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第三章 交渉1

「ウヨヨヨーン。これほど痛快な気分はないぜぇん」

 ジャゲはタイヤの無いライドバンを運転しながら、通信機をダッシュボードへと放り投げ、後ろの貨物室を垣間見た。

「おい、ビヂャ! 小娘はちゃんと息してるんだろうなぁん?」

 すると小さな宇宙人が頭陀ずだ袋の紐を解き、意識のない智花を晒した。

「大丈夫ちゃん。ちゃんと生きてるちゃんよ。って、何をそんなに神経質になってるちゃん?」

「お前が用意した嗅がせ薬が効きすぎてぇん、死んじまったらぁん元も子もないだぁろぉん。ディアへの手土産どころかぁん、チャップを跪かせることも出来ないだろぉん。そうなりゃあん、そいつの価値はタダの生ゴミ同然だぁん」

 すると、ビヂャが愉快に笑った

「そうなったらそうなったで、サッサと血を抜いて、スティミュルスたちに売ればいいちゃん」

 自分の荷車を引き寄せて、採血道具を手にするビヂャ。するとジャゲは運転席から片腕を伸ばし、その小さな首をキュッと掴んだ。

「余計なことすんじゃねぇん! もし一滴でも血を抜いたらぁん、おまえを切り刻んで食ってしまうからなぁんっ!」

 口をパックリ開けて触手を唸らせるジャゲに、ビヂャは身を縮めて震え上がった。

「ほ、ほんの冗談ちゃん。ダンナの許可なく血抜きなんかするわけがないちゃんよ」

「おまえらはちょっとぉん目を離すとぉん、気付かない内に血を抜くから油断出来ねぇんだぁん!」

「ダンナとワシの仲ちゃん、少しは信用するちゃん。それで、どこへ行くちゃん?」

「とりあえずぅん、アジトに停泊しているセカンドシップに運んでぇん、そこに監禁するに決まってんだろぉん」

「なるほど。それで明日はどうするつもりちゃん? のじゃ猫と落ち合う場所とか決めてるちゃんか?」

「まだ決めてねぇしぃん、急いで決める必要はねぇだろぉん。何しろ、こっちには大事な人質がいるからなぁん、連絡しないで勝手にヤキモキさせておけばいいだぁん」

 ウヨウヨと気持ち悪い笑い声を上げながら、軽快にハンドレバーを倒し、アジトのある郊外へと向かうジャゲだった。



「それじゃあ、智花は海賊たちの逆恨みで誘拐されたってこと?」

 保子莉はソファーに浅く腰掛けたまま悄然と頷いた。

「そう言うことになる」

「どうしてそうなるのさ! 保子莉さんも何で海賊なんかと戦っ……」

 そこまで言いかけて、トオルは言いよどんだ。戦う理由があったからだ。もし抵抗していなければ、今頃は身売りされていたかもしれないのだ。日陰者としての一生。それだけに目の前の彼女を、誰が責められようか。

「ごめん……。今のはちょっと言い過ぎたよ」

「構わん。おぬしの気持ちも痛いほど分かるのでな、何を言われても返す言葉がない」

 失態を甘んじて受け入れる保子莉に、トオルは気まずい思いだった。

「とりあえず今夜のことじゃが、念のため、おぬしはこの部屋におれ。夜襲や誘拐などないとは思うが、万が一と言うこともある。ゆえに片時もわらわから離れるでないぞ」

 そう言うと、保子莉は携帯を取り出して電話を掛け始めた。

「爺ぃか。実はこっちで問題が発生したのじゃが」

 トオルは彼女と老執事の会話を耳にしながら、ベッドの上に散らかった妹の荷物をまとめることにした。この世に生まれてから親の愛情に恵まれ、何の不自由無く育てられた十数年。なのに、ここにいたって身内が拉致されただけに、思考もままならなかった。

 ――なんとかしなきゃ

 トオルは沈んでいく気持ちを引き上げ、震える両手で妹の服をギュッと握り締めた。

「……そうか。では、そちらには特に変わった報告は入ってないのじゃな。……うむ……分かった。くれぐれも従業員たちには、家族から目を離すなと伝えておいてくれ。こちらも事の詳細が分かり次第、連絡するので頼んだぞ」

