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 新人教育係に就任したが、うちのギルドには現在新人が存在しない。

 去年、一昨年と豊作が続き、農村から出稼ぎに来る新人冒険者がいなかったからだ。


 今年は去年ほどではないがまずまずの実りだったようで、もしかしたらまた新人が来ないかもしれないとおやっさんに言われた。


「まあ、実際にところは行ってみないとわからん。今回の責任者はお前を任命するからしっかり頼むぞ」

「責任者って、ていのいい雑用係の気がしてきたんだが……」

「ははははは! それじゃあ後は頼んだ! あいつらの手綱をしっかりと握っておけよ!!」


 笑って誤魔化すおやっさんに丸投げされ、俺の苦労の旅路は始まった。


 ◆


 収穫の秋。

 作物が農村で実り、農民たちが一家総出で収穫を行うこの時、領主の徴税官たちは領内の村を周って税を集める。

 領都を中心に広がる村々を回って税を集める為に荷馬車が方々からかき集められ、その護衛として兵士と冒険者が周囲を固める。


 この徴税隊だが、広い領内を回る為に東西南北の四つの部隊が領都から出発する。

 そしてその部隊一つに対し、一つの冒険者ギルドが存在する。

 つまり、ここの領都には四つの冒険者ギルドが存在しているのだ。


 俺が籍を置いている冒険者ギルドは『東の流星』という名前のギルドで、そのまま領内の東の方角を請け負っている。

 担当範囲内には七つの集落が存在していて、この村々をひと月ほどかけて往復する。

 村と村との距離はそこまで離れていないのだが、足の遅い荷馬車に合わせてゆっくり進むのと、それぞれの村での税の確認作業があるのでこの日程となる。


 今回護衛としてギルドから選出されたのは俺の他に十人。三十歳以上の経験豊富なベテランばかりで俺が一番若い。

 だというのに何故か俺がリーダーになり、兄貴分たちに指示を出すハメになった。


「俺らは言われたことはちきんとこなす。だからお前が後の面倒くさいことは全部やれ」


 これが出発前に兄貴分たちからかけられた温かいお言葉だ。嬉しくて涙が出てくる。

 しかも、これが口先だけの方便で好き勝手やるようなら喜んで指揮権を差し出したのに、本当に全員が全員、俺の指示に従い、意見一つ言わないのだ。

 隊を預かる重責やら兵士たちの代表者との話し合いやらで、道中俺は心休まる暇がない。



 明日以降のルートの確認と護衛の配置について話を終え、衛兵のテントを出たところで兄貴分たちの声が聞こえた。


「実りの女神に乾杯!! 我らに祝福を与えたまえ!!」

「「「祝福を与えたまえ!!」」」


 ガチンガチンと木のコップをぶつけ合い、中身を美味しそうに呷る。

 うめー! サイコー! と大声で騒ぎ、酒盃で喉を潤しては目の前のご馳走にかぶりつく男たち……。


 秋の収穫が終わったら、農民たちがやることは一つ。

 収穫祭だ。

 徴税隊が訪れるのに合わせて村では祭りが行われ、年に一度の大いなる実りに誰もが腹一杯になるまで飲みまくり、食べまくる。

 当然、徴税隊の兵士たちにもその実りは分け与えられるし、同行している冒険者たちもそのおこぼれをあずかることが出来るのだ。


 祭の間は、立ち寄った村々でタダ酒、タダ飯を好きなだけ食らうことができるので、この護衛任務は極めて人気が高い。

 なんとかして選ばれようとみんなが躍起になるし、道中に問題を起こして謹慎処分などを食らわないように(祭に参加できなくなるので)真面目に、熱心に、大人しく、任務に励む。


 そして、楽しい祭の間に面倒事を考えなくて済むように、責任者の地位を一番年下の俺に押し付けて自分たちはご馳走に舌鼓を打つというわけだ。


「いい気なもんだよ、本当に」


 隊の責任者として正体をなくすほど飲むわけにもいかず、ほどほどの量でやめる。村で作っている酒なので街で売っている酒屋の酒には劣るが、タダ酒というのは格別なのだ。それを諦めないといけないのだから責任者は辛い。

 話し合いの間に料理も冷めてしまっていた。せめて量だけは食ってやるとかぶりつきながら、宴会を心の底から楽しむ兄貴分たちに恨めしそうな視線を送る。


「冒険者志望者もいなかったし、そう上手くはいかないか……」


 新人がいなくては新人教育係の出番もない。

 残りの村で何人か見つかるといいんだが、どうなることやら。

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