1 幼馴染み
「レオ! どこにいるの、とっとと出て来なさい! おばさんが探してたわよ!」
のどかな村の、外れに近い道の真ん中で、まだ幼さの抜けきらない声が大きく響き渡った。村の人々がまたか、という様子で苦笑を交わし合う中、少女が道を駆け抜ける。
道のど真ん中で腰に手を当て仁王立ちになったのは、15歳ほどの年格好の少女。榛色の瞳はきりりと吊り上がり、険しい声を再度上げる。
「手伝わないどころか親にいらない心配をかけるんじゃないっ! とっとと出て来なさい、この図体ばっかでっかいお子様が!」
怒声に答えるように、ぽいっと投げられたのは木の枝。思わず少女がそちらに目をやった瞬間、少女の傍らを少年が駆け抜けた。
「逃がすかっ!」
細い腕が見かけによらぬ機敏さで動き、少女をすり抜けようとした少年の服を掴む。布を破るのも躊躇わない容赦ない力に、少年はたたらを踏んで渋々足を止めた。
「この馬鹿力女。邪魔すんなよ、これからトール爺んとこ行くんだから」
「手伝いをしてから行けっておじさんに言われてるでしょう!」
ぐいと服を引っ張る少女に、少年が顔を顰めて喚く。
「おい、服が伸びるだろ! ったく、そんなんだから男女って言われるんだぞ、リン」
「うっさいわね! レオみたいなお馬鹿なガキの面倒見てなければ言われないわよ」
「ガキって言うな!」
「親の手伝いもせずに遊び回ってる奴を、ガキ以外に何て言うのよ!」
2人の睨み合いはしばし続いたが、2人の視界の外から寄ってきた人影によって、強引に打ち切られた。
「おら、そこまでだバカ息子」
「だっ!」
「あ、おじさん」
容赦なく息子の頭を叩いたのは、中年の大柄な男性。親子そっくりな赤髪を煤だらけにした男性は、少女に笑いかけた。
「いつもごめんな、リン。うちの馬鹿息子が迷惑ばっかりかけて」
「ううん、私もおじさんには面倒見てもらってるから、お互い様よ。レオはもうちょっと落ち着いていいと思うけど」
「うっさいな、暴力女」
叩かれた頭をさする少年、レオが悪態をつくと、すかさず父親にどつかれた。
「レオ、お前いい加減女の子への口の利き方を覚えろ。もう15にもなるのにそれじゃあ、嫁さんのもらい手もないぞ」
「良いんだよ。おれはリンみたいな暴力女じゃなく、男のやる事にいちいち口を出さないような控えめな女が好みなんだ」
「ふん。私だって、レオみたいなガキじゃなくて、働き者の寡黙な旦那様を探すわよ」
再び睨み合いに入ろうとするリンとレオに、レオの父親は深々と溜息をつく。
「そこまでな。レオは今から俺と薪割りだ。リンは、母さんとこ戻ってやれ。レース編みが佳境に入ってるから、家事やってくれる娘が必要だろうよ」
「はあい。ありがとう、おじさん。じゃあね!」
手を振って駆け出したリンは、背後から聞こえる「げえっ、おれ今からトール爺のトコで訓練……」「まず家のことやってから遊べ!」「遊びじゃないって!」という父息子のやり取りに思わず笑いを零した。
***
リンとレオは、ひとつ違いの幼馴染みだ。
織物を織っては街に売りに出るリンの両親は、昔からレオの家にリンを預けて行商に出ていた。レオの両親もまた森に入って木材を切り出す仕事をしていたから、レオをリンの家に預けて森に入った。その為、リンとレオは実質兄妹のように育ったのだ。
レオは昔から、元気のありすぎる子どもだった。近所のガキンチョと一緒になって駆け回り、泥だらけになっては母親に拳骨を落とされ、それでも懲りずにまた泥団子を作って台所に投げ込むような、おばかで手のかかるやんちゃ坊主だ。
対してリンは、子どもらしくないくらい大人しく、親が機織りをするのをじーっと見続ける、ある意味では手のかからない子どもだった。レオが遊びに来ると必ず駆けっこをするけれど、その途中でしゃがみ込んで、花の観察に夢中になってしまうような、そんな女の子だった。
当然2人は遊びが折り合わず、子どもの頃から喧嘩をしまくった。つかみ合いで生傷を作り遭うなんて当たり前、1度は揉み合って転げ落ちて厩にダイブし、あわや2人とも馬に踏み殺されかけた時には、流石に互いの両親に盛大な叱責を喰らったものだ。
タイプは違えど気が強くて譲らないところはよく似ていて、しばしば両親を困らせるこの2人組は、良く通る喧嘩声で村人達にも有名だった。
年を経て、思春期と呼ばれる年頃に入っても、2人の威勢の良い喧嘩は変わりがなく、リンは家の手伝いをしつつ悪ガキであるレオを追い回しては説教をし、レオは姉貴面をしたがるリンにいちいち反抗ばかりしていた。