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喫茶月影の幸せひと皿  作者: 内間飛来
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第6話 幸せ味の角砂糖

 むかしむかし、とある地方で、何年も雨が降らずに土地が干上がってしまうということが起きた。新しく井戸を掘ってみても水は出ず、雨乞いも全く効果はなかった。集落によっては、なけなしの食料だけでなく娘を(にえ)に捧げたところもあったという。しかし神の雫を天より賜ることは叶わなかったため、人々はほとほと困り果てた。集落のいくつかは、この状況に耐えきれず消失してしまったそうだ。

 もう打つ(すべ)が何もなくなろうというころ、残っていた中で一番大きな集落の地主が不思議な術士を連れてきた。術士は龍の姿をした水神様を呼び出すと、たちまち雨を降らせて乾いた土を湿らせた。

 水神様の雨は何日も降り続いたので、ひび割れた大地はすっかりと潤った。そして雨を降らし終えた水神様はそのまま大地に寝そべると、美しい川へと姿を変えた。

 人々は窮地を救ってくれた水神様に心からの感謝を伝えるべく、大きなお(やしろ)を立てて祀ることにした。術士を連れてきた大きな集落が中心となり、この一帯全ての集落で水神様を大切にしていこうということになったのだ。

 人々は水神様のことを敬愛の念を込めて〈水瀬さま〉と呼んだ。こうして、水瀬さまは人々から末永く愛されることとなった。


 水瀬さまの川の水は、消えてなくなってしまった集落の跡地に美しい池や沼をいくつかお作りになった。その池沼の周りには新しい集落ができあがっていった。

 人々が戻ってくるのと同時に、その土地に住まう神様も生まれ増えていった。たとえば、睡蓮が美しい池のすぐそばに塚があり、そこに子だくさんの狐が住んでいた。池のすぐ近くの集落の者は、この狐に親切にしたそうだ。すると、豊穣が続いたという。人々は狐の住まう塚を、末広がりの八を頭につけて〈八塚〉と呼ぶようになった。そして〈八塚のお狐さま〉はいつしか、子宝の豊穣の神として祀られるようになったそうだ。


 この地に住まう神様の逸話は他にもあるのだが、せっかく〈この地で存在も力も最も大きな水瀬さま〉のお話に触れたので、その水瀬さまのもとで生まれた〈最も小さな集落で大切にされた、この地で一番小さな神様〉についても言及したいと思う。――これは、賀珠沼町(かづぬまちょう)がまだ名もない小さな集落だったころのお話である。



 むかしむかしの、そのまたむかし。水瀬さまという水神様が乾いた土地を潤し、大小さまざまな池沼をお作りになった。人々はそれらの周辺にいくつもの集落を作ったのだが、一番小さな沼だけは周辺ではなく、それを取り囲むように集落が作られた。そのくらい、その沼は小さかった。

 この小さな集落は水瀬さまのお社から離れたところにあったので、集落の住人たちが直接水瀬さまのもとに足を運ぶのは少々大変であった。なので住人たちは、水瀬さまゆかりのこの沼を、水瀬さまに詣でるような心持ちで大切にしていた。すると、池の一部に小さくも美しい蓮の花が咲くようになった。そしてたくさんのヒキガエルがそこに住むようになったので、沼は〈かわづぬま〉と呼ばれるようになった。

 ある日のこと。ここから遠くの大きな土地のお姫様が、この小さな集落にお立ち寄りなされた。お姫様は近々さらに遠くの地へと嫁がれるそうで、その前に子宝祈願をしておこうとお思いになられたのだとか。お姫様の住まう土地にも子宝にまつわる神様はおいでなのだそうだが、〈八塚のお狐さま〉のお話を耳にして直感的に参拝はここにしようとお思いになったのだという。

 お姫様は自力で参拝しにいかねば意味がないとのお思いから、わずかなお供を連れて徒歩で参られた。〈かわづぬま〉を愛おしそうに眺めながら、お姫様は出迎えてくれた住人たちに仰った。

「八塚さまに詣でる道中で美しい沼が拝見できると伺いまして。蓮の葉も愛らしいし、カエルの鳴き声が不思議と心地よくて素敵ですね」

「へえ、へえ。そうでございましょう。名前も何もない小さな集落で唯一の、とても大切な宝物でございます。今はまだつぼみですが、もう少しあとの季節になりますと、花がそれはもう美しく咲くんでございますよ」

 住人たちは嬉しそうにそう答えると、お姫様御一行を精一杯もてなした。つかの間の休息に感謝すると、お姫様は八塚さま詣での旅路へと戻られた。

 翌日、お姫様は再び集落にお立ち寄りになった。八塚さまへのお参りも無事に済んだであろうに、お姫様は何故か悲しみに暮れ泣きはらしておられた。何でも、成婚の証としてお相手よりいただいた大切なかんざしを失くしてしまわれたのだとか。

「遠いところにおられるあの御方の代わりとして、かんざしを持って参りました。八塚さまでの参拝を済ませて、今日はもう遅いからということで、宿を求めて水瀬さまの辺りにまで足を伸ばしました。夜、湯浴みのために着物を脱いでみましたら……胸元に忍ばせてあったはずのかんざしが無かったのです」

 かんざしは、〈かわづぬま〉まではたしかにあったのだという。だからきっと、〈かわづぬま〉と宿の間のどこかで落としたに違いない。――そう思い、お姫様一行は昨日お立ち寄りになった場所を丁寧に探して回ったのだそうだ。だが、見つけることは叶わなかった。なのでわずかな希望を胸に、この集落まで戻ってきたのだとか。

「珍しい、黄色の丸い(たま)の飾りがついたかんざしなのですが……。ここに落ちてはおりませんでしたか?」

 悲壮感漂うお姫様の姿に胸を痛めた住人たちは、集落の中をすみずみまで探してみましょうと請け負った。しかし、どこにもそれらしいものは落ちてはいない。とうとうお姫様は泣き崩れてしまいになり、お供が腰の刀に手をかけた。

「名もないほどの、何もない集落なのだ。どの者も、貧困に喘いでいたのではないか? 貴様らが姫様の大切なかんざしを盗ったのであろう」

「なんて失礼なことを言うのです。この方たちは、私たちを丁寧にもてなしてくださったではありませぬか。あの綺麗な沼を愛するこの方たちが、そのようなことをするはずがありませぬ」

 抜刀して構えるお共の前に立ちはだかると、お姫様は住人たちを必死に守ろうとした。しかしお共は頭に血が上ってしまったのか、一向に刀を収める様子はなかった。

「姫様、そこをおどきください。――さあ、貴様ら。悪いことは言わぬ。正直に申すのだ。言わぬなら、言うまでひとりずつ斬り捨てるまでだ」

 もちろん、住人たちにそのような悪さをする者などはいない。しかしお共は聞く耳をもたず、刀を手にしたままじりじりと間合いを詰めてくる。そしてとうとう、お姫様はお共に押しやられてしまった。

 お共が刀を振り上げあわやというところで、とても不思議なことが起こった。〈かわづぬま〉がほんのりと光を放ちだしたのだ。お姫様もお供も、そして住人たちも慌てて沼に駆け寄り、みんなで沼を囲んで様子を窺った。すると、底のほうから光がだんだんと近づいてくるではないか。

「おお、これは立派なヒキガエルじゃ。もしや、沼の主かのう?」

「口に何かを咥えているぞ。――もしかして、姫様のかんざしじゃあないか?」

 蓮の葉の上にヒキガエルがぴょこんと乗り上げると、つぼみがたちまちふっくらと丸みを帯びた。そしてお姫様が「私のかんざし!」と感嘆なさると、蓮の花が見事に咲きほころんだ。

