第四十一章 安楽死
広美は全員に事情を説明して、「加藤詩織の子どもが事件に関与している可能性があります。西田君、加藤詩織の子どもの性別、氏名、年齢を確認して下さい。他の人は、植木巡査の目撃者を捜して下さい。私は加藤詩織に事情を聞くわ。」と指示した。
翌日捜査会議で須藤刑事が、「昨日、植木巡査らしき人物が誰かを尾行していたらしいです。非番の植木巡査が加藤詩織の子どもに気付いて尾行していた可能性があります。確証を掴んだので、署に連絡しようとした瞬間に襲われた可能性があります。植木巡査が尾行していた人物は若い女性だったらしいです。」と報告した。
西田副主任が、「加藤詩織には麻子という娘が一人います。先日からアパートにも戻ってなくて職場も無断欠勤しています。」と報告した。
広美は他に有力な情報もなかった為に、全員で加藤詩織の娘の行方を追うように指示した。
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加藤麻子の写真を湯浅課長に見せると、「えっ?この娘が加藤詩織の娘の麻子ですか?」と信じられない様子でした。
広美は、「課長、加藤麻子をご存知なのですか?」と湯浅課長が何か知っている様子でしたので確認した。
湯浅課長は、「彼女は植木巡査の友達です。スナックで偶然知り合ったらしいです。」と驚きを隠せない様子でした。
広美は、加藤麻子が植木巡査に復讐しようとしてスナックで接触したと判断して、「加藤麻子の足取りを追って!」と部下に指示した。
広美は加藤麻子の行方に繋がる可能性があると判断して、小学生や中学生や高校生の頃の同級生や職場の同僚達や親戚に、加藤麻子の事を聞いていた。
子どもの頃から犯罪者の娘として世間から白い目で見られ次第に不良になっていった。高校生の頃に、一人の男性に一目ぼれして、その男性が警察に就職した為に、リンチまで受けて不良グループから抜けて、真剣に更生しようとしていた事が判明した。
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広美が捜査会議で加藤麻子の事を説明した。
前田刑事が、「まさか、信じられませんね。現在も加藤麻子の行方は不明です。」と広美に反論した。
広美は、「私も殺害された刑事が携わっていた事件が偶然にもあって、その関係者に襲われたので、それに気を取られていました。彼らが今捜査中の事件にも関係あるかもしれないと判断して、昨日事情を聞いてきました。去年植木巡査の妹がけがをして京都中央病院に入院しました。お見舞いにいった植木巡査がその時、医師が安楽死の話をしているのを偶然聞いたらしいのよ。その捜査をしていたのが、殺害された両刑事でした。」と説明した。
西田副主任が、「そんな事をしたら、安楽死させた事を認めた事になるでしょう?そんなバカな事はしないでしょう。」と不思議そうでした。
広美は、「私はなにも安楽死を隠そうとしているとは思ってないわ。ただ今回の事件に無関係だとは思えないわ。」と単純な事件ではないと感じた。
前田刑事が、「お医者様は芸者遊びする事もあるのではないですか?その線から何か解りませんか?」と広美に期待した。
広美は、「あんたは芸者がいないと何もできないの?それに京都中央病院の医師は、私の置屋のお客様ではないわ。他の置屋の客よ。」と芸者は諦めるように促した。
前田刑事は、「もう後藤刑事は動いていますよ。京都中央病院で聞き込みしている時に雑談で、鶴千代さんは素晴らしい芸者だと噂を広めていますよ。もし京都中央病院から声がかかったらお願いします。」ともう動いている事を伝えた。
広美は、「もう、あんた達は・・・また他の置屋と揉めるじゃないの・・また母から小言を聞かされるわ。」とため息をついていた。
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西田副主任が捜査から戻った。
「植木巡査が拉致された現場を目撃した人がいました。確かに植木巡査は拉致されたようですが、その時に若い女性も一緒に拉致されたそうです。確認すると加藤麻子のようです。」と報告した。
