夢の中へ
璃音は夢を見ていた。
どこの場所かは分からないけど、カーテンを閉め切った真っ暗な部屋で、彼女は壁にもたれて座っていた。
するとその視線の先に、誰かが床に倒れているのが見えた。知っている人のような気がするけど、思い出せない。
その人は、ピクリとも動かなかった。何日経っても何週間経っても、何ヶ月経っても。
その間、倒れている人の体が変化していくのが分かった。色が変わって表面の質感が変わって、ぐずぐずになって崩れていくのが分かった。やがて表面が破れて真っ黒な感じの液体が漏れ出して床に広がっていく。それがまたどろどろぐずぐずになって、しまいには床そのものがぐずぐずになっていくのが分かった。
そうなってようやく、誰かが部屋のドアを開ける気配がした。
「こりゃひでぇ……」
何人もの人間がドカドカと踏み込んできて、部屋の様子を見て一人が呟いた。
カーテンを開けて窓を開けると、ぶわっと空気が入れ替わるのが分かった。外の光が差し込んで、その人間達が制服を着てるのも分かった。警察官だった。
それから更にたくさんの人間が入ってきていろいろ部屋の中を調べて、ぐずぐずに溶けた<人間だったもの>を運び出した。
それでいったん静かになったと思ったら、今度はまたしばらくしてドアが開けられて、警察官とは違う、作業服を着た人間が何人も入ってきた。
その人間達は何とも言えない色に変色した床に向かって手を合わせて、
「よし、じゃあ始めるか」
と一人が声を掛けて荷物を整理し始めた。その時に整理された荷物の中に、壁にもたれた璃音もいた。
「大きな人形だな」
「これ、好きな人間にはたまらない、結構な値打ちものの人形らしいぜ」
「へえ、でもこんなとこにいた人形なんて、もう引き取り手もないかもな」
そんなことを話してるのが分かった。
しかしこの時の璃音には、その意味がよく分かっていなかった。体も動かない。頭も働かない。声も出せない。ただなすがままに運び出された荷物の上に置かれて、また暗い所へと仕舞い込まれたのだった。
それからまた何ヶ月か何年かの時間が過ぎて、気が付けば古臭い道具に囲まれた狭い店らしきところに璃音はいた。
どうやらそこは古物商と呼ばれる店のようだった。そこに売り物として、彼女は置かれていたのだ。
でもまだ彼女は動けなかったし喋れもしなかった。ただ何となく頭の中ははっきりしてきた気がしていた。
そしてある日、そんな彼女を買っていった人間がいた。神経質そうな顔をした中年女性であった。




