第4話「人傑」
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次に彼女を見かけたのは一週間後。相変わらず綺麗な顔で人助けをするお姉さんは、やはり柔らかな笑みを携えていた。
「偽善、には見えないんだけど……」
駅構内で呟く俺の視線の先には、車椅子を押した彼女がいる。お姉さんは上手くエレベーターに乗れないで幾度となく扉に挟まれる車椅子の男性を助け出し、一緒にエレベーターに乗って行った。
恐らく彼女は戻って来るだろう。エレベーターが止まった階には新幹線乗り場しかない。
もう一度、話してみたかった。ただそれだけの為にエレベーターを待つ。
何分経過しただろうか。結構、待った気がする。それでも現れない彼女に肩を落とす俺。思惑は外れたのだろうか、と渦巻く感情を宥めていれば、数人の客に混ざって箱から出て来る姿を見つけた。
「あの!」
声を掛けるも振り向く気配はない。もしや、あの時のようにイヤフォンをしているのかも。それならば、いくら声を掛けても焼け石に水である。しかし彼女は唐突に踵を返し、真っ直ぐ此方に向かってくると、ジッと俺を見据えた。
「ストーカー?」
「違います!」
「冗談だよ」
そう言って鼻で笑った彼女が凛とした表情を緩める。二度目の邂逅だというのに、随分、雰囲気が柔らかい。俺はそれに少しばかり驚いた。
「どうしたの?」
「また……話してみたくなって……」
「なんで?」
「分かりません……」
「正直な子。そういう子好きだよ」
あっさり〝好き〟と告げる彼女に他意はない。それでも綺麗な人に言われる〝好き〟は重みが違った。
「暗い顔をしてるね」
「そうですか?」
「どこか入る? きっとなにかの縁だろうから話くらい聞いてあげる」
「なんでいつも上から目線なんですか?」
悪気はなかった。それでも目を丸くした彼女の顔が徐々に悲しみを映す。「そんなつもりはなかった」と告げる様に罪悪感が込み上げた。
「じょ、冗談ですよ! えっと、お姉さんはどこがいいですか? ドーナツとか好きですか?」
「君は好きなの?」
「俺は、まぁ、はい」
「どっちよ」
「好きですけど……男子高校生が甘いもの好きって言ったら笑われるかなって……」
「ふはっ!」
「やっぱり笑った!」
「いや、その発想が可愛いなと思って。君が好きなら食べに行こうよ」
「は、はい!」
「そういえば君のことはなんて呼べばいい? 名前を聞いてなかったなと思って」
「あ、俺、隼っていいます。お姉さんのことは、なんて呼べば?」
「チカでいいよ」
「チカさん?」
「チカちゃんと呼びたければ、それでも」
「いえ、遠慮しておきます」
「そう」
楽し気に笑う彼女はドーナツ屋へ真っ直ぐに向かう。その後ろを付いていけば、心が弾んだ。
姉がいると、こんな感じなのだろうか。会ったばかりなのに勝手に親近感を覚える俺。それでも胸を包み込むのは温かさで、俺は昔から彼女と一緒にいるような気分になった。