ツンデレか
「え~っ! まひろママって呼んでくれないのぉ?」
璃音がかつての璃音に戻った翌日、ちょうど真尋と日登美の都合がついたので、事情を話す為に集まってもらったところ、
「は~い、真尋ママですよ~!」
と声を掛けてきた真尋に対して璃音がそっぽを向き、
「誰が『まひろママ』よ! 呼ぶわけないでしょ!」
などと応えたことに対して真尋が思わず叫んだのだった。
璃音がかつてそういう感じだったことについては、真尋も日登美も既に聞いていたのであまり驚かなかったけれど、さすがにこの変貌ぶりには戸惑わずにはいられなかった。
「それにしても、どうして急に戻ったのかしらね?」
日登美が首をひねりながらそう言うと、真尋が、
「記憶喪失から回復した感じなのかな?」
と何気なく言ったのに対して、
「ああ、それだ!」
と日登美が手を叩いた。
「いろいろやってる間に何かスイッチが入った感じで記憶が戻ったって感じなのかも」
だが、普通の記憶喪失とは違う部分もある。赤ん坊のようになっていた頃の璃音の基になるような、赤ん坊としての経験がそもそも彼女にはない筈なのだから。
さりとて、他に上手く説明できる理屈も思い当らず、取り敢えずはまあ『そんな感じ』ということで理解することにしたのだった。
「赤ん坊みたいだった頃の様子に、思い当たることはないの?」
日登美がそう問い掛けるも、「さあ?」と璃音は肩をすくめるだけだった。
麗亜に対して母親のように懐いていたことを覚えているように、真尋と日登美のこともしっかりと璃音は覚えていた。その分は理解が早くて助かった。
しかし、麗亜にしてみれば、そんな璃音の様子はかつてのものとはまるで別人のようにさえ思えた。最初に比べれば随分と柔らかくなっていたとは言えど、それでも今の彼女と比べればずっときつい感じに思えた。それほどまでに柔らかくなっていたのだった。
だからつい、彼女を見詰める表情も緩んでしまう。
「なによ。ニヤニヤして。気持ち悪いわね」
そう言う璃音に対し、即座に真尋が、
「お? ツンデレか? ツンデレなのか!?」
とツッコむ。すると璃音もそれ以上迂闊なことを言えなくなって黙るしかなかった。
「ああもう、やりにくい!」
とは言うものの、その様子は決して怒っているようではなかった。そんな光景に、麗亜の胸に込み上げてくるものがある。こうやって彼女が少しずつ世界を広げていってくれてるのが、素直に嬉しかった。
あの、人間を恨み妬んでいた彼女とはまったく違っていたのだから。




