一人でいる寂しさ
さすがに麗亜も、会社での仕事中も璃音のことが気になっていた。それはもちろん、留守中に何をされるか分からないという形での心配でもあったけれど、それ以上に、一人で部屋で待ってるであろう彼女がどう思ってるかということについての心配だった。
麗亜の両親、特に父親は、そういうことに聡い人物だった。子供を家に一人きりにしないということを徹底していて、麗亜は小学校の六年生になるまで一人で留守番もしたことがなかった。
それを過保護だという人もいるかも知れないけれど、麗亜自身はそう感じていない。自分が一人でもいられるようになるまで待ってくれただけだと思っていた。だから今、一人暮らしだってできている。子供が一人で何でもしなくちゃならないような状況に追い込んで無理矢理させるんじゃなく、ちゃんと手順を踏んで一人でできるようになれるまで待ってくれただけだった。麗亜は、そんな両親に感謝していた。
けれど今、自分は璃音を一人にしてしまっている。それが心苦しかった。昨日はさすがにあの横柄な態度に閉口してしまったものの、冷静になってみるとあれはただ幼いだけだという実感が湧いてきた。璃音はまだ子供なのだと麗亜には思えた。
だから今日も、仕事が終わるとすぐ、いつも通りに買い物だけを済ましてそのまま家に帰った。誰も彼女を飲みに誘ったりしない。食事に誘ったりもしない。でも彼女は平気だった。一人でいても平気になるまで、両親がしっかりと待ってくれたから。寂しさを無理に我慢しなくても大丈夫になるまで待ってくれたから、彼女は目先の人間関係に縋らなくても大丈夫だった。
「ただいま」
部屋に戻ると、真っ暗な中で璃音はただテレビを点けていた。そして麗亜の顔を見るなり、
「ちょっと! 今時、リモコンで照明も付けられないの、この部屋は!?」
と怒鳴ってきた。
だけど、麗亜は見た。『ただいま』と自分が声を掛けた時、璃音が一瞬、縋るような表情をしたのを。寂しそうな顔がみるみる険しくなっていく瞬間を。
「ごめんね」
素直にそう言えたのは、そんな彼女を見てしまったからだろう。寂しさを紛らわせる為に、寂しいと思っていた自分を悟られないようにする為に、璃音はわざと横柄な態度を取っているのだと悟ってしまったのだった。
そうして麗亜は、璃音が自分の部屋にいることを受け入れる覚悟ができた。他に帰る家のない彼女を放っておけないと思ったからだった。