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第七十八話 「勇者よ、大地に伏せろ!」


 Uターンして、再びスコール・キャニオンへ。

 冒険者パーティ“帝国軍残党”の、飛竜連隊も一緒だ。


 更に、現地では連合騎士団も戦っている最中。

 これで負けろってのが土台無理な話なワケで。


 いや、実際はどう運ぶか知らんが。

 だが、これだけお膳立てしてもらっておいて「スナファには勝てなかったよ……」なんてオチがあってたまるか。

 いつも通り、万全を期して事に臨むんだよ!



「お客様の中に妨害魔術をお使いの方はいらっしゃいませんか」


「真面目にやりなさいよ」


「そうは言うがな、アンジェリカ……俺だって辛いんだぞ」


 何が悲しくて、こんなグロテスクな通信装置を片手に指揮を取らなきゃいけないのか。

 どうせならもっとこう、ドラゲナイした造形の奴が良かった。


「気持ちは解るわ。でも、そっちじゃなくて、妨害魔術を使える人は事前に調べたでしょ」


「ああ、まさか全員揃っていけるクチとは思わなかった」


「ご説明しよう!」


「うおわ!」


 ビリーが久しぶりに口を開いたかと思ったら、急にでかい声を出した。

 コイツ絶対、普段は無口だろ!


「我々、帝国軍は想定される様々な状況に柔軟に対応すべく、一通りの魔術を訓練してあるんだ!」


「あ、はい……ご丁寧にどうも」


「礼には及ばないさ! 相棒の親友なのだからね!」


 ……やりづれえ。

 こういう時、ルチアが腐女子のつぶやきを残してくれたら誤魔化せたのに。


 やっぱり、アレはアレで必要だったんだな。

 ごめんな、ルチア。

 今度から、腐女子トークを解禁してやるからな。



 ――突如、俺達を乗せた飛竜ひーちゃんの翼が撃ち抜かれる。

 それも、何発もだ。


「大丈夫か!」


「マズい! このままじゃ!」


 ズガァアアン、ガラガラと凄まじい轟音を立てて不時着した俺達。

 上空にはまだ、帝国軍残党の飛竜編隊が飛び回っている。


 狙われたのは、俺達だけらしいな。


 痛む身体に鞭打って(実際、ムチ打ちになりそうだ)、俺達は下に降りた。


「大丈夫? ひーちゃん……」


 アンジェリカの問いかけに、ひーちゃんは苦悶の表情を浮かべつつも頷いた。

 やせ我慢は良くないな。

 痛いなら痛いって、素直に言えよ。俺みたいに。



 ひーちゃんの鱗が、銃弾をキィンと弾き飛ばす。

 ……なるほどな。

 さっき狙われたのは翼膜だったから、上手い具合に貫通させられちまったのか。



「勇者よ、大地に伏せろ!」


 銃弾と共に、レジーナ=スナファの声が鋭く響く。


「いや、俺は大地に立つほうがいいな」


「黙れ!」


「おおっと、当たらなければどうということは無い!」


 チュウンッ、と瓦礫の破片が飛び散る。

 外したな? ざまーみろ。

 そう何度も同じ手を喰らってたまるかよ。


 スナファはその場から動かず、何かを発動させようとする。

 させようとしたが、自身の左手を見て顔をしかめた。


「小癪な……妨害魔術とは。だが、それは範囲内で放たれた一定の周波数の魔力を分解して阻害する強力なタイプだ。術者の個体識別の術式を組み込む余裕すら無いほどに、複雑な術式になっている。お前達も魔術を使えなくなるぞ!」


「……で?」


「こちらには銃がある。雨の中でも使えるし、距離を詰められる前に撃てばいいだけだ」


「ご丁寧な説明ゼリフをどうも」


 まったく、よくもまあ長々とテメーの手の内を言いふらせるもんだ。

 それだけ自分の腕前に自信があるんだろうが。


 だが、こっちには秘策がある。

 お前の事は何もかもお見通しなんだよ!


「撃たれる前に近寄るだけだ!」


 俺の手元には、メイの置き土産のクロスボウ。

 ちょっと手荒い真似をするが、手加減なんてしたら額に風穴を開けられるからな。


「ステンバーイ、ステンバーