照らしても泥の華はなおも───3
タイトルミスっていた...死にたい
タイトル修正しました1/22
花崗 輝雄、そう名乗った医者は手元にあるカルテに目を通しながら言葉を続けていく。その様子は僕にも見覚えがある、興味のあるものを見つけた僕らのような眼だ。
「起きて早々すまないが話を聞く余裕はあるかね?...大丈夫そうだね、では君の怪我の様子だがね。本当に素晴らしいとしか言い様の無い生命力だね?なにせ火傷に関しては殆ど完治しているんだしね。少々特殊な治療を施したとはいえこの皮膚の再生、回復速度は余りにも異常で興味深い...確かに前例が無いとは言わないけれど僕自身見るのは初めてでね、少々興奮してしまったね」
花崗医師はそう言いきると人当たりの良い笑みでにっこりと笑いパタンと音を立ててカルテを閉じる。
眼が怖いんですけど...いや、何となく危害を加える気配は感じ無いから大丈夫だとは思う。
一応何時でも立てるように手を動かそうとして腕に刺さっていた物が何だったのかと分かる。
ついでに足も白いモノでぐるぐる巻きにされて完全に固定されているようだ。
「点滴...」
「あぁ、運ばれてきた時には火傷はある程度治っていたのでね?それよりも重度の栄養失調であったことの方が不味いと思ってね。足に関しては...企業秘密でね?まぁ、体に悪いことはしていないね」
まるで一週間水しか飲まなかった遭難者のような状態だったね、と花崗医師が続ける。
それほどまでに肉体が衰弱していたのか...いや、腕と足の一本づつを生やしたと思えば破格すぎるのだが。思えば戦闘中もずっと体の再構成を続けていたのだ、通りで白毛皮怪人の時全くと言っていいほど体が動かなかった訳だ...蹴りを繰り出したところで限界が来ていたのは薄々分かっていたのだがその後が続かなかったのは僕の認識の甘さだろう。
それよりも、大事な事がある。ここまでしてくれているのだ大丈夫だったのだろうとは思うが...一応確認しておかなければ。
なんて聞けば良いだろう...迂闊に聞けば怪しまれるしなぁ...そうだ。
「異常...僕の体はそれほどまでに何かおかしいのでしょうか...」
これだ!これなら万が一怪人とばれていても誤魔化せるかもしれない。表情は少し不安げにしながら伏せ目がちに花崗医師を覗き込む。
僕は演技力に関してハリウッドにだって通用するだろうという自信がある。
他の怪人組織に行くときに弱々しく居たらなめられて不利益しか被らないからなぁ...頑張ったよ。
「いやいや、すまない言い方が悪かったね?君は正常だね?変わったところはあるが君は正しく人間であるね、僕が保証するね」
医者のお墨付きが出たか...出したというのが正しいけど。この様子なら血液検査もしたのだろう、それでもなお人間であるという言葉を引き出せた...つまり、僕は今人間であり怪人であるということになるのか。
能力の名残か皮膚に関しては再生能力が残っているようだが花崗医師は何かで納得できている様に見えた。
「ありがとうございます」
「いやね、僕の失言だからね...本当にすまないね。しかし......ふむ」
「どうか、されましたか?」
花崗医師はカルテとは違う他の資料と僕の顔を見比べながら何かを考え込むように目を閉じる。
「予想以上に落ち着いていると思ってね。これなら話しても大丈夫そうだね」
「話?」
「そうだね...君もあの場に居たんだね、聞いておきたいだろうね?今回の、事件の顛末を...ね?」
それから聞かされた話は、僕の予想の範囲内...そして想像以上の話だった。
今回の騒動は今日の夕方ごろ、この街の役所が襲われたということから始まる。
役所を襲った金の毛を纏った怪人は『金光怒髪』と名乗り警備の者を蹴散らして何かの資料を奪うと即座に逃げ出した。その際駆けつけたヒーローが二人追跡に向かうも返り討ちに合い重傷、逃がしてしまった。この街の正規はヒーロー五人、残った人数で追撃を行うかどうかを考えている内にまた一つ怪人の襲撃が起きる。大事に備え三人のフル出動をするが暴れていた怪人は呆気なく倒れ捕縛されることになる。
そして考える間も無く更に怪人が至る所現れ、仕方無くチームを組んで対処に当たらせていたが数が多すぎて全部は不可能と判断。未だ修行中の未熟なヒーローさえ出動させ事件の終息に至った。
この時、殆どが雑魚のようなモノだったとはいえ何体かが『金光怒髪』ほどではないとはいえ強力な怪人が出現し、民間人、ヒーローにも多くの被害が出た...というものらしい。
「君を僕の元まで運んできてくれたのは『蓮華』というヒーローだね、感謝しておくと良いね?」
「それは...そうですね」
ヒーローに病院に搬送される怪人...間抜けすぎる絵面だが今の僕は半分人間のようなものなのでセーフ... うんセーフ。
運んでくれたのはあの紫の和服メイドの方だろう、黄色い光の子の能力では運べそうにない。
どちらにせよ今日会うことはできないだろう、何故か顔も声も上手く思い出せないのだ探すという行為も無意味に思える。
それに怪人が本格的に動き出している、早く帰って準備をしなければ...
「...何をしようとしているね?」
「え...?帰る準備を」
「いやいや、最低でも明日まではここに居て貰わないといけないね?経過も見ないといけないし...ともかく明日、精算もしてからの退院になるね?」
「つまり帰れないと......ん?精算?」
「あぁ、保険が利く治療しかしていないから安心するといいね」
不味いぞ!僕は今戸籍が無い状態...治療費が幾らか知らないが保険というものが無ければ相応にするのだろう。
三万...いやワークナルドで預けたままだから二万マドゥ......え?足りる?よしんば足りたとしても生きていける??
悶え苦しむ僕を不審な目で見詰める花崗医師、流石に何か不味いことに気が付いたのか口を開こうとして...
「お父さん、彼がさっき言ってた患者さん?」
それは、病室の入り口から覗く二人の少女の存在に遮られた。




