そして始まる「(Epi/Puro)rōgu」2
怪神の部屋を出て僕が真っ先に向かったのは僕の研究室だ。ここでは能力の位、深度と怪神について研究をしていた。といっても深度というのはあやふやなもので対外的に見て出来ることからその深度を図ることしか出来ない。1なら発現、3なら周囲に影響を与え始め、5なら現実を侵食するつまりは概念レベルの力となる。炎なら熱だけではなく実際に燃焼し焼き尽くすといったように。
能力深度はヒーロー側にも存在しており名前を変えて能力強度と呼ばれている。つまり僕はその能力深度を上げる、または下げる手段を確立し我が王へと献上し貢献するのが役割だった。
怪神の研究はその過程で必要だったというだけだったが、そのおかげで魂玉の状態になった我が王を甦させれるというのだから僕は幸運だろう。
話を戻そう。つまるところ僕の研究はヒーロー側にもかなり有益な物で、奪われれば自惚れでもなんでもなくヒーロー側の科学者達の研究がかなり進んでしまう。
これがヒーロー達の成した結果であれば文句は無いけれど、棚ぼたのような形でヒーロー達に渡してしまう事は本意ではない。
「もうこんなところにまで入り込んでいるなんて、準一級、二級ヒーローもかなり投入してきているね」
「怪人だ!生き残りが居たぞ!」
「本部に報告しろ!」
「生き残り...ねぇ」
僕以外の怪人は既にやられてしまったのだろうか、一級怪人は居なかったがそれでも準一級が5人、ニ級が20人弱それに戦闘員が数多く居たと思うのだが、流石に一級ヒーロー達を止めることは出来なかったのだろう。
1人だったらともかく複数人でチーム組まれたらなぁ、無理かぁ。
それでも全滅だけは有り得ないけど。
我らが能力の大本『蛇』である限り我らは不滅で生き延びる。我らは執念深いのだから。
「『炎』の『炎熱』フレアー!」
「同じく『炎砲』ボルガ!行くぞ!」
「...怪人『真蛇』、戦いたいのは山々だけど余裕がないんだ。通らせてもらう」
ヒーローと怪人の一種のお決まりのような名乗りを上げる。
因みに前の『炎』が大本で後ろの『炎○』が個人が保有する能力だ。遥か昔に原初の怪人である『強化』の怪神を打ち倒した最初のヒーローのようなオリジンでも無い限り怪神から生まれる魂玉より力を与えられてヒーローとなる。
大本は怪神の力というのは完璧な情報操作をされていて殆どのヒーローや怪人は知らない事実なのだけど、魂玉を手に入れれば強くなれるという事だけが伝えられている。
人類が保有している魂玉に感応できる者が直接力を受けとるか魂玉自身がその力を預けるにふさわしい相手に力を授けるといわれているがその仕組みは未だ解明されていない。
だからこそ全ての能力に関して研究している科学者はその謎を解明するため血眼になり自由に出来る魂玉を探しているわけだけど。
今まで今日に至るまでに人類が保有できた魂玉の数は10しかないという、その事からどれだけ貴重な物だということは想像に固くない。
おっと思考がずれていた、今は目の前のヒーローを凌いで前に進まなければ。
良かった、幸運にもこの2人は僕の知っているヒーローだ。
ならば対処は出来る、対策を講じれる。
身体に熱が籠る、ずいぶんと久しぶりのヒーローとの戦闘だ。怪人として興奮しなければ嘘だろう。
ダメだ、冷静になれ、ここでは、今はダメだ。
「何を呆けてやがる!いくぞクライミングファイアー!」
フレアーの放った炎が地面を焦がしながら僕へめがけて走るように燃え広がる。
それは知っている、炎系能力者それも燃焼、高熱系統がよく使う地走り火炎だ。
威力は並みだが速度が速いな、だけど速いだけなら僕の鱗は通さない。
迫り来る炎の疾走を、ただの踏み込みを持ってして霧散させる。
うん、ちょっと熱いな?想定よりも火力が高いか。でも無視できる範囲だね。
勢いを散らし霧散させた炎の道を何事もなく疾走する。実際には熱いけど効いてないように見せかける。
「っ!熱耐性持ちか!?」
「なら俺の出番だな、ファイアーボール!」
次に前に出てくるのは『炎砲』、その名に違わぬ威力を持つ破壊の炎を生み出すヒーロー。威力が高く使い勝手が良い能力だが事前に知っていれば弱点も分かる。それに選択してきた技は火の玉、対策はかなり簡単だ。
服の下に仕込んである瓶の一つを抜き出し投擲する。それは寸分たがわず生み出された火の玉に接触し、爆発した。
「なぁっ!?」
「ぐぅっ!」
いくら『炎』の能力持ちと言えど全ての炎の技に対して耐性を持っているわけではない。それは爆風であったり、それに乗じて飛んでくる破砕物であったり。
ヒーローとて生身の人間だ、体を強化するような能力でも無い限りその身体能力は人間の範疇に収まる。だからこそ鍛える、だからこそ技を極める。
怪人として僕はかなり弱い身体を持って生まれた。だからこそ能力を有効活用するために鍛えたり技を学んだりしたものだ。それでも限界というものは存在するものだと知ってしまったが。
兎も角、僕と相対する二人のヒーローは能力だけを鍛える典型的な術者タイプといえる。
近接タイプが居れば何とか成ったのにね。
僕はやさしい表情を浮かべながら火の玉が爆発し生まれた煙を抜ける。
何故か僕の顔を見て硬直した2人を一撃の元に沈める。
突然出てきて驚くのは分かるけど硬直したらダメじゃないか、そこは自爆覚悟で火の玉とかさ...