 話を終え、携帯電話を閉じる保子莉にトオルは訊いた

「どうしたの? もしかして他の人も狙われているの?」

「何とも言えん。しかし相手は海賊じゃからな、我々以外にも狙いをつけても、おかしくはないと踏んだのじゃが……幸いなことに、従業員たちには被害が及んではいないらしい」

 保子莉は端的に説明すると、再び電話をし始めた。

「あ、わらわじゃ。実はちょっと問題が発生してのぉ。何? トオルさまの声を聞かせろとな? アホかぁ! 今はそれどこでないのじゃ! それより仕事の話をさせんかい!」

 その受け答えからして、今度の通話相手はクレアのようだ。

「身内の者が海賊に攫われた場合、身代金要求の保険は適応されるのじゃろうな? 何、被害者は誰じゃとな? 実は信じがたいことに、トオルの妹が海賊に攫われたのじゃが……」

 通話相手の言葉に「うむうむ」と頷く保子莉。そして適応条件を聞かされたのだろうか、黙って耳を傾けていた保子莉が突然ブチ切れた。

「無理じゃとぉぉお! あれだけ最上位の保険にオプションまで付けておるのに、一銭も出せんとはどういうことじゃぁぁあ! 何? 仕事以外のプライベート旅行に出掛け、その上、従業員でない者には適応されないのは当たり前とな。いや、そのくらい分かっておる。だからこそ、こうしておぬしに契約偽装してもらおうと願い出ておるのじゃ。そっちで身代金を用立ててくれれば、あとはわらわが何とか……」

 高校生のトオルでも判るような違法行為を平然と口にする保子莉だったが

「出来んのか。ほぉ、そうかそうか。なら、おぬしのトオルさまの貞操は今宵限りでお終いじゃ!」

 怒鳴りつけて通話をぶった切る保子莉。いくら必死とは言え、まさか最後の捨て台詞で、自分の貞操が引き合いに出されるとは思わなかった。もっとも、それでどうにかなるならば願ったり叶ったりなのだが。すると、すぐに携帯電話の着信音が鳴った。もちろん、それが誰からなのか察しがついていた。

「何じゃ? 今のわらわはとっても忙しいのじゃ。保険が適応出来るようになってから、電話をよこせ!」

 一方的にまくし立て、ブチっと電話を切る。よほど余裕が無いのだろう。しかしトオルが気になるのは、身代金の額面であった。

「保子莉さん。身代金って、いくらくらい払うつもりなの?」

「人質交渉の相場が判らんので何とも言えんが、海賊保険の一部、日本円換算で一億円を用意してもらうつもりじゃったのだが」

 その巨額にトオルはぶったまげた。

「一億も払うの」

「あくまでも交渉するために用意する金額じゃ。まぁ、この辺りの星系ならばせいぜい一千万も払えば、無条件で交渉成立し、万事丸く収まるはずなのじゃが……問題はジャゲが、どの金額で妥協してくれるのかが皆目見当がつかんのじゃ」

「でも保険が適応されない以上、お金はどうするつもりなのさ?」

「当社の経費で何とか都合を付けるつもりじゃ。約束手形などの貸付を集めれば、とりあえず二千万くらいは賄えるのでな。なので、おぬしは余計な心配はせんでも良い。いずれにせよ、ジャゲから連絡が来ないことには何も始まらんし、寝不足では頭も回らんからのぉ。なので、今夜は明日に備えて寝ることに専念しようぞ」

 その冷静な判断と段取りの良さに、トオルは頷くほかなかった。

 と、そこへ部屋のドアをノックする音が。

「あ、僕が出るよ」

 率先して応対にあたるトオルに、保子莉が注意を促した。

「ちゃんと相手を確認してから、ドアを開けるんじゃぞ」

 智花の誘拐のあとだ。もちろん、そのつもりだ。と警戒しながら覗き窓から外を確認して見れば、げんなり顔の長二郎がいたりする。トオルはドアを開けて長二郎を部屋へ招き入れると、廊下を見渡し、ドアを閉めて厳重に戸締りをした。