「姫様のかんざしも見つかって、つぼみだった花も咲いて! まるで、奇跡のようだなあ!」

「姫様のかんざし、真ん丸お月さまのようで美しいのう。ちゃんと見つかってよかったわい」

 住人たちが喜びの声を上げる中、お姫様は震える手でヒキガエルからかんざしをお受け取りになられた。

「ああ、よかった。私の命よりも大切な、あの御方のお気持ちの証……。戻ってきてくれて、本当によかった……!」

 喜びで感極まったお姫様は、かんざしを胸に抱いて涙なされた。そしてヒキガエルと住人たちに、いつまでもいつまでも感謝なさったという。


 以来、住人たちは沼のヒキガエルを〈かわづさま〉と呼び、失せ物探しの神様として大切にした。小さな集落だったのでお社を建てる余裕はなかったが、代わりに、沼の手入れにいっそう力を入れるようになったそうだ。すると今までよりもさらに、沼を訪れる旅人が増えていったという。

 いつしか名もなき小さな集落は〈かわづぬま〉から一文字略して〈かづぬま〉と呼ばれるようになり、おめでたい(たま)の沼と当て字されて賀珠沼と記されるようになった。また失せ物探しの神様だった〈かわづさま〉のご利益は、人々の噂によって〈失せ物が見つかる〉から〈得たいものが得られる〉へと転じ、そして〈願いごとが叶う〉と内容が変遷していったそうだ。――こうして最も小さな集落は、名前とともに愛すべき神様も得たのであった。



  ***



 店主はレジスターを開けると、中から硬貨のようなものをたくさん取り出した。これは、強い願いを胸に秘めて喫茶月影を訪れた人々からお代としていただいた〈笑顔〉だ。お客様が心からの笑顔を浮かべると、レジスターはそれを硬貨のような形に変換してくれるのだ。

 ひとりのお客様からいただくお代の量は、それだけでレジスターの中が満ぱんになるほどである。なのでお代をいただいたあとは必ず、レジスターの中を空にしておく必要があった。またこの〈笑顔の硬貨〉は神様たちにとって最高の甘味なのだが、そのままでは硬さや大きさ的に食べづらいという難点があった。そのため、店主はこれを材料にあるものを手作りしていた。――それは、角砂糖だ。


 まず、レジスターから取り出した〈笑顔の硬貨〉をすり鉢に入れ、すりこぎで適当な大きさに砕く。次に月桂樹の葉から集めた朝露を、ほんの少しだけ垂らし入れる。ほんのりと湿るくらいの、ザクザク感が残る程度である。あまり入れすぎてしまうと〈笑顔〉が溶けてしまうので、注意が必要だ。

 次に、朝露で湿らせた〈笑顔〉を型に詰めて、押し型で強く押しつける。冷蔵庫で一日冷やしてしっかりと固まったら、トントンと叩いて型から取り出す。――幸せ〈笑顔〉味の角砂糖の完成だ。

 完成した角砂糖はひとつの瓶に全て詰めるのではなく、いくつもの瓶に分散させて詰める。人によって〈笑顔〉の色が異なるので、見ているだけで楽しいカラフルな瓶ができあがる。これを、神様なお客様からお茶や珈琲のオーダーをいただくたびに、飲み物と一緒にお出しする。そして神様なお客様は嬉しそうに瓶の中を眺めて吟味すると、ひと粒だけ選んで飲み物と一緒に楽しむのだ。


「ああ、これはココアくんの〈笑顔〉だね」

「やっぱり、味を見るまでもなく分かりました?」

 初老の男性――水瀬は茶色い角砂糖をシュガートングでつまみ上げて笑うと、店主も微笑みを浮かべた。まるでココアの香りが漂ってきそうなブラウンのそれを珈琲に落とし入れると、水瀬は愛おしそうにスプーンを差し入れた。

 スプーンをクルクルと動かして角砂糖を溶け込ませていると、立ち上った湯気にココアが過ごした幸せな日々が映っては消えた。それを嬉しそうに眺めながら、水瀬は目尻を優しく下げてスプーンを置いた。

