チュートリアル
璃音は人間ではないから食事も摂らないしトイレにもいかない。だからずっとゲームに張り付いていることができた。
今日は土曜日だからそれでも不自然ではないのか。
「ねえねえ璃音、あんたホントに課金とかしないの?」
と、ゲームの中でセレナが話しかけてくる。すると璃音は面倒臭そうに、
「誰が運営なんか儲けさせてやるもんですか。それで潰れたって知ったことじゃないよ。他にもゲームはいくらでもあるからね」
などと吐き捨てるように言った。
「あんたってホントにドライだね~」
セレナが呆れたように言ってるけれど、傍で見ていた麗亜の印象は違っていた。人形である璃音はお金を持っていないから課金などしたくてもできないのだと。ノートPCはねだっても、それ以上は求めてこない。どうやら本人の中でその辺りに線引きがあるらしい。
たとえゲームがサービス終了しても、璃音にとっては人間として誰かと繋がることができる場があればいいだけなのかもしれない。ネットゲームなど今はいくらでもある。なくなれば次々と乗り換えればいいだけのものなんだろう。
モンスターとの戦闘で、キーをバシバシを叩くように連打する姿に、彼女が抱えているものをぶつけようとするようなものも感じた。
そこで麗亜は、璃音がやっているネットゲームに自分も参加することにした。アバターを作り、ログインする。
「初めまして。璃音さん」
戦闘を終えて戻ってきた璃音の前に現れたのは、ほとんど初期状態のままのアバターだった。
「私はリアっていいます。よろしくお願いします」
キーボードを打った後で自分を見ながら微笑みかけた麗亜に、璃音も察してしまった。画面を覗き込むと自分がやってるゲームの、まさに璃音とリアがそこに映っていた。
「何よ。邪魔する気?」
睨み付けながら璃音が言っても、麗亜は穏やかに笑ってるだけだった。
「まさか。璃音と一緒に遊びたいだけだよ」
その言葉に、璃音は目を逸らしてムスッとした顔になった。
「勝手にすれば…!」
そう言いながら、ゲームの中では、
「よろしく」
とリアに返していた。
そうは言っても、リアはこのゲームにおいては完全な初心者だった。璃音が所属するギルドには入らず、フリーのままで璃音の後をついてきた。
「何がしたいのよ、ワケ分かんない!」
そう言うゲームの中の璃音に、リアは平然と答えた。
「何をしたらいいのか分かんなくて」
そんなリアに、璃音は頭を抱えたのだった。




