5
昼をだいぶ過ぎた夕方にほど近い時間。
ひと月かけた徴税隊の移動が終わり、俺たちは無事に街まで戻ってきた。
門の前で兵士たちが別れ、荷物を山と積んだ荷馬車を見送る。そのまま街の中心部にある領主の城の蔵に放り込まれるのだろう。
冒険者ギルドのメンバーもここまでくれば依頼は完了だ。最後に人数を数え、一人も欠員がないことを確認して解散となる。街の中に家を持っている者や娼館に旅の垢を落しに行く者など、てんでばらばらに散っていく。
俺は護衛依頼の報告と新人たちをギルドまで連れて行く必要があるのでまだ休めない。
領都の東門をくぐり、顔見知りの門番たちと簡単に近況の報告を交えてからギルドに向かった。
「ようやくギルドかー。もっと早く案内しろよなー、ちんたらしてんじゃねーよ」
門番たちと話をしていた間ヒマそうに突ったっていたシンが、隣でブツブツと文句を言う。
俺が新人たちの教育係だと伝えてあるのだが、反抗的な態度が未だに改まらない。ナービのじいさんの方が良かったと事あるごとに口にする始末だ。
これ以上生意気な口をきけないように思い切りしごいてやろうと思う。
東の大通りの途中から細い路地へ入っていく。この先は貧民街の住人ほどではないが、あまり金を持っていない人間たちが集まる一画だ。中の下から下の上くらいだろう。治安もそれほど良くない。
そんな場所の真っ只中に冒険者ギルド『東の流星』は存在する。
地代が安いので建物も大きい。中央に二階建ての木造の建物がありここが受付兼待機所になる。その左右にロの字を描くようにして寮が続き、中庭は鍛錬が出来るように開けた空間が確保されている。奥の建物はギルド員向けの食堂や貸し倉庫だ。
入口を開けるとカウンターにはいつものようにギルドマスターのおやっさんが陣取っていた。
「戻りました。護衛依頼は無事に終わりましたよ。兵士にもギルドメンバーにもけが人はいません」
「おう、おかえり。無事に終わったようだな。よくやってくれた」
「あのメンバーの面倒を見るのは大変でしたよ。やりにくくてしょうがない」
「お前の指示にはちゃんと従ったんだろう?」
「そりゃ仕事は真面目にやっていましたけどね。散々世話になってきた相手にアレコレ言うのは精神的に疲れます」
旅装を脱ぎ、カウンターの上に荷物を置いて、ようやく一息ついた。
(……帰ってきた。やはり、ここがもう俺の家だな)
生まれ育った村は懐かしかったが、それでも記憶の中の風景との違和感を感じていた。自分の居場所ではないのだと思った。
自分の家はここ。この冒険者ギルドが俺の家。
十年の年月の間に自然とそう感じるようになっていた。
「なあ、そろそろ紹介してくれよ!!」
感慨深い気持ちに浸っていたところで横から痺れを切らした声が飛んできた。
ギルドについた時点でギルドマスターに突進していかなかっただけマシだろう。そう割り切ることにした。
「ふむ、チート。こいつらが今回の新人か?」
「ええ。今年はこの二人だけです」
「二人か……。もう少し人数が欲しかったが、最近は豊作続きだからこれでも多い方か。
で、二人共名前は?」
「お、俺の名前はシン! シン・ヒイロだ! ……です!!」
「レ、レミ・クウラです……」
「シンとレミか。ようこそ、ギルド『東の流星』へ。俺はギルドマスターのドンマだ。歓迎する!!」
おやっさんが右手を差し出すと、遅れてシンとレミも手を前に出した。
二人がおやっさんとしっかりと握手を交わした。
こうして新たな冒険者が二人誕生した。