「長二郎、怪しい宇宙人とかにつけられていたりしないよね?」

 智花誘拐の一件を踏まえ、尾行をされていないかと心配するトオルだったが

「そんなことより、聞いてくれよ。俺が稼いだ全財産がパーになっちまったんだよ! しかも、それを取り戻そうとして大事な嫁カード152人を担保に、トキンねぇちゃんから1520万ケピロン借りたんだけどよぉ、それもルーレットで全部スッちまって無一文になっちまった……」

「はぁ?」

 日本円にして152万円。所持金0円だった親友が見知らぬ惑星で多額の借金を背負ったことに、トオルはただただ呆れるばかりだった。

「それがどうしたと言うのじゃ。現在、我々が置かれた状況に比べれば、おぬしの借金など大した額ではないわ」

「フザけたこと抜かすなよ! こっちは嫁たちが人質に取られてイライラ……って、おいおい。2人とも浮かねぇ顔してるけどよ、何かあったのか?」

 長二郎は、神妙な顔をするトオルと保子莉を交互に見やり、部屋全体を見回した。

「そういえば、智ちんがいねぇじゃん? もしかして風呂にでも入ってんのか?」

「それが海賊に誘拐されて」

 困惑混じりに説明するトオルに、長二郎が不快な面持ちをして笑った。

「おいおい、冗談だろ? 二人して俺を担ごうったって、そうはいかないぜぇ」

「冗談ならば、どんなにいいことか」と答える保子莉に、長二郎も笑うのをやめた。

「どういうことなのか、詳しく教えてもらおうか」

 長二郎はそう言って、智花が寝るはずだったベッドに腰を降ろした。



「アタシをこんなところに押し込んで、どうするつもりよ!」

 タルタル星の辺境地。地元の宇宙人でさえ、二の足を踏む深い渓谷。そこに停泊している海賊船の格納庫に、車両ごと乗り入れたジャゲは、智花を大きな鉄の檻に放り込んだ。

「ホテルに帰してよ!」

 騒ぎたてる智花に対し、ジャゲが檻を蹴飛ばした。

「うっせぇぇぇぞぉん! キャンキャン吠えるなぁん! ビヂャ、早くこのガキを黙らせろぉん!」

 猿ぐつわをしようと檻の中へ入ったビヂャだったが、牙をむいて反抗する智花に苦戦していた。

「こら、暴れるでないちゃんよ!」

「近寄らないでよ!」

「アホかぁん! 誰も助けに来ないんだからぁん素直に諦めろぉぉん」

 口の触手を気味悪く動かして笑うジャゲに、智花は大声を張り上げた。

「ばかぁぁ! お前みたいな悪い宇宙人は死んじゃえばいいのよ!」

「ウヨヨヨーン、好きなだけ言ってろぉん! おお、そうだぁん。いいことを思いついたぜぇん」

 ジャゲはニタリと笑って、ビヂャに命令する。

「おい。そのへんでたむろしている男共を呼んで来いん。連中、女日照りが続いて飢えているようだからぁん、このメスガキを充てがってやればぁん、大喜びするに違いないぜぇん」

