第四十章 七係の刑事襲われる
ある日、緒方係長が、「先日、七係の刑事がひき逃げされて死亡しました。現在、交通課がひき逃げ事件として捜査していますが、昨夜、同じく七係の刑事が帰宅途中、暴漢に襲われて死亡しました。ひき逃げも単なる交通事故ではない可能性がでてきて、連続警察官殺しとして捜査する事になりました。七係は刑事二名が殺害されて人員不足のため、三係が担当する事になりました。今、高木主任が交通課に引き継ぎに行っています。高木主任が戻れば捜査会議を始めます。」と全員に連絡した。
しばらくすれば広美が交通課から戻ってきて捜査会議が開始された。
緒方係長が、「それでは捜査会議を始めます。高木主任、ひき逃げ事件について説明してください。」と捜査会議を開始した。
「ひき逃げ現場にブレーキ跡はありませんでした。加害者は、故意に被害者を殺そうとしたのか、わき見運転や居眠り運転などの、過失運転かの、どちらかだと思われます。目撃者も減速せずに被害者をはねたと証言しているそうです。その捜査を、前田刑事、後藤刑事、お願いします。暴漢の捜査を、西田副主任、須藤刑事、お願いします。私は襲われた刑事達を恨んでいそうな人物を、担当した案件から探ります。」と指示した。
前田刑事が、「引き継いだという事は、交通課はこの件から手を引くのですか?」と確認した。
広美は、「いいえ、交通課では、引き続きひき逃げ事件として捜査続行するそうです。私達は殺人事件として捜査します。交通課と連絡を取りながら捜査して下さい。」と指示した。
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翌日の捜査会議で広美は、「後藤刑事が鑑識に行っていますが、捜査会議を始めます。前田君、ひき逃げ事件の報告をお願いします。」と捜査会議を始めた。
前田刑事が、「ひき逃げ事件の目撃者から詳しい事情を聞くと、減速どころか加速しながら被害者をはねたそうです。加速する時に、わき見や居眠りは考えにくいです。これは事故ではなく事件の可能性が高いです。交通課と協力して加害者の特定を急いでいます。」と報告した。
広美は、「了解しました。引き続きお願いします。西田君、暴漢事件の報告をお願いします。」と捜査会議を進めた。
西田副主任が、「襲われた刑事は、京都府警から尾行されていた可能性があります。他の警察官が目撃したそうですが、その時は尾行だとは思わず気にしなかったそうです。現在、モンタージュ写真を作成中です。」と報告した。
広美が、「了解しました。引き続き、お願いします。尾行だと気付かないとは、警察官としての緊張がたりないわね。襲われた二人の刑事を恨んでいそうな人物ですが、数名いました。中でも加藤詩織は不良少女で、喧嘩で相手を殺してしまい両刑事に逮捕されています。その時、こんなやつは殺されて当然だと両刑事を罵倒し、務所仲間にも復讐を仄めかしていたそうよ。加藤詩織の交友関係を私が調べます。両刑事を殺害した犯人の捜査でも、加藤詩織の名前が出てこないかも気にかけて下さい。」と指示した。
後藤刑事が鑑識から戻ってきて、「ひき逃げに使用した車を生活安全課が巡回時に発見しています。盗難車で、指紋はきれいに拭きとられていましたが、ダッシュボードの内側に指紋が残っていました。前歴者の指紋と照合すると、加藤詩織の指紋と一致しました。」と報告した。
広美が、「事件は最初、植木巡査が巡回中に発見して、連絡を受けた両刑事が逮捕しています。後藤刑事、前田刑事、植木巡査を護衛して下さい。」と指示して、加藤詩織を殺人罪で指名手配した。
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広美から事情を聞いた湯浅課長は、事情を部下に説明して、植木巡査の護衛も兼ねて男性警察官とペアーを組ませた。
変な噂が広まらないように、ペアーを組む男性警察官は毎日替えた。
それが逆に同僚の婦人警察官から、「毎日違う男性と組めていいわね。」とイヤミを言われていた。
植木巡査の自宅は生活安全課で巡回警備していた。
広美は念のために後藤刑事を植木巡査の友達として自宅に泊まり込ませた。
植木巡査は、「後藤刑事、毎日私の自宅に泊まっていれば、休みはどうされるのですか?」と不思議そうでした。
後藤刑事は、「私達は友達になるのだから正子でいいわよ。事件が発生すれば、私達は休みを取れないのよ。これは刑事の宿命よ。」と説明した。
植木巡査は、「それでは正子さん、私の事も友美でいいですよ。生活安全課も巡回警備しているので大丈夫だと思います。休みを取って下さいね。夜、あまり寝てないのでしょう?体が持たないわよ。」と後藤刑事の健康面を心配していた。
後藤刑事は、「ありがとう。でも加藤詩織は刑事を二人も殺害しています。油断しないで下さい。いま、私の仲間が捜査しています。加藤詩織が逮捕されるまでの事よ。」と油断しないように警告した。
後藤刑事がトイレに行っている間に、植木巡査がゴミ捨てに行った。
後藤刑事がトイレから出ると、植木巡査がいない事に気付いて外に出ると、植木巡査が背後から刃物で襲われそうになっている事に気付いて、「友美さん!危ない、後ろ!」と叫んだ。
後藤刑事が駆け寄り、警棒で刃物を叩き落として、植木巡査とで加藤詩織を取り押さえて緒方係長に報告した。
