第三十九章 愛美、変態と遭遇する
ある日、広美一家四人で食事していると愛美が、「今日、学校の帰りに、コートを着た変なおじさんに会ったよ。」と広美達に伝えた。
広美は、「変なおじさんて、どんなおじさんなの?」と変なおじさんと聞いて心配していた。
愛美は、「私の前で突然コートを開くと、下半身裸でパンツも履いてなかったわよ。」と興奮した様子もなく普通に説明していた。
隆が、「それは変態じゃないか!広美、警察で取り締まれよ。」と愛美が変な事されないか焦っていた。
愛美は、「お父ちゃん、なに焦っているの?」と何も理解できてない様子でした。
広美は、「ただの露出狂ね。生活安全課に連絡しておくわ。」と隆とは裏腹に冷静でした。
隆は、「それで終わりか?愛美の通学が心配じゃないのか?」と娘の事だから、もっと積極的に動いてくれてもいいのに、と広美の対応に不満そうでした。
広美は、「非番の日は様子を見るわ。」とただの露出狂なので、見なければ問題ないと判断して生活安全課に対応させようとしていた。
隆は、「様子を見る?通学の送り迎えはしないのか?遠くから様子を見て、変態が現れたら逮捕するのか?愛美を囮にするな!それでも母親か!だから鬼軍曹と呼ばれるんだ。」と切れた。
広美は、「そんなに心配しなくても大丈夫よ。心配だったら、あなたが愛美の通学の送り迎えをすればいいじゃないの。」と特に心配している様子はありませんでした。
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翌日広美は生活安全課の湯浅課長に、「昨日、私の娘が通学時、変態と遭遇しました。そんな変態が最近出没しているの?」と被害届を提出して確認した。
湯浅課長は、「確かに被害届はでていますが・・・」と説明していた。
広美は、「被害届が出ているのに何故、その変態を放置しているのよ!エスカレートして女児が負傷してからでは遅いのよ!」と切れた。
湯浅課長は、「申し訳ございません。ただちに対応します。」と謝った。
広美が戻ると湯浅課長は部下に、「捜査一課の鬼軍曹の娘さんが、最近出没している変態に遭遇したらしい。“被害届が提出されているのに何故放置しているのよ!“とばば切れだぞ。早く逮捕しないと、生活安全課に怒鳴り込んでくるのは時間の問題だぞ。万が一、鬼軍曹の娘さんが負傷すれば、お前ら職務怠慢で解雇されるぞ。」と部下に指示した。
生活安全課ではピリピリして児童の通学時間には警戒していた。
隆も心配して、愛美の通学時間に様子を見に行くと、いつもより警察官の人数が多かった為に安心していると、警察官の雑談が耳に入ってきた。
「しかし変態男も、よりによって鬼軍曹の娘さんの前に現れなくても良いのに。課長が鬼軍曹に噛みつかれて俺達に火の粉が飛んできたよ。早く逮捕しないと鬼軍曹が生活安全課に怒鳴り込んでくるぞ。」と雑談していた。
隆は帰宅後、警察官の雑談について説明して、「昨日、広美は気にしていなかったようだが、実際は生活安全課に怒鳴り込んでいたんだね。」と広美が動いてくれて安心していた。
広美は、「私も生活安全課が対応してくれていると思って安心していたけれども、被害届を提出した時に確認すると、真剣に対応していなかったので頭にきて、愛美に万が一の事があったらただでは済まさないと怒鳴ってしまったのよ。」と最初から怒鳴り込むつもりではなかった事を伝えた。
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その数日後、婦人警察官、植木友美巡査と成島佳子巡査が二人で巡回中、変態男が女児に変態行為をしている事に気付いた。
「ちょっとあれ見て。女児のスカートの中に手を入れてパンティをずりおろしているわよ。」
二人が、「何しているの!」と駆け寄ると逃げ出したので、「待ちなさい!」と追跡した。
成島巡査が、変態男の肩に手をかけた瞬間、変態男が振り返り、持っていたナイフで腹部を刺された。
今まで走っていた勢いで腹部を深く刺されてその場に倒れた。
更に変態男は植木巡査に襲いかかってきた為に警棒で対抗した。
婦人警察官が刺される瞬間を目撃した近所の住民からの通報で、付近を警ら中のパトカー数台が現場に急行した。
パトカーのサイレンに驚いた変態男が逃げだした。
成島巡査が、「救急車を呼んだから、私の事は気にしないで追って!」と苦しそうに伝えた。
緒方係長は、成島巡査が刺された現場が広美の実家の近くでしたので非番の広美に連絡していた。
緒方係長から事情を聞いた広美は、芸者姿でしたが成島巡査が刺された現場の近くにいたので現場に向かった。
広美の前方から返り血を浴びた男が走ってきた。
パトカーに挟まれて焦った変態男は、近くにいた芸者を人質にしようとして広美に襲いかかった。
広美が柔道で変態男を投げると、到着した石田健一パトカー警官が、「ご協力ありがとうございます。」と敬礼して変態男に手錠を掛けた。
相棒の上西修司パトカー警官が、「ご無沙汰しています、高木主任。マンション警備実習ではお世話になりました。」と敬礼して挨拶した。