 その言葉の意味に、智花が恐怖の色を浮かばせた。性行為の経験はないとはいえ、戒められることは、中学生になったばかりの智花でさえ理解できたからだ。

「おゃん、おとなしくなったなぁん」

 押し黙った人質を前にして、ビヂャが面倒くさそうに肩をすくめた。

「ワシはジャゲのダンナ以外、他の連中とは面識がないちゃん。そんな中で、パシリみたいな役回りはゴメンちゃんよ」

「そう言うなぁん。これを機に他の連中との人脈を築いておけばぁん、決して無駄なことじゃないぞぉん」

 ジャゲの口車に、ビヂャが「なるほど」と手のひらを打つ。

「それも一理あるちゃんね。分かったちゃん。だったらメスに飢えてるオス共を探して連れてくるちゃんよ」

 軽快に羽ばたいて格納庫を出て行くビヂャ。ジャゲはその後ろ姿を見届けると、悪魔のようにほくそ笑んだ。

「ウヨヨヨ。もうじき、お前と遊んでくれるオス共がやって来るから喜べぇん」

「冗談じゃないわよ! アンタたちの思い通りになるくらいなら死んだほうがマシよ!」

「檻に閉じ込められている分際で、なぁにぃ強がってるんだぁん。まぁ、廃人になりかけたらぁん、俺さまが止めに入ってやるからぁ、安心しろぉん」

 檻をひと蹴りして笑うジャゲに、智花は悔しそうに下唇を噛み締め……やがて諦めの表情を浮かべた。

「助けて、トオルにぃ……」

 涙を零し、鼻を啜る智花。すると通用口からかビヂャの声が。

「ダ、ダンナぁ……」

 そのか細い声に、ジャゲは期待の色を目に浮かべて振り返った。

「早かったなぁん、んで、どうだぁん? メスに餓えた連中は……はあぁん?」

 マヌケな声を発するジャゲの視線の先に、ビヂャを握るイノシシ男、そして金髪美少女と幼女の姿があった。

「仕事をサボって、こんなところで何をしているんだ?」

 口角脇から突き出た牙を光らせるギンツォに、ジャゲが震えあがった。

「サ、サボってなんかぁんいませんぜぇん! 買い出しに出掛けたら、この小娘が困ってたんで拾ってやったんでっさぁん!」

「なぁん」と同意を求めるジャゲに、智花は声を張り上げて否定した。

「ウソつきっ! アンタが勝手に部屋に押し入って、あたしを誘拐したんでしょっ!」

「誘拐だと? それは聞き捨てならんな」

 ギンツォは片眉を上げてジャゲを睨みつけた。

「見たところ純人間ヒューマンのようだが、地元でそんな人間を攫ってくるとは、どういう神経をしてるんだ。もし星系パトロールの連中が動き出して、ここを嗅ぎつけでもしたらどうするつもりだ」

 すると幼女エテルカもかぶりを振った。

「きっと貴方のことですから、目先の利益に目が眩んで、事の重大さに気付かなかったんでしょうね」

「なんだぁん! その人をバカにしたような物言いはぁん!」

 ジャゲが幼女の胸ぐらをグッと掴み上げた。……が、同時にエテルカはスカートの裾を捲り上げ、両太ももに巻きつけたレッグホルスターから二丁の拳銃を素早く引き抜いた。

「二度目の恩赦はありませんよ」

 オモチャのような拳銃を鼻先に突きつけられ、ジャゲは両手を振って退いた。

「い、いや、ちょっと待つだぁん!」

「待つ理由が見当たりません」

 刹那。ポシュッと間抜けな音と共に、ジャゲの後ろの壁に穴が空いた。その光景にジャゲが触手を震わせて腰を抜かしていると、ディアが感情なく呟いた。

「……下手ね」

「ディアさま。私と10年以上、一緒にいるのですから、ワザと外したことくらい気づいてください」

 そう言ってエテルカが拳銃をレッグホルスターに収めると、ギンツォがジャゲの触手を掴み上げた。

「それでディアさま。こいつはどうします?」

 するとエテルカがディアを一瞥し

「とりあえず、どのような経緯でこのようなことになったのか、伺うことにしましょう」

「と、言うことだ。洗いざらい全部、吐いてもらうからな。覚悟しろよ」

 睨みをきかすギンツォ。すると握られていたビヂャが必死にもがき始めた。

「ワシは関係ないちゃんから、解放するちゃんよ!」

「そうはいくか。お前さんが呑んだ酒代が払われてないと、飲み屋の店長から報告が入ってるんだ」

「それならジャゲのダンナが払ってるはずちゃんよ!」

「毎度毎度ツケで呑んでいるジャゲに、そんな甲斐性はないはずだ。それに今日、支払った金は100ケピロン。これではお前の血酒代にもなりゃしねぇ」

「そんなこと知らんちゃん! とにかくワシは関係ないちゃんから、放すちゃん!」

 ギンツォは暴れるビヂャを逃がさないように強く握り締めると、二人を連れて格納庫から出ていった。それを見届け、ディアが檻に歩み寄る。

「な、なによ?」

 智花が檻の隅へと後退りすると、ディアが羽織っていた漆黒の羽毛コートを脱いだ。いや、正確には広げたと言うべきだろう。それは正に鳥特有の羽であり、その両翼が彼女の背中に折畳まれ、見る影も無く消えていく。露出度の高いエナメル素材のパンツルック姿。そのはみ出るほどの大きな胸の谷間に、智花の視線は釘付けになってしまった。

