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恋は罪悪【ノベル大賞最終落選作】  作者: 衍香 壮
第1章「人はニセモノ」
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第7話「人後」

 *


「こんにちは」


「……こんにちは」


 三度目は彼女のアクションで現実となった。けれども、あれから十日は経っている。あまりにも時が経ち過ぎて、俺は彼女を幻だと思うようになっていた。


「その顔じゃ正義の味方にはなれなかったようね」


 彼女の表情が意地悪く歪んでいることなど顔を見なくても分かった。目線を合わせないまま交わした挨拶は、俺の心を容赦なく抉る。


「酷い顔。隼君、今どんな気持ち?」


 電車の床を眺め続ける俺に容赦ない台詞が降り注ぐ。逃がしてなどくれないだろう彼女は、至極楽し気に吊革を両手で掴んでいた。


 空席だらけの電車内。昼過ぎの平日ともなれば、こんなものだろう。働いていなければいけない時間帯に私服でうろつくチカさんは、まさしく謎の人だった。


「チカさん、お仕事は?」


「あら、質問の答えがまだだわ」


 揶揄うような軽快な声音に些か腹を立てる。緩慢に顔を上げれば、そこにはニヤケ顔のチカさんがいた。


 俺の両隣は空席だ。にも関わらず彼女が座る気配などない。よっぽど俺の情け顔を観察していたいようで、目が合った双眸は虹彩まで笑っているように思えた。


「……最悪ですよ。罪悪感が溢れて」


「今迄は感じていなかったの?」


 吐き出しかけた呼気を吸い込む。鼓動が早くなったのが自分でも分かった。


「感じてなかったんだ?」


「そんな……」


「言い訳する人は嫌いよ。それで? 隼君は何かを変える気が起きた? ヒーローにはなれそう?」


「俺なんかになれると思ってるんですか!?」


「私に八つ当たりするなんて、どんな神経してんの?」


「チカさんが俺の神経を逆撫でするようなことを言ってるんじゃないですか!?」


「人は本能で自分より弱い相手を見分けてるんだって」


「え……?」


「隼君だって不良に喧嘩は売らないでしょう? それどころか怒りも向けない筈。だって怖いもんね?」


 この人の話は相変わらず支離滅裂だ。瞠目していれば彼女が口端を吊り上げる。


「つまり隼君にとって私は怒ってもいい相手ってことだよね?」


「そんなつもりないです……!」


「怒っても許してくれる。最悪、力でひれ伏せさせる自信がある」


「何が言いたいんですか!?」


 荒々しい口舌に乗客の視線が集まる。それに羞恥を覚えた俺は目線を下げた。


「隼君にとって私は下なんだねって言いたかったの」


「そんなつもりはありません」


「ホントかなー」


 間延びした声と共に電車が止まる。降車駅であることに気付いた俺は慌てて立ち上がると開いたドアから飛び降りた。








「必死すぎ」


「危うく乗り過ごすところだったんですよ!?」


「私は乗り過ごさなかったけど」


 一言も二言も多い様に嚥下しきれない感情が暴れ出す。俺は唇を噛み締めながらも観念した。言葉で勝つことが出来ないだろうと悟ってしまえば口を開く気にはなれない。


「もう諦めたの?」


 諦めたも何も俺の話なんて聞いてくれないじゃないか。そんな不満を唇の裏で呟きながら彼女を見据えた。


「隼君は、いつもそうやって諦めてきたんだね」


 言い返せなかった。何故出来ないか。答えは簡単だ。全ては彼女の言っていることが正論だからである。


「チカさんは……そんなに強いんですか?」


「仕事」


「え?」


「私の仕事気になるんでしょ? 見に来る?」


 話を逸らされているのだということは分かった。それでも謎深い彼女に好奇心が疼く。


「何をやってるんですか?」

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