畳む、想像するのは一本の尾だ。僕の腕は今、敵対者を縛り付け切り裂く鋭くしなやかな蛇の尾となった。
両足も合わせると二刀流もビックリのなんと四尾流だ。通常指で人を突き刺そうとしても突き指してしまうけれどそこは僕の『蛇鱗』がカバーしてあり余る。『|巨人《巨人》』の分厚い筋肉と皮膚を貫いたのもそのお陰だ。
アンプルによる強化、能力の最大活用、それを利用した格闘術の開発。これが僕の持ちうる全てを突き詰めた集大成...には届かないけどそれでも今出来る全力だ。これを一級...いやそんなくくりもどうでも良いか、目の前のヒーロー達にぶつけれると思うととても嬉しく、じゃなかった通じるかどうか不安に思う。
そうだ、通らないと思うけど一応聞いておかなくてはね。足を止めること無く『監視世界』に提案する。
「そこを通してはくれないかな?」
「無理だ。必ずお前を捕まえて色々聞かないといけないことが増えたからな、捕縛させてもらう」
「そう、だよねぇっ!」
交渉決裂、踏み出した足をそのままに逆側の足で『監視世界』へと足刀を見舞う。
そのまま通るとは思っていない、案の定途中で光の壁に阻まれて大きなヒビを残すに留まる。
想定以上の成果を得ることができて思わず舌なめずりをしてしまう。
おおっとイメージが悪いから止めろって言われていたけど、余りにも嬉しすぎてついやってしまった。
ヒビ、入ったねぇ。
「っ!『監視世界』!こいつの攻撃さっきよりも重い!」
「...『天体視感』」
「了解。離れろ変態がぁっ!」
『天体視感』の目にも留まらぬ速射、計五発の弾丸が僕に迫る。目視は出来ないほど速い弾丸が迫るが、来ると予想できていれば回避できるので、一応回避しておく。
そして、少しでも距離が開いたのなら...来る『監視世界』が『監視世界』たる所以の技が。
「終わりだ、お前にこれは防げない。『私が見る世界/Time cut off』」
僕を、僕だけを見つめる『監視世界』の片目が、ゆっくりと閉じられる。
そして
まるでその部分を切り取られたかのように、僕とその周囲の時間が、世界が、確かな停滞を始めた。
αアンプル
身体能力の強化と能力深度/強度の上昇
βアンプル
精神保護と戦意高揚効果、痛覚軽減。
αはともかくβの方はどう見てもあぶないおくすりですね