不可解な記憶
璃音の拙い看病が効いた、という訳ではないのだろうけれど、夜までに麗亜はすっかり回復していた。買い物には行けなかったので冷凍の総菜を電子レンジで温めたものをおかずに夕食にする。食欲もすっかり戻っていて。朝と昼を食べずにいた分を取り戻すかのようにしっかりと飛べていた。
「あ~、治ったって気がする~」
ポッコリと出た腹をさすりながら麗亜が至福の表情をしていた。
そんな彼女を、璃音が冷めた表情で見ている。
「ほんっと、人間て面倒臭くて不便よね」
璃音は人形なので体調を崩すということがない。気分の浮き沈みによって何となく体が軽かったり重かったりという感覚はあるものの、寝込むようなことはなかった。
ただ、何故か寝込んでいる時の感覚はある。孤独で、寒くて、このまま死んでしまうのではないかと恐ろしくて胸が締め付けられる記憶があった。
そんなことがあった筈はないのに。
だから、麗亜が寝込んだのを見てつい看病をしてしまったのかもしれない。かつて自分がそうして欲しいと思ったことをついしてしまったのだ。
しかし、その記憶が何なのか、璃音自身にも分からなかった。しかも、断片的ではあるけれど、最近、何となく思い出されてくることがあるのだった。
その中で、たぶん、最も古い記憶は、檻のようなところの中で殆ど身動きも取れなくて、いつも寒くて腹が減っていて震えていたというものだった。
何故そんな記憶があるのか、璃音自身にも分からない。もしかするとネットを見ていた時に読んだニュース記事の内容か何かを自分の記憶と混同しているのかもしれないとも彼女は思った。
だけど、それにしてはやけに生々しかった。まるで鳥籠かハムスターを飼う籠のような、とにかく小さくて、檻自体もやけに細くて、でも自分の力では壊すこともできなくて。
そこで不自然な体勢でいたから体のあちこちが痛くて、何度も何度も泣いて、人影が近付いてくると『ごめんなさい、ごめんなさい』と泣いて謝っていたような気もしてしまう。
『…何なのよ、これ……』
得体の知れない記憶に、璃音は戸惑っていた。それが最近、ぽつぽつと湧き出すように頭の中によみがえってくる感じだった。
とは言え、麗亜に相談する気にもなれず、璃音はただ頭の中にあるそれらを無視するようにしていた。他にどうしていいのか分からなかったから。
他にも、何かを押し付けられて熱いような痛いような感じがして悲鳴を上げたとか、巨大な影に思い切りひっぱたかれて体が吹っ飛んだとか、現実にあった筈のない記憶ばかりなのだった。




