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4 勇者の勝利

 ──魔王が侵攻を始め、人々が絶望を予感したその時、神より託宣がおり、世界が待ち侘びた英雄が現れた。


 勇者が、聖剣に選ばれたのだ。


 光り輝く剣をかざし、魔物を消し飛ばす。朗々と通る声が呪文を唱え、病魔の基となる穢れが浄化される。

 奇跡のようなその光景に、人々は涙し、跪いて祈った。まさしく彼は、神が遣わしたもうた、勇者だと。

 人々は、勇者に、──どうかこの世界を救ってくれ、と祈った。



***


「おばさーん。最近レオ来ないけど、お腹でも壊したの?」

 ここ最近、昼にも姿を見せず、いつもの合図をしても夜に部屋の窓を叩かないレオを訝しく思い、リンはレオの家を訪れた。

「トール爺に聞いても、来てないって言われちゃったんだけ、ど……」

 いつものように勝手口の方へ足を運んで、勢いよく扉を開けたリンは、呆然と立ち竦むレオの母親に、驚いた様に瞬く。


「……おばさん?」

「リンちゃん……」

 レオの母親は呆然としたまま、リンに一枚の紙を手渡した。


 リンが見た事もない金額と、「勇者」の二文字が、そこにはあった。


***


 勇者は人々の祈りに応えるべく、仲間を連れて、世界中を飛び回った。

 魔物と戦い、魔王を倒す為に旅を続けた。魔物に命を脅かされ、生活を苦しくされていく民を、奇跡の力で救った。

 希望を現実にしていく勇者は、剣を掲げて人々の心を奮い立たせた。心強い味方を得て、国々は彼と共に戦うべく、争いをやめ、一心に勇者へと手を貸していく。

 悪辣な敵に、時に苦しめられ、時に傷付きながらも、民を守る為に、世界を救う為に、勇者は戦い続けた。



***


 なんで、と立ち竦む。

 布を掛けられた2人の前で、リンは突っ立っているのがやっとだった。


「……なんで」

 掠れた声が、漏れる。直ぐ側でレオの両親が何か言っていた気もするけれど、耳に入らない。ただ、自分の肩を擦る手が震えているのが、やけに印象的で。


「父さん……母さん……なんで……?」

 どうして、2人は、こんなところにいる。

 どうして、リンの声に、答えてくれない。


「……なんで……」

 ──魔物が増えてるだろ。魔王が現れたとかなんとか、噂もあるし……うちの村だって、いつ襲われてもおかしくない。リンだって、おじさんとおばさん、心配なんだろ。

 ──だからさ。せめて、村を魔物が襲ったら、おれは戦う側にいたいわけ。

 ──あんたが、私を守ってよ。


「……うそつき」

 どうして、ここに、レオがいない。


***


 勇者が立って、5年。

 数多の戦いの後、──魔王は、勇者の手で斃された。

 勇者は、まさしく、世界の救世主となったのだった。


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