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冒険者になる連中は一言で言えば『いらない人間』だ。
具体的には農家に生まれた次男、三男など。長男が両親の世話と家と田畑を受け継ぐと、弟たちは村を追い出され、街へ向かって仕事を探す。
だが、伝手があれば商会などに丁稚に入ったりもできるだろうが、村の中で生まれ育った彼らに街の伝手などあるはずがない。
結果、まともな仕事を街で得ようとしても叶わず、仕事もなければ収入もない、乞食に身を落とすことになる。
そんな悲惨な未来しかない次男坊、三男坊が唯一まともに就職出来るのが冒険者ギルドだ。冒険者ギルドはいつでも人手不足。五体満足の健康な人間ならほぼ無条件で受け入れる。
冒険者を志望する人間は村に訪れた徴税隊に申し出て、そのまま街に戻る一隊に同行し、ギルドマスターの許可を得てようやくギルドの一員となれる。
村の敷地からろくに出てこない農民たちにとって、街までの旅とは大変危険だ。その危険を減らし、彼らが確実に街までたどり着くために、こういう仕組みになっているらしい。
そんなわけで、新人教育係に就任した俺は各村々の代表たちとも顔を繋ぎ、それぞれの村の状況などを聞き、冒険者志望の若者がいないかどうかの確認もしないといけないわけだ。
護衛隊の冒険者たちの面倒もみないといけないし、本当に仕事が多すぎて困ってしまう。
「ははは、そんな愚痴るなって。そんな大役を任されるお前のことが俺は誇らしいよ。ほれ、乾杯だ! お前ももっと飲め飲め!」
「だから、責任者だからそんなに飲めないんだって……貰うけど」
「はは、いい飲みっぷりだ!」
俺が生まれ育った村の収穫祭の席で、隣に座った兄から酌を受ける。
勧められるままに次々に杯を空にしていくが、この時ばかりは周りも止めたりしない。
兄は長男。家を継いでこの村に残った。嫁も貰い、息子と娘もいる。
俺は次男。家を継ぐことができないので十年前にこの村を出て冒険者になり、今回、十年ぶりに里帰りを果たしところだ。
「立派になったなあ、チート! 教育係に選ばれて、冒険者たちのリーダーとしてこの村に戻ってきて! 本当に、本当に、立派ないい男になったなあ!!」
バンバンと力いっぱいに俺の肩を叩く兄の手のひらが痛い。どうやら既に酔っているようだ。
義姉さんが困ったように俺に笑いかけ、幼い甥や姪たちが珍しいものを見るように兄と俺を見ていた。
「よく帰ってきた!」
「まったく、十年も音沙汰なしとか心配させやがって!」
「とにかく飲め! そして吐け! 今まで何していたのかたっぷり話してもらうぞ!」
早々に酔いつぶれた兄を義姉さんが横にどかすと、村に残ったかつての友人たちが近寄ってきて次々に盃を勧めてきた。
俺の記憶じゃまだまだ頼りない青臭いガキだった連中が、今じゃ子供もいる一家の大黒柱になっている。
十年。ひたすら我武者羅に前へ進んでいた記憶しかなかったが、改めて時間の流れを感じた。
旧友たちと浴びるように酒を飲み、かつてのように笑いあう。
この護衛隊に入るために必死になる兄貴分たちの気持ちが、今なら理解できる。
「実りの女神に乾杯!! 我らに祝福を与えたまえ!!」
「「「祝福を与えたまえ!!」」」