1.田中優希の日常
僕の学校での立場は低い。酷い学校生活を送っている。例えば、傘を勝手に使われたり、貸したお金が返ってこなかったり、意味もなく暴力を振るわれたり……。色々なことがありすぎて、例を挙げたらキリがない。
どうせ今日も何かしらあるんだろう。そんなことを考えていた、授業と授業の間の短い休み時間のことだった。いつも僕にパシリをさせる奴がこっちに向かって来る。嫌な予感がするな……。目を合わせないでおこう。彼の目的が僕じゃありませんように……。
「おい、パン買ってこい」
僕の願いは届かなかった。今日もパシリをさせてくるのか。
僕はパシリが嫌いだ。というか好きな人などいるのだろうか。少なくとも僕は嫌いだ。何か理由をつけて断ろう。
「もう次の授業始まっちゃうんだけど……」
「二分で買ってこれるだろ?」
彼は何を言っているんだ。今からだと購買まで走っても間に合うかわからないぞ。次の授業に遅刻してしまうかもしれない。やはり断るしかない。
「今買ってきても授業までに食べきれな」
僕が話し終わる前に、僕の胸ぐらが掴まれて話を遮られる。
「は? 俺は次の休み時間に食うんだよ。ほら、さっさと買って来い」
そう言ったあとに、彼は胸ぐらを掴んでいた腕で僕を廊下に放り出した。
仕方ない、急いで買って来よう。今日もパシリをしてしまった。
そう、これが僕、田中優希の日常なのだ。
気弱な性格で運動神経も良くない僕は、命令をされて反抗することもできず、ただ従うことしかできない。嫌なことがあって断ろうとしても、嫌がらせをされたり暴力を振るわれる。これは僕の中では当たり前になりつつある。
こんな日常、普通なら不登校になるだろう。それでも僕が学校に通い続けているのには理由がある。
それはある朝のことだった。僕に学校に通う意味を与えてくれた、出来事があったのは。