緒方係長は、「須藤刑事と西田副主任の捜査で、刑事を襲った暴漢は男性だと判明しました。引き続き植木巡査の護衛をお願いします。」と指示した。
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ひき逃げ事件は解決した為に、植木巡査を護衛している、後藤刑事以外の刑事で暴漢事件の捜査を続行した。
やがて、加藤詩織には仲のいい従兄、岸田洋平がいると判明して、殺害された刑事を京都府警から尾行していたモンタージュ写真の男に酷似していた。
後藤刑事と植木巡査に岸田洋平のモンタージュ写真を渡して注意を促し、他の刑事達全員で、その所在確認をしていた。
植木巡査が男性警察官と巡回していると、ひったくりが発生して犯人を追跡した。
男性の足は女性より早く、男性警察官との距離が離れた。
その後を、後藤刑事が追っていると、植木巡査の前に刃物を持った岸田洋平が現れた。
後藤刑事は慌てて、「やめなさい!」と銃を空に向かって発砲した。
ひったくりを追っていた男性警察官も、銃声に気付いて戻ってきた。
岸田洋平は植木巡査に刃物を突き付けて、「来るな!殺すぞ!」と植木巡査を人質にして後ずさりしながら後ろの路地に逃げ込もうとしていた。
その路地から広美が出てきて、岸田洋平の背後から刃物を持っている腕を掴んで刃物を奪い手錠を掛けた。
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後藤刑事が緒方係長に、「主任が岸田洋平を逮捕しました。」と報告した。
緒方係長は、「高木主任が、岸田洋平の悪友がひったくり事件を起こして、植木巡査を男性警察官から引き離して、一人離れた植木巡査を襲う計画を掴んで応援に行きました。間に合ったようですね。」と安心していた。
後藤刑事は広美に、「そんな計画を掴んだのであれば、護衛している私に連絡して下さい。そうすれば、植木巡査にひったくり犯を追わせなかったわ。」と不満そうでした。
広美は、「あなたは、そうすると思ったから連絡しなかったのよ。そんな事をすれば岸田洋平の計画が狂うでしょう?彼は、警察に追われている事に気付いていたから身を隠していたのだと思うわよ。今日中に、ケリを着けようとする可能性があったのよ。やけくそになり、刃物を持って暴れたらどうするのよ。一般市民が事件に巻き込まれる可能性は否定できないわ。商店街には赤ん坊や幼児も数人いたでしょう?怪我をさせれば無理な逮捕だと責任問題になるわよ。植木巡査は訓練を受けた警察官よ。これのほうが、被害者の出る可能性が低いわ。植木巡査の護衛も大切だけれども、私達はどんな事をしても一般市民を守らなければならないのよ。特に乳幼児はね。それに、警察官に発見されるようにひったくりした段階で不信に思うべきよ。もっと確りしないと、京都府警でも現場は無理だと判断されて、滋賀県警のように内勤に回されるわよ。」と警告した。
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京都府警に戻った後藤刑事がショックを受けている事に緒方係長が気付いて声を掛けた。
「後藤君、そんなに気にする事はないよ。君と主任とでは経験が違うから、いきなり、主任と同じ事はできなくて当然だ。現場に出れば、他の刑事がフォローしてくれると先日も説明しただろう。今日は、主任が君をフォローしただけの事だ。そんなに落ち込んでいると仕事で失敗して本当に内勤に回されるぞ。元気を出せ。」と慰めた。
後藤刑事は少し落ち着くと、「主任はどこですか?先程から姿がみえませんが・・・」と広美がいない事を気にしていた。
緒方係長が、「何か気になる事があるそうだ。確証が持てたら連絡してくれるそうだ。」と説明した。
前田刑事が、「主任は現場主義だから、取り調べを我々に任せて逃げただけじゃないですか?」と悪口を言っていると広美が戻って来た。
「あんたのような単細胞に何が解るのよ。七係の刑事二人は、加藤詩織とその従兄で、一人ずつ確実に襲っています。植木巡査の場合、襲い方がずさんです。二人とは違う誰かが狙っている可能性があると判断して捜査していたけれども、交友関係からも、そのような人物は浮かんでこなかったわ。昨日加藤詩織には子どもが一人いた事が判明しました。その子どもが狙っている可能性があると判断して湯浅課長と植木巡査には、まだ油断しないように伝えて調べていたのよ。」と説明していると、湯浅課長から内線で連絡があった。
「植木巡査から着信があったが、呼びかけに対して応答がなく、電話は切れた。自宅に警察官を向かわせて、管理人に部屋を開けてもらったが不在でした。油断しないように忠告されていたのに申し訳ない。」と焦っていた。
広美は、「携帯のGPS検索機能で現在位置の特定はしたのですか?」と不思議そうでした。
湯浅課長は、「電源が切れていて検索不可能でした。」とおろおろしていた。
広美は、「着信があったのでしょう?何故電源が切れているのですか?」と襲われて、電源を切られたか、携帯を壊されたと直感した。
湯浅課長は、「確かにそうですね。」と困惑していた。
広美は、「あとは私達に任せて下さい。」と電話を切った。
次回投稿予定日は、11月7日を予定しています。