前田刑事が、「加藤麻子が拉致された?この事件の一味ではなかったのか?」と混乱している様子でした。
須藤刑事が、「その人物は、何故通報しなかったのですか?」と不思議そうでした。
西田副主任が、「カメラで撮影していて監督もいてロケの芝居をしていたようです。確認しましたが、当日、ロケの届は出ていませんでした。無届でロケした可能性があるとして確認しましたが、どこでも、そんなロケは行っていませんでした。道路使用許可願も提出されていませんでした。目撃者に写真を見せて確認しました。拉致されたのは、植木巡査と加藤麻子に間違いないです。」と説明した。
広美が、「現場を目撃した人は、車両番号など、特徴を覚えていなかったの?」と確認した。
西田副主任が、「興味本位で確かに覚えていました。後藤刑事が確認中です。」と説明した。
後藤刑事が戻ってきて、「残念ながら盗難車でした。先程生活安全課が巡回中に犯行に使用された車を発見して、前田刑事が現場に向かいました。」と報告した。
前田刑事から、「トランクのシートの下にメモが隠されていました。拉致したのは京都中央病院の内科医、嶋田渉医師だと書かれていました。」と連絡があった。
嶋田医師は、加藤麻子や植木巡査の携帯の電源は切っていましたが、まさか自分の事は、ばれていないと判断して、自分の携帯は電源を切っていませんでした。
広美が嶋田医師の携帯の位置をGPS機能で探査して、捜査員と付近を警ら中の警察官に伝えて、「相手は内科医なので、加藤麻子と植木巡査が毒殺される可能性が高い。至急向かって下さい。」と南区の廃工場の場所を伝えて指示した。
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その頃、廃工場では、嶋田医師が加藤麻子に、「お前はこの婦警を恨んでいるのだろう?殺すように依頼されたのに、何故襲わなかったのだ。」と殺す前に聞いておこうとした。
加藤麻子は、「確かに頼まれたわ。でも断りました。私の片思いの彼は警察官よ。そんな事をしたら、彼に顔向けできないわ。」と断った理由を説明した。
嶋田医師は、「お前達を恨んでいる加藤詩織に大金を支払い、殺害を依頼したが計画がおじゃんになった。お前はここで、その婦警を殺して、その後、罪を悔いて自殺する事になっている。」と粘着テープで縛られて動けない植木巡査を、ナイフで刺し殺そうとしていた。
そこへ三係の刑事達が到着して広美が銃を構えて、「警察です。今の話は聞かせて頂きました。あなたが黒幕だったの?諦めて刃物を捨てなさい!」と警告した。
そこへ上西修司巡査も到着した。
広美は、上西巡査を見る加藤麻子の目を見て、まさか、加藤麻子が一目惚れした警察官て、上西巡査?と感じた。
広美は、嶋田医師が誰かと安楽死の話をしていた事から共犯者の存在を確信していた。
他の刑事や警察官が嶋田医師に注目する中、広美は周囲をチェックして、共犯者らしき人物が身を潜めている事に気付いた。
広美は、嶋田医師を取り囲むように、上西巡査に指示して、共犯者に近づけて加藤麻子の前で手柄をたてさせようとした。
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広美が、「あなた一人でしたの?誰か共犯者がいるのか?」と嶋田医師に話し掛けた。
物陰に隠れていた人物が、共犯者と聞いて、警察官が嶋田医師に気を取られているスキに逃げだそうとして、焦ってバケツを蹴って物音を立ててしまった。
広美は一番近くにいた上西巡査に、「彼から事情を聞いて。」と指差して指示した。
上西巡査が取り押さえると、京都中央病院の事務員でした。
気の弱そうな事務員でしたので広美が、「あなたは、安楽死事件の一味なの?安楽死は殺人よ。」と睨んだ。
事務員は焦って、「いえ、ち、違います。院長先生に様子確認するように頼まれただけです。」と上ずった声で震えていた。
須藤刑事に嶋田医師を連行するように指示して、上西巡査に、加藤麻子を助けるように指示した。
西田副主任が、「院長から事情を聞いてきます。」と京都中央病院に向かった。
