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二日酔いで痛む頭を抱えたまま出立し、荷馬車を護衛しながら街道を進むこと数日。
次の村が視界に入ってきたところで、一人の少年が村の中から飛び出してきた。
「待ってたぜ! 早く冒険者ギルドに入れてくれ! 俺、絶対にすごい冒険者になるぜ!!」
出迎えかと思ったら、どうやら冒険者志願者だったらしい。
おそらく今年十五歳になったばかりなのだろう(十五歳で成人とされる)。前々から冒険者に憧れていて、ようやく冒険者になる時が来たと舞い上がっているに違いない。
現実の冒険者はそんないいものじゃないのだが、ギルドにやってくる人間の中には時々こういう手合いが混ざっていたりする。
まあとにかく、冒険者志望の少年相手ならば俺が担当するべきだろう。
対応するために隊列の前に進み出てほどなく、少年が隊の近くまでやってきた。
明るい金茶色の髪のやんちゃそうな少年だった。体格も肉のつき方も悪くない。食うに困った貧農の子というわけではないようだ。
「出迎えありがとう。君はここの村の住人かな? 冒険者志願ということだが、話をする前に先に隊を休ませたい。どこで休めばいいか村長さんに聞いてきてくれないか?」
「あ? 誰だよあんた? そんなのあんたが聞いてくりゃいいだろ!」
「……はぁ」
思わずため息が出た。
徴税隊の到着もその対応も、村の人間にとっては一大事だ。
街道とはいえ長い距離を移動してた隊員たちにとっても休息は絶対に必要なことだ。
そういう重要な要件があるというのにそれを歯牙にもかけなず、自分の用事を優先しようとするというのは……どうなのだろう。
(物事の優先順位付け、か。このくらいの年齢じゃ出来なくても普通か……?)
平和な農村生活ではそういう経験を積む機会も少ないだろうし、自分の欲求を優先してしまうのも仕方のないことかもしれない。
だが、農村で農家として一生を過ごすのならともかく、これから冒険者を志すというのなら、これではダメだ。一人前の冒険者ともなれば、重要な案件を自分で判断し処理する能力が求められる。
(これは……教育するのも骨が折れそうだな……)
早く冒険者ギルドに入れてくれと騒ぎ出した少年を前にして、ようやく俺は教育係の仕事の難しさを痛感した。