意識を失った2人のヒーローを見下ろして評価を下す。
うーん、ボルガ君は準二級かな。火の玉に一定以上のモノが接触したら不純物に反応して暴発し、爆発するというのも知らなかったようだし、でも最後に怯んだのはダメだ。
僕らを殺す光足り得ない、あの日見た彼女には遠く及ばない。
そして、こっちのフレアーは二級かな。
じりじりと痛む膝を見下ろす。
最後の攻撃を受ける時確かに反応し、耐えれないと判断して僕の攻撃力を削ぎに来た。その狙いは成功して僕の膝の鱗が見るも無惨に溶けかかっているけれど...
「この程度のダメージならまだ、問題ないんだよね」
治療も必要ない、再び溶けた鱗の下に新たな鱗を生み出す。蛇は脱皮が出来る、もちろんこんな風な一部だけ取り替えるというのは不可能だが僕の能力深度なら問題ない。というより全身脱皮なんてしたら姿まで変わってしまう。
まぁ、変わってしまっても変わるのは外身だけで匂いや体内組織は一緒だから簡単に判断できるらしい。
いやそんなわけあるか。
さて、急がないといけない。先程連絡を取っていた事からしばらく再度連絡がなければ即座にここに応援が呼ばれるだろう、予想だがあと二分ほどか。
「新しい芽を見るのは好きなんだけどなぁ」
勿論摘む気はないし、出来れば成長させてやりたいと思うがそれは我が王に止められている。
だからこそ怪人、ヒーローどちらにも得がある研究を進めたのだ。
「行こうか、研究室まではまだたどり着いてないことを祈ろう」
こんな所に暫定二級ヒーローがいる時点で望み薄も薄だけど。
居たら居たらで、そこは戦わないと行けないよね。うん仕方無いことだ、うん。
自然とにやけそうになる口元を手で抑え、再び研究室までの道筋を走る事数分、何の妨害も無く研究室の扉の前まで到達した。
ここまでは良い、良い流れだった。損耗も少なくたどり着けた。魂玉も僕が蛇である事を利用してとある方法で完璧な隠蔽に成功した...かなり苦しかったが成し遂げた。
だけどそれはここからも良い流れである保証ではない。むしろ悪い流れが来る予兆ですらある。
良い流れというのは主観的に見ての話であり、どんな人物も物事が上手くいっているときには気が緩む。
意識的であれ無意識であれ、だ。
パスコードを入力し扉を開く、中に人の気配はない。
「手早く済ませないとね」
そこらに散らばる研究資料を全てバーナーで燃やしていく。火事に成るけど紙資料はこれが一番早い。場合によってはこれでも復元されるが大事な部分だけは既に確保している。
怪神の研究成果である黒い鱗を四枚全て保管ケースから取り出した所で警報が鳴る。もう来たのか。
扉に目をやると、奥の通路から5人が歩いてきている。ここは一本道だ、抜けれそうにない事を確信し扉を閉める。せめての時間稼ぎに成れば良いが。
扉が締め切られた瞬間研究室全体を揺るがす程の衝撃が貫いていく。
耳が痛い、今のは『巨人』かな?ちらりと見えた他のメンバーも見覚えのあるヒーローだった。
「と、なると必要なのはαアンプルとδアンプルか。使いたくないんだけどなぁ。仕方無い、仕方無いよねぇ...?」
もう時期扉も破られるだろう、僕がどうやっても破壊できないくらいには頑丈なはずなんだけど。
流石は『巨人』、流石は一級ヒーロー。
ヒーローの中でも本物が集まった集団。
先程の二級や準二級とは比べ物にならない力と志を持つ心技体を揃えたヒーロー。
そう、仕方無い。逃げられなくて仕方無いからちょっと味見をするだけだ。
最後の仕上げにこの部屋に仕掛けられたある装置を起動させ、能力を全開にして身体を頑丈でしなやかな鱗で覆う今の僕はまるで蛇人間のような風貌をしている事だろう。
次の一撃で扉が破られる。精々生き延びるために全力を尽くして挑ませてもらおう。
それがヒーローと怪人の役目なのだから。
扉が破られる、扉だった破片が僕の頭の直ぐそばを通り抜けて壁に衝突し地面に落ちる。
破壊したのはやはり『巨人』だ、その剛腕を振りかぶった形のまま固まっている。
そして、他のヒーローを見て思わず顔を歪めてしまう。
