英雄伝説の始まり 前
俺の名前はシン。
未来の英雄になる男だ。
剣の天才で村じゃ誰ひとりとして俺に敵わない。
才能だけじゃなくちゃんと鍛錬もしている。
畑仕事の合間に隙を見ては木刀を振り回している。
両親は俺に家を継げ、畑仕事を覚えろと口うるさく言うが、俺はこんな辺鄙な村の農民で終わる男じゃない。
だから家も畑も弟に譲ってやることにした。
あいつは俺より弱いし才能もないからな。
村の外に出たらあっという間に死んじまうだろうな。
十五歳になった。
これで俺も成人だ。
最後まで俺を引きとめようとしていた両親も、時間をかけてじっくりと説得したおかげでついに俺が冒険者になることを認めてくれた。
後は秋の祭にやってくるナービのじいさんに俺も冒険者になると言うだけ。
冒険者ギルドについたらきっと大歓迎されるだろう。
何せ俺は天才だからな。
タダ酒目当てに祭にやってくるような、うだつの上がらない落ちこぼれ共とは格が違う。
バンバン依頼をこなし、凶悪な怪物たちを倒し、この国一番の、世界最強の冒険者に俺はなるんだ。
ああ、楽しみだ。早く迎えに来ないかな。冒険者デビューが待ち遠しい。
祭の日。
昨日のうちに徴税隊から連絡役がやってきて、予定通りに到着すると連絡が入った。
村は朝から祭の準備で大忙しだ。
料理の用意や会場の机や椅子の準備など、徴税隊がやってくる前に終わらせておかないといけない。
俺もあちこち走り回って手伝ったが、昼前には村の入口に移動して徴税隊がやってくるのを待っていた。
遅い。
……遅い。予定通りと連絡役が言っていたのに。
……、まだ来ないのか。
散々待たされて、ようやく徴税隊が森の間を抜けて出てくるのが見えた。
この村を目指して、丘の道をだらだらと歩いている。
「待ってたぜ! 早く冒険者ギルドに入れてくれ! 俺、絶対にすごい冒険者になるぜ!!」
あまりに進むのが遅いので、俺の方から迎えに行くことにした。
丘の道を駆け下りていくと、一人の男が前に出てきた。
俺より十歳くらい年上だろうか。
くたびれた着古された服。兵士の身につけるものじゃない。
冒険者か。今まで見たことのない顔だ。今回が初参加の下っ端かな。たぶんそうに違いない。
下っ端のおっさんが口を開いた。
「出迎えありがとう。君はここの村の住人かな? 冒険者志願ということだが、話をする前に先に隊を休ませたい。どこで休めばいいか村長さんに聞いてきてくれないか?」
俺がこの村の住人かって? 今村から出てきたんだから、聞かなくてもわかるだろ。
それに休みたいなら勝手に村に入って休めばいい。
徴税隊が使う場所は毎年同じだ。わざわざ村長に聞かなくてもナービのじいさんたちなら知っている。
この下っ端、そんなこともわからないのかよ。
使えない奴だな。ナービのじいさんはどこにいるんだ?
未来の英雄の俺が出迎えに来たんだ、引っ込んでないで顔くらい見せてくれればいいのにな。