正常性バイアス
正直、こう立て続けに他人と引き合わせるのは璃音にとって負担になるかもしれないという懸念はあった。けれども、この二人には知っておいてもらわないと今後の対応にも支障が出るだろうから、仕方がなかった。この二人以外にも友人はいるけれど、家にまで遊びに来るのはほぼ真尋と日登美だけだった。
日登美が持ってたバッグを落としながら素っ頓狂な声を上げたことで璃音が怯えてしまったけれど、それでもギャアギャア騒ぐのは何とか回避されたことで、どうやら第一関門はクリアされたと言えた。
「マジなの…?」
リビングでテーブルに着いて顔を突き合わせつつ、日登美は訊いてきた。
「マジよマジ、大マジよ」
真尋が額をこすり付けそうなほど顔を寄せて言う。
「うん。璃音は本当に<生きてる人形>なの。こんなこと、真尋や日登美にしか話せないよ」
麗亜が困ったような笑顔を浮かべながらそう言ったことで、日登美も何か納得がいったかのように「はあ~」と溜息を吐きながらだけど「なるほど、状況は分かったわ」と応えた。
「で、麗亜はこの子を育ててるってことでいいのね?」
念の為に再度の確認として日登美が尋ねる。それに麗亜と真尋は深く頷いた。
「しっかし、こんなことって本当にあるのねえ」
こうやって実際に璃音を目の当たりにしてもまだどこか『夢なんじゃないか?』と思ってしまう自分を自覚しながら、日登美は呟いた。
「まあ、この子は人間じゃないから、学校に行かす必要も戸籍を作る必要もないだろうし、そういう意味ではこのまま世間に隠して育てるのは難しくないでしょうね。私と真尋にだけは打ち明けてくれたのも賢明だと思う。無理に私達にまで隠そうとしたらかえって面倒なことになってたかもしれないし」
何とか落ち着いて冷静に話す日登美に、真尋が言う。
「だけど、うっかり私達がしゃべっちゃったりっていうのが心配かな~って思ってる」
それに対しても日登美は冷静だった。
「それはそんなに心配しなくていいんじゃない? 私だってこうやってこの子を目の当たりにしてるから受け入れるしかないだけで、酔っ払ってついしゃべっちゃったりしたところで、酔っぱらいの戯言にしか思われないわよ」
「そうかなあ」
「そうよ。真尋はその手の空想とか馴染み深いでしょうけど、あんただって直に見なきゃ本気では信じられなかったんじゃない?」
「言われてみればそうかな」
「人間ってそういうもんよ。自分の常識から極端に外れたものはそう簡単には受け入れられない。<正常性バイアス>ってやつの一種なんでしょうね」