「……出て」

 と扉を開けるディアに、智花は恐る恐る檻から這い出た。

「今度は、なにをするつもりなの?」

「何もしません。先ほどの者から事の経緯を聞いた後、釈放するつもりですからご安心下さい」

 とディアの側に立つ幼女に、智花は眉を顰めた。

「あのねぇ、アタシはこの綺麗なお姉さんとお話してるの。だから子供が余計な口出ししないでね」

「誰が子供ですか」

 智花の上から目線に、幼女がプゥッと頬を膨らませていると……ディアがエテルカの肩を叩いて自身を指差す。

「えっ? そんなに私は綺麗なお姉さんなのかですって? それは私からみても、ディアさまは美人ですけど。えっ? あらたまって言われると嬉しいものですって? いえ、ディアさまの気持ちは分かりますけど、時と場所をわきまえて下さい」

 そんな幼女の独り言に、智花は眉をしかめた。

「ねぇねぇ、お嬢ちゃん。もしかして頭がおかしいの?」

 その失礼な物言いに、エテルカがキッと智花を睨み上げる。

「私はいたって正常です。あなた、子供のくせに生意気ですね」

 心を読まれていることにも知らず、智花も張り合うように強気に出る。

「アンタの方こそ子供でしょう! 小学生なら年上をもっと敬ったらどうなのよ!」

「私はこう見えても15歳です!」

「ウソついてもダメよ。胸だってペッタンコだし、どこからどうみても幼稚園児か、小学一年生じゃない」

「胸の大きさで年齢を判断するなら、ディアさまなんかお婆さんですよ!」

「……ババアは失礼過ぎ」

 表情を微かに歪ませるディアの鼻先で、智花とエテルカが激しく視線を衝突させた。

「さっきまでピーピーと泣いていたくせに、大した減らず口を。分かりました。あなたより、大人であれば納得して頂けるんですね」

 そう言って腰から下げたポシェットから端末を取り出し、クリックする幼女。するとたちまち眩い光が放たれ、一瞬にして智花を見下げるほどまでに成長した。背丈が伸び、しなやかで女らしいスタイルに加え、胸も智花よりも大きく膨らんでいた。

「これなら、文句もないでしょう?」

「フフン」と胸を張る元幼女に、ディアがポツリと呟いた。

「……エテルカ、ババァになった」

「意味もなく胸で歳を計るのはやめて下さい!」

 エテルカの声に、無表情で知らん顔を決め込むのディアだった。

「ア、アンタいったいなんなの? 急に大人になんかになっちゃって……」

 初めて見た宇宙人のフォームチェンジに、智花が気持ち悪そうに身を引いていると……

「私たちクレハ星人は、先ほどの姿こそが成人体型なのです。なので、見かけだけで判断して頂きたくないものですね」

 流石の智花も、エテルカが自分より年上であることを認めざるえなかった。

「もぉ、分かりましたぁ。アナタが年上だというのは分かりましたからぁ、元に戻ってくれませんか? その姿のままだと、コッチも調子狂っちゃうんで」

 不服を漏らす智花に、腰に両手をそえて対抗するエテルカ。

「貴方のその態度、とても年上を敬っているようには見えないのですけど?」

「気のせいですよ。それでどうするんですか? アタシとしては、早く保子莉お姉さまのとこに帰りたいんですけど?」

 智花の要求に、エテルカは元の幼女姿に戻って言う。

「とりあえず、あなたがどこの星人か聞いた上で考慮します。もしかしたら星系パトロールが手配した囮とも考えられますので」

 真顔で説明する幼女に、智花は眉根を顰めた。

「囮って……もう意味分かんないよ」

 と、自分の置かれた立場が理解できず、苦悩する智花だった。

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