「そういえば先日、ココアくんに会ったよ。『きっとまた、すぐに会える』と飼い主の真由美さんと約束していたが、本当にすぐさま戻ってくるとはねえ。驚いたよ」

「もしかして真由美ちゃんのお式って、水瀬さまのところだったんですか? あたしもこの前、あの子に会ったんですよ。『お式の直前に妊娠したと分かったから、どうか何事もなくお式を終えられますように』って、真由美ちゃんがうちに来ましてね。『あら、めでたい』と思って見ていたら、まあびっくり、お腹の中にココアくんがいるじゃあないの!」

 大仰に驚いた素振りでそう言う壮年の女性――八塚に、水瀬はにこやかに頷いた。そして水瀬と八塚は揃って店主に「マスターは?」と声をかけた。カウンター内で作業をしていた店主は振り返ると、ふたりに笑顔を向けて返した。

「真由美さん、私のところにも結婚と妊娠の挨拶に来てくださって、それでココアくんとも会えましたよ。――今となってはゆっくりと〈私〉に手を合わせてくれる人間(ひと)もいなくなったから、久々のことで結構こそばゆかったですね」

 まだ沼がこの地に存在していたころ、人々は前を通りかかるたびに手を合わせてくれていた。しかし都市の近代化が進み区画が整理されていく過程で、賀珠沼町から〈かわづぬま〉は消えることとなった。

 それでもどうにか沼を残したいと思った住人たちは、行政と掛け合って井戸を掘る許可を勝ち取った。そのため、七曲りの交差点の一番端には覆屋(おおいや)で囲まれた小さな井戸がある。

 覆屋は賀珠沼の町内会長によって管理され、今でも住人たちに大切にされている。だが姿かたちが変わったことにより、昔のような〈神聖な場所〉というよりは〈ご婦人たちが井戸端会議を行う、ご町内の憩いの場〉として愛されるようになったため、ゆっくりと手を合わせて願いごとを唱えるという者をとんと見かけなくなったというわけだ。

「かわづさん――マスターが茶屋をやろうと思うと言い出したときは、本当に驚いたものだが。おかげさまで私も、こうやって〈笑顔〉をいただくことができて、ありがたいかぎりだよ」

 そう言って水瀬は笑うと、カップを持ち上げた。

 口に運んだ珈琲が舌に触れると、飲み物のココアを作りながら目を輝かせていた〈あの日のココア〉がまぶたに浮んだ。香りが鼻から抜けると、初めて飲んだココアの味に感動するココアの笑顔が水瀬の胸のうちを温めた。そして喉を通り胃の腑を温めると、ココアに感謝する真由美の笑顔が体中を温めた。

 水瀬は心なしか驚いて、きょとんと目を丸くした。

「おや、真由美さんの〈笑顔〉とブレンドしたのかい?」

「ええ。ココアくんの〈笑顔〉は、真由美さんの〈笑顔〉とともにあるべきだと思いまして」

 笑顔でそう返しながら、店主は八塚にティーカップを運んだ。八塚は目の前に置かれた紅茶をそわそわとした面持ちで見つめながら、いそいそとシュガーポットに手をかけた。そしてポットの中に視線を落としたまま、心なしか首を傾げて言った。

「いやでも、『おかげさまで、私も』とおっしゃいますけれど、水瀬さまはいつでも〈笑顔〉をいただけるんじゃあないですか? ここいらで一番大きな神社なんですし、参拝客もたくさんいますでしょ」

「それがだね、願掛けばかりで成就の報告はほとんどないんだよ。婚礼のときや例大祭のときに人々の笑顔を見ることはできるが、いただくのはなあ。こればかりは、成就の報告や感謝をしてもらわないと。だから『初詣のときに昨年のお礼を添えてくれる人のおかげで、わずかにいただけているかなあ?』くらいなんだよ」

 神様たちは、畏怖や敬愛、感謝などの〈人々の思い〉を糧にしている。だから願掛けなど頼りにしてもらえるだけでも、一応腹は満たされる。だが神様も人間と同じで「ただ腹がふくれる」ばかりでは心までは満たされない。極上の甘味をいただいてようやく、心が満たされるのだ。

 店主――かわづさまはご町内から愛されており、そのおかげである程度は満たされていた。しかし〈願いごとを叶える〉という神様としての仕事を全うできなくなっていたため、何となく空腹感が残るような状態だった。それを解消するために作ったのが、この〈喫茶月影〉なのだった。――満月の夜に強い願いを抱えた人がやってくると、覆屋のある辺りに〈八番目の曲がり角〉ができる。影に誘われて喫茶店にたどり着いた人は笑顔になることができ、かわづさまは神様としての存在を保つことができて一石二鳥、ウィンウィンというわけだ。

 そして、かわづさまはいただいた〈笑顔〉を、他の神様たちにもおすそ分けしようと思った。この幸せや喜びを分かち合いたかったし、〈笑顔〉の味を忘れてしまうのはとても寂しいことだと思ったからだ。――というわけで、人間(ひと)以外のものもお客様として来店するようになった。その中でも、水瀬や八塚などは喫茶店開業以来の常連さんなのであった。

「うーん、いい香り。なんていうか、真夏の向日葵を連想させるような……。やっぱり、いつも味わうのとは違う〈笑顔〉は香りも違うねえ。さあて、どれどれ……」

 八塚は角砂糖の香りをスンスンと確かめると、さっそくティーカップにそれを投入した。ひと口飲んだあと、八塚は思案顔で首をひねった。

「ん? なんだ、この歌声。飲んだら映像じゃなくて、歌が聞こえてきたんだけど。この歌、どこかで聞いたことがあるような……」

「あ、それは日向子さんの〈笑顔〉ですね。彼女、今期のドラマの挿入歌でこっそりと使われて『あれ、誰!?』という感じで話題になってるみたいなんですよ! 女性に人気のドラマだそうなので、八塚さまのところに子宝祈願か成就の報告に来られた方が、口ずさんだりしていたんじゃないですかねえ?」

 へえ、と感心する八塚の横で興奮気味に頬を染める店主に、水瀬が呆気にとられてぽかんとした。

「君はインターネットには疎いのに、ドラマには詳しいのかい」

「だって、ご町内のご婦人方が〈私〉の前でよく盛り上がっているんですもの。買い物に出た先でも、やっぱりドラマのお話をよく聞きますし」

「ああ、それで気になってテレビを買ったというような話を何年か前に聞いたなあ、たしか」

 水瀬は苦笑いを浮かべつつも、納得して頷いた。店主はプウと頬を膨らませると、拗ねた素振りで返した。

「私は水瀬さまと違って、お賽銭を〈でんしまねー〉とやらでいただいたり、〈ほうむぺえじ〉というものを構えたりはしておりませんので。ハイカラなことに疎いのは仕方がないんです」

「いやいや、〈今期のドラマ〉という単語が出てくる時点で、十分にハイカラだと思うよ」

 水瀬は席を立つと、珈琲のお代を支払った。人間が使うのと同じお金で、だ。

 水瀬はニヤリと笑うと、財布を懐にしまいながら言った。

「でも、賀珠沼の人たちも、まさか自分たちが大切にしている神様が、自分たちの商店街に買い出しにきているとは思いもしないだろうなあ」

「ああ、そっか。このお店、不思議メニューのための不思議な材料以外のごく普通のものは、どれもご町内で調達しているんだっけ」

 水瀬や八塚の財布は自分の神社の賽銭箱と繋がっていて、彼らはそこからお茶代を支払っていた。そのお金で、店主は必要品の買い出しを行っていたのだ。

 カップを置きフウとひと息つきながら、八塚はニカッと笑って「マスターってば、本当にこの町が好きだねえ」と付け足した。店主は照れくさそうに頬をかき、水瀬はそんな彼女を見て嬉しそうに笑みを浮かべた。そして八塚に「じゃあ、お先に」と声をかけ、店主に会釈をすると、水瀬は自分のお社へと帰っていったのだった。

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