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京都府警に戻った広美に初美から着信があった。
初美は、「京都中央病院の院長先生から声が掛ったわよ。他の置屋のお客様を取ると揉めるわよ。間に入っている私の身にもなってよ。」と他の置屋に喧嘩売らないように促した。
広美は、「芸者はお客様を選べないわ。お客様が芸者を指名するのよ。」と反論した。
西田副主任から広美に着信があった。
「院長先生は病院にも自宅にもいません。所在不明です。」と報告した。
広美は、「お茶屋よ。後藤刑事が鶴千代の宣伝をするから、今晩院長先生から声がかかったわ。芸者が優しく事情を聞きます。隣の部屋を予約しておきました。隣の部屋で聞いていて下さい。」と伝えて、他の刑事達にも向かわせた。
広美が鶴千代として、お茶屋で院長先生の相手をしていた。
広美が、「そういえば、先日、病院の事務員から安楽死をさせていると聞きました。安楽死だなんてドラマでの話だと思っていましたが、実際にあるのですか?」と院長先生の顔色を窺っていた。
院長先生は、「鶴千代さんも悪い冗談を・・・病院に芸者が来たとは聞いていませんよ。」と安楽死を否定した。
広美は、「先日は私服だったから。確かネームプレートに小山と書いていました。私の知り合いが風邪気味で、明日病院に行くので確認して貰うわ。」と携帯電話を取り出した。
院長先生は、小山が実際に安楽死の件を知っている為に、広美の話が嘘ではないと判断した。
安楽死の噂が広まらないように、広美の腕を掴んで、「変な噂を広めないで下さい。業務妨害で警察に訴えますよ。」と広美を睨んだ。
広美は、「それは丁度いいわ。知り合いの刑事が、今、この料亭に来ているのよ。呼ぶわ。」と強引に電話しようとした。
院長先生は焦って、「電話するなと言っているだろうが!」と広美に襲いかかったが、簡単に避けられた。
そこへ西田副主任が来て警察手帳を提示し、「京都府警の西田です。嶋田内科医が院長先生からの指示だと安楽死を認めました。署までご同行願います。」と院長先生の腕を掴んだ。
院長先生は、「鶴千代!何でこんな事をするのだ!」と怒りをあらわにした。
広美は、「警察に訴えると仰っていましたので、私は親切に警察を呼んだだけですよ。」と笑顔で答えてその場を去った。
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広美は西田副主任に取り調べを依頼して捜査しでいた。
翌日西田副主任が、「安楽死を依頼したのは代議士の松瀬隆義でした。院長の説明では、先日、父親と妻が交通事故で瀕死の重傷を負いました。妻は意識不明ですが、父親は意識があり苦しんでいるそうです。父親が苦しんでいるのを見るのは辛く、助からないのであれば早く楽にしてあげたいと安楽死の依頼をされたそうです。」と報告した。
広美が、「松瀬議員の母親は十年前病死し、父親と妻と三人暮らしでした。ここで問題なのは、松瀬議員は、お婿さんなのよ。妻も父親も助からないそうですが、妻が先に亡くなれば、遺産が入らないので、父親を先に殺そうとしたようです。これは安楽死ではなく殺人です。」と説明して、部下に証拠固めを指示した。
前田刑事が、「事務員の自供があるので逮捕できないのですか?」と確認した。
広美は、「自供だけで、安楽死させた実行犯も特定できていないわ。知らないと惚けられれば終わりよ。安楽死させた実行犯を特定しなさい。嶋田医師か他の医師か看護師か院長自身か。私は院長先生から話を聞くわ。」と指示した。
院長先生は、「あんたが、血も涙もない鬼軍曹か。あの父親は助からなかった。拷問して死刑にするようなものだ。かわいそうじゃないか。あんたそれでも女か!」と安楽死を正当化させようとしていた。
広美は、「松瀬議員がお婿さんだとご存知ですか?」と確認して、遺産相続の説明をした。
院長先生は、「そんなバカな・・・」と絶句した。
広美は、「これは安楽死ではなく殺人です。」と説明して、院長先生も安楽死の実行犯は嶋田医師だと全面的に自供して、松瀬議員も殺人教唆で逮捕され遺産相続人の資格を喪失した。
次回投稿予定日は、11月11日を予定しています。