そして始まる「(Epi/Puro)rōgu」
紅い鮮血が舞い散る。凶器の刃がてらてらと妖しく光を反射している。
僕ら『蛇』の怪人の産みの親である怪神『蛇神姫』の巨体が崩れ落ち、光と共に宙に溶けていくように消えていく。
それは突然の出来事で、『蛇神姫』は声をあげることも出来ない。僕は驚愕する間もなくそれを成した下手人の元へ走り叫んだ。
「なにを、何をやっている怪人、亡蛇ぁ!」
「見てわからんのか、魂玉を取り出している。必要だった」
何をバカなことを、何に必要かは知らないがそんな理由で我らが王を殺して良いはずか無い。
「まともに戦えば私なんて存在は数秒もかからず消滅するだろうがな、油断したな王よ」
油断?油断といったか?
自らが産み出した怪人の1人に話があると言われそれに快く乗った優しき王に、油断?
「それは油断じゃない、信頼だ。どこの世界に自らの産み出した子のような怪人に刃を向けられると想像できる王がいる!」
「......それを油断と言うのだよ。そしてそれはこうして証明されただろう?」
「このぉっクソ野郎がぁ...っ。いや、もういいお前を殺して我が王を蘇らせて終いだ...楽に死ねると思うなよ」
「何も考え無しにこんなことをするはずがないだろう、そういえば話は変わるが今日、お前と王は何の会議をしていたんだっけかな」
それは最近になって突然僕たちの領域に入ってきた一級ヒーロー達の対策と目的の調査の段取りを...いや、まさか。
その思考に思い当たると同時にアジト全体が大きく振動する。
や、やりやがった。
「もう来たのか、迅速で結構。取り引きには強大な力を持つ王の魂玉と...怪人の癖に研究者などをやっているお前の首を持っていこうか」
この期に及んで寝言をほざきあろうことか怪神の核である魂玉を手に握った亡蛇に一息で接近し、蹴り飛ばす。同時に足の爪先で我が王の魂玉を回収する。
「しまっ!」
「うるさい死んどけ、いややっぱ寝てろ」
蹴り込んだ足を引くと同時に魂玉を手でキャッチ、ほんの少し体を浮かして吹き飛びそうに成っている亡蛇の目に向けて今度は怪人に備わる能力も使った硬質な足刀を差し込み捻る。
「ぐぅぁっ!貴様動けたのかぁっ!」
「当たり前だろ、これでも一番の古株だっ!」
「だがっこの威力、まともに打ち合えば私の方が...上だ!」
亡蛇が死に物狂いで手に持つ血に濡れた剣を振るう。それだけは喰らってはやれない、毒か何かは分からないがゆえにかすり傷も受けてやれない。
「あぁ、だから。寝とけよ」
空いている方の手の手刀で剣に触れず剣を持つ手首に叩き込み一瞬怯ませる。その隙に追撃の蹴りを首元に叩き込み意識と首の骨を砕く。
短く引き付けを起こして亡蛇はだらりと舌を口から垂らして泡を吐く。完全に気絶した、これでも死んでないのは新しく生まれた怪人ほど強い能力と身体能力を持ち合わせているからだ。初期ロットの僕の力ではどれ程鍛えても明確な差が出る、だから亡蛇は僕に自分を倒せる程の戦闘力があると思っていなかったのだ。
だが今はこれで都合が良い、完全な不意討ちで討ち取ったこいつには死んでもらうわけにはいかない。だが連れていくわけにもいかない、やつの言葉と先程の振動の事から考えてヒーローが既にアジトへと侵入してきていると考えて良いだろう。時間がない。
「...クソ。せめて一撃で怪神を屠ったこの剣だけでも回収して後で研究しないと」
血に濡れた剣をそばに合った鞘に差し込み、様々な薬品と道具をくくりつけてあるコートの中に差し込む。
そしてその道具の中から通信機を取り出してスイッチを入れて叫んだ。
「状況報告!」
「───っは!現在──を迎撃中──は一級が確認されています!」
通信機からは直ぐに返事が帰ってくる。途切れ途切れの音声だが何が起きたかの確認は容易い。
「確認できたのは誰だ!」
「───『監視世界』、『巨人』です──他にも二級ヒーローが多数...がぁぁっ!───ぅっはぁっ、1人はんめい、しました『身体加速』ですっ!私は、もう、あとを、我らが王を...ぁ───」
「...ご苦労だった」
最後まで伝令の役目を果たした怪人に敬意を払いながら通信機を握りつぶす。ヒーローに奪われていた場合が不味いからだ。最悪僕のやっていることが筒抜けになる。
ちらりと泡を吹きながら寝ている亡蛇を見る。もう一撃とは言わず何度も叩き込んでやりたい所だが時間がない。
「ここはもう堕ちる」
それが僕の出した結論だ。怪神である『蛇神姫』が万全ならばどうとでもとは言わないが抵抗らしき抵抗は出来ただろう。だがこのふざけた裏切りによってかの王は魂玉へとなった。その事実を知れば他の怪人達がまともに戦えるとは思わない。
王とは、自らの創造手であり、守るべき主であり、最大の戦力であり、心の支えなのだ。
だからこそ真っ先にこの亡蛇はそれを折った。
その先に何を考えていたのかは分からないがヒーロー達と内通していたのだろうこの怪人の回る舌ならば改心したなどと嘯くくらいはやるだろう。ヒーローの一部が違和感を覚えても何もしていない改心しようとしている亡蛇を勝手に裁くことは出来ない。
「ヒーローと戦って散るのなら良いけどなぁ、これは無いよね。てことで逃げよう」
数秒の思慮の間で思考は冷め口調もいつも通りになった自覚がある。
逃げる、我が王の魂玉を奪われていないのなら我々の勝利なのだから。
僕はその為に豪華で重苦しい扉を開いて脱出口へと急いだ。
謎の発想からの試行作が出来たので取り敢えず投下してみる
プロローグの数話まではあるけど反応があれば続くかも