五人全員が一級ヒーローじゃないか。
それも一目見て分かるレベルで有名な。
『監視世界』『巨人』『光壁』『天体視感』『身体加速』
ヒーローを代表するこの国で100人にも満たない一級ヒーローが5人か...やりすぎだろう。そりゃあ壊滅まで一時間持たないよ。
βアンプルも使うか、今の内に摂取しておこう。
懐から緑色の液体の入った瓶を取り出し専用の針がついた注射器にセットする。注射器で取り出さないのかという質問はそんな無駄を無くしたというのが僕の答えだ、それはアンプルと呼んで良いのかどうかは別の話として。
特別製の注射器はどんな硬い皮膚も貫いてその役割を果たす。......元々王の皮膚を貫く為に作ったんだよなぁ、いつも荘厳なイメージを持たせといて注射器は怖いとか、そのお陰で開発したさせられた針なし注射器もあるけど今は必要ないね。
「...っかぁ!効くなぁ」
空になった瓶を取り外し懐の取り出しやすい位置に入れる。
注射器も同様に仕舞い、ヒーロー達の出方を見る。
扉を破って未だ動く気配は無い、なにかを警戒しているのか。こちらから動いても利点は少なそうだしゆっくり観察でもすることにしよう。
そして、アンプルで鋭敏になった耳が微かな音を拾った。それは『監視世界』が放った本当に微かな、けれど確信をもった声。
「あいつが怪神の魂玉を持っている怪人だ」
冷や汗が頬を流れる。
何故バレた?当然の隠蔽はしているし目に見える場所には置いていないというか絶対に見えるわけがない。消去法?僕が最後の怪人だから?それにしては余りにも確信に満ちた言葉だった。
いや今考えるのはそこではない、ここを切り抜ける方法だ。正直僕みたいな雑魚怪人相手なら2人か1人を残してさっさと別の場所に向かうと思っていたんだ、だがそれも僕が魂玉を持っていることがバレた時点で望み薄だろう。
覚悟を決める、コートの中で指先の動きだけでαアンプルをセットしていた注射器で体内に摂取する。こいつは遅効性だがとある効果を持っている。正直こんな序盤で使うようなものではないがこれもまた、仕方無いことなのだ。
「あいつは、資料で見たな」
意識を研ぎ澄まし沸き上がる戦意を高めていると『監視世界』が僕に声をかける。いや、かけたつもりはないのだろうただ確認のための独り言だ。
その証拠に僕が返事をする前に次の言葉を繰り出す。
「ここの怪神『蛇神姫』の最初の怪人。最初の10体、通称初期ロットの唯一の生き残り。ただし戦闘で生き残ったわけではなく裏方として組織を支えていたので今日まで生き残ることができた...」
散々な言われようだがまさしくその通りなのでなんとも言えず顔を思わずしかめてしまう、
始めての仲間が次々とヒーローに打ち倒されていく中、王の言葉とはいえ前線から逃げたのは間違っていない。
新しく作られた怪人の方が明らかに強かったからね!古参は邪魔にしかならないと思って裏方に回った。それまでは結構ブイブイ言わせていたものだ。
だから手加減して何人か帰っても良いのよ?
「皆、全員で仕掛けるよ。奴が情報通りだとしてもあの面構え...恐ろしいものを感じるからね」
「ははっ、ナイスジョーク。僕なんかに御大層な事だ。豪華すぎて胃もたれしちゃうよ...それと僕の顔、愛嬌があるって評判なんだよ?」
「ハッハァ!どう見てもそんな面してねぇだろうが...『監視世界』、先いくぜ『巨人』タイタン進撃だっ!」
「ああ、よろしく頼む『巨人』。『身体加速』も行ってくれ」
勢いよく飛び出して迫り来る巨人の圧力振り上げられたその剛腕に僕はそう、仕方無く生き残るために前に進んだ。
えをも言われぬ衝動に身を任せて。
この世界のヒーローはチームを組みます。
圧倒的な能力を持っていても身体能力が人を逸脱するわけではないのでその二つを兼ね備えた怪人に対して一対一だと相性やらも有りますが前提として肉体の貧弱さで不利だからです。
だけどそれは経験でしか分からないもので、だからこそ戦い続けた強い人ほどそれが分かってくるのです。
Qつまり?A強いやつほどよく群れる