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恋は罪悪【ノベル大賞最終落選作】  作者: 衍香 壮
第1章「人はニセモノ」
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第4話「人傑」

 *


 次に彼女を見かけたのは一週間後。相変わらず綺麗な顔で人助けをするお姉さんは、やはり柔らかな笑みを携えていた。


「偽善、には見えないんだけど……」


 駅構内で呟く俺の視線の先には、車椅子を押した彼女がいる。お姉さんは上手くエレベーターに乗れないで幾度となく扉に挟まれる車椅子の男性を助け出し、一緒にエレベーターに乗って行った。

 恐らく彼女は戻って来るだろう。エレベーターが止まった階には新幹線乗り場しかない。


 もう一度、話してみたかった。ただそれだけの為にエレベーターを待つ。

 何分経過しただろうか。結構、待った気がする。それでも現れない彼女に肩を落とす俺。思惑は外れたのだろうか、と渦巻く感情を宥めていれば、数人の客に混ざって箱から出て来る姿を見つけた。


「あの!」


 声を掛けるも振り向く気配はない。もしや、あの時のようにイヤフォンをしているのかも。それならば、いくら声を掛けても焼け石に水である。しかし彼女は唐突に踵を返し、真っ直ぐ此方に向かってくると、ジッと俺を見据えた。


「ストーカー?」


「違います!」


「冗談だよ」


 そう言って鼻で笑った彼女が凛とした表情を緩める。二度目の邂逅だというのに、随分、雰囲気が柔らかい。俺はそれに少しばかり驚いた。


「どうしたの?」


「また……話してみたくなって……」


「なんで?」


「分かりません……」


「正直な子。そういう子好きだよ」


 あっさり〝好き〟と告げる彼女に他意はない。それでも綺麗な人に言われる〝好き〟は重みが違った。


「暗い顔をしてるね」


「そうですか?」


「どこか入る? きっとなにかの縁だろうから話くらい聞いてあげる」


「なんでいつも上から目線なんですか?」


 悪気はなかった。それでも目を丸くした彼女の顔が徐々に悲しみを映す。「そんなつもりはなかった」と告げる様に罪悪感が込み上げた。


「じょ、冗談ですよ! えっと、お姉さんはどこがいいですか? ドーナツとか好きですか?」


「君は好きなの?」


「俺は、まぁ、はい」


「どっちよ」


「好きですけど……男子高校生が甘いもの好きって言ったら笑われるかなって……」


「ふはっ!」


「やっぱり笑った!」


「いや、その発想が可愛いなと思って。君が好きなら食べに行こうよ」


「は、はい!」


「そういえば君のことはなんて呼べばいい? 名前を聞いてなかったなと思って」


「あ、俺、(はやて)っていいます。お姉さんのことは、なんて呼べば?」


「チカでいいよ」


「チカさん?」


「チカちゃんと呼びたければ、それでも」


「いえ、遠慮しておきます」


「そう」


 楽し気に笑う彼女はドーナツ屋へ真っ直ぐに向かう。その後ろを付いていけば、心が弾んだ。

 姉がいると、こんな感じなのだろうか。会ったばかりなのに勝手に親近感を覚える俺。それでも胸を包み込むのは温かさで、俺は昔から彼女と一緒にいるような気分になった。

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