石田巡査が、「上西、お前知り合いなのか?なじみの芸者か?俺にも紹介しろよ。」と横目でチラッと見た。
広美は、「でしたら、いつでも捜査一課まで来なさい。上西君、変わってないのね。捜査一課への異動願いが提出されていたようですが、当分諦めたほうがいいようですね。」と上西巡査を睨んだ。
上西巡査が、「バカ!石田。捜査一課の高木主任です。警察学校時代、主任に指導して頂いて、俺が手抜きしていた事を主任に見抜かれて、私達が手抜きすれば人が殺される事もあります。そんなあなたに警察官は失格だと怒らせてしまいました。今回も鬼軍曹を怒らせたので、お互い、捜査一課への配属は諦めたほうがいいですね。」と説明した。
広美は、「植木巡査、湯浅課長には私から伝えておきますので、成島巡査の様子を見てきなさい。」と植木巡査に指示した。
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翌日広美は生活安全課の湯浅課長に、「成島巡査の容体はどうでしたか?」と心配していた。
湯浅課長は、「植木巡査からの報告では、出血多量で意識不明の重体です。姉は結婚して九州に住んでいます。家族の事があるので、すぐには来られないそうですが、できるだけ早く来てくれるそうです。それまで身の回りの世話は病院の介護師がみてくれます。病院は、植木巡査の帰宅ルート上にありますので、当日ペアーを組んでいたのも何かの縁だからと、毎日でなくてもいいので、帰宅時に様子を見に行くように指示しています。」と説明した。
広美は、「妹が刺されて意識不明の重体なのに冷たい姉だわね。」とどんな姉なのか不信感を抱いた。
夕食時、愛美はテレビを見ながら、「この佐伯亮太って人は、先日会った変なおじさんに似ているけれども違うわ。」と呟いた。
広美が愛美に間違いないか確認して、翌日湯浅課長に愛美の話と共に変態男はまだいる事を伝えた。
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緒方係長が、「成島巡査の姉が九州からでてきて、看病を病院の介護師と交代しましたが、その後、亡くなりました。犯人は逮捕されていますが、容疑を殺人に切り替えて、その後三係で捜査する事になりました。先日、植木巡査が暴漢に襲われました。今回の事件に関係あるかどうか不明ですが、それも含めて担当する事になりました。」と全員に伝えた。
広美が、「逮捕された佐伯と愛美の前に現れた変態男は似ていたそうですが、別人だったそうよ。血縁関係者の可能性があるわ。その復讐で植木巡査が襲われた可能性は否定できないわ。写真を入手して。愛美に確認させるわ。」と指示した。
前田刑事が。「小学生低学年の証言より、婦人警察官の証言のほうが信頼できるのではないですか?植木巡査は犯人を目撃してないのですか?」と確認した。
広美は、「残念ながら、犯人は目だし帽を被っていた為に確認できなかったそうよ。それと前田!お前、私の娘が信用できないのか?」と不満そうでした。
前田刑事は、「いえ、決してそんな事はありません。」と慌てて、佐伯の血縁関係者の捜査に向かった。
数日後愛美は、五人の写真から佐伯の兄を指差した。
弟の仇をとろうとしている可能性があると判断して無線で植木巡査に事情を説明して、須藤刑事と後藤刑事が植木巡査の元へ向かった。
二人が植木巡査の元へ到着すると、再び植木巡査が襲われていた為に、須藤刑事が公務執行妨害の現行犯で取り押さえて、事件は解決した。
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後藤刑事は、植木巡査がけがしている事に気付いて手当てして広美に報告した。
最後に後藤刑事は、「妹が重体と聞いてもすぐに来なかった姉を不信に感じて、植木巡査を手当てしている時に、そのあたりの事情を聞きました。成島巡査と姉は異母兄弟で仲が悪かったそうです。その姉が佐伯容疑者の弟と不倫していたらしいです。仕事の関係で九州出張が多く、出張時は必ず不倫していたらしいです。成島巡査も不倫相手は、ほんの一瞬しか見てないので自信はないそうですが、恐らく間違いないと意識を取り戻した時に聞いたらしいです。意識も戻り医師から、もう大丈夫だと診断され順調に快復に向かっていたにも関わらず、姉と看病を交代した直後に成島巡査が亡くなっています。まさかとは思いますが、姉に殺された可能性はないのですか?被害届が必要であれば提出します。調べて下さい。と依頼されました。」と報告した。
広美は、「警察病院から、死因に不審な点があると届けが出ています。解剖は、死因が特定できても妹は生き返らないと拒否が強く、姉の許可が取れなかったので無理でした。現在、警察病院と連絡しながら捜査中です。植木巡査から詳しい事情を聞いて下さい。火葬を止められれば殺人が立証できる可能性があります。」と指示した。
捜査で姉の殺人容疑が深まり、裁判所の許可を取って火葬寸前の成島巡査を解剖して、死因は窒息だと断定され、口と鼻を強く圧迫された痕跡を認めるとの解剖結果から、成島巡査の姉を殺人容疑で逮捕して事件は解決した。
次回投稿予定日は、11月2日を予定しています。