第5話「人言」
「それで隼君は何を悩んでるの?」
「単刀直入ですね……」
「オブラートに包んでも仕方ないでしょ」
ストローに口を付けた彼女が、そうぼやく。ハキハキと話す彼女に悩みなどあるのだろうか。俺は溜息を零すと、話すか否かを逡巡した。
「チカさんは死にたいって思ったことありますか?」
「……それに私はどう答えるべきなの?」
予想外の返答だった。言葉に詰まっていれば彼女が髪を掻き上げる。
「私個人の過去を話せばいいの? それとも私の今の考えを述べるべきなの?」
「それは……」
「隼君は大人の意見を聞きたいの? それとも無難な答えを言ってほしい?」
「違います!」
「物事には前後というものがあるでしょ? ちゃんと説明してくれなきゃ私には答えなんて分からないよ」
この問いに、きっと答えなどないのだ。それでも誰かに問いたかったのは、俺は、そう思ったことがないからだろう。
「イジメがあるんです」
「隼君のクラス?」
「はい。物静かな女の子がターゲットで、クラス全体がそういう雰囲気で……」
「一緒にイジメてるの?」
「イジメてません……」
「つまり傍観者ってこと?」
カフェオレの入った紙コップが歪む。中の氷がガシャッと音を立て、心の歪みを表しているかのようだった。
「助けたいんです……見てるのがいやで……」
「助けてあげたらいいんじゃない?」
「簡単に言わないでください!」
「〝助けたら次は俺がイジメられる〟でしょ?」
ドーナツを口に放り込み咀嚼するチカさん。それを瞠目しながら眺めていれば、大きな瞳とかち合った。
「イジメの連鎖は止まらない。よく知ってるよ。教師は役に立たないし、誰かが声を上げたからといって味方が必ずつくとも限らない。人は弱くて残酷だからね。ましてや被害者が声を張り上げようものなら糾弾される。周りの人間に潰されるんだ」
――先日、電車に飛び込んだ女子中学生の部屋には遺書が残っており、自殺の原因はイジメだったと明記されていたそうです。六人の名前が書かれており警察は……。
「あのニュース見た?」
「はい……」
隣に座っていたサラリーマンのスマホから音声が流れてくる。俺達は、それに耳を傾け居心地の悪さを緩和した。
「隼君は、どう思う?」