一人で部屋にいると
璃音意識が戻ったことで別に一人でも留守番もできるようになっていたのだが、真尋が『どうしても』というので璃音は『仕方なく』麗亜が留守中は真尋の家にいることにした。
「しっしっし、そんなこと言って、自分が寂しいクセに~」
真尋がそう言ってツッコんできても、璃音は「フン!」と視線を逸らして取り合わなかった。だが、真尋の言っていたこともあながち的外れではなかった。一人で部屋で過ごすのは味気ないとは感じていたのだ。
人間だった頃は、他人が自分の傍にいることが恐怖だった。彼女の両親は本当に些細なことで彼女のことを殴り、蹴り、痛めつけた。そしてそれを<躾>と称して他人には口出しさせなかった。
『子供は厳しく躾けないとロクな人間にならない』と言って、自分達の行いを正しいものだと信じて疑わなかった。両親自身もまた、子供の頃にそうされてきたからだ。
その両親がその後どうなったのかは敢えて触れない。ただ、少なくとも幸せだったとは言い難い人生だったのは間違いない。
それと比べれば、今の璃音の境遇は、<天国>とさえ言えるものだった。こんな暮らしがあることが信じられなかった。だから彼女は最初、麗亜のことが信じられなかったのだ。こんな人間がいるなんて知らなかったから。
どうして、人間として生きている間に麗亜のような人に巡り合えなかったのだろう。
どうして自分は、麗亜の子として生まれてこなかったのだろう。
一人で部屋にいるとついついそんなことばかりを考えてしまう。そういう意味でも、真尋の部屋にいるのを望んだ。
真尋は麗亜とはかなりタイプの違う人間だけれど、それでも両親や彼女が知る人間達とは大きく違っていた。璃音が人間だった頃に周囲にいたのは、自分と少し違っているからといって、自分と同じことができないからといって、作り物のように美しくないからといって蔑んで見下して罵って痛めつけるのが当然だと思っているような人間達だった。
両親に虐げられてビクビクとする彼女を馬鹿にし、罵り、ストレスの捌け口として扱った。<イジメ>である。そういう中で彼女は育ち、逃げるようにして家を出て一人で暮らし始めても、彼女は蔑まれた。『根暗』『陰湿』『ブス』『キモイ』『幽霊』『妖怪』『ばい菌』等々。
そんな彼女に救いの手を差し伸べようとする者もなく、そして彼女は絶望し、この世を見限った。
なのに、こんな体になってから、あの頃の自分とは比較にならないくらいに人間らしく扱ってもらえた。育ててもらえた。
「あ~もう! ウザい! 仕事しろよ!!」
自分の仕事もそっちのけでちょっかいを掛けてくる真尋にそう悪態を吐きながらも、璃音の顔はどこか笑っているようにも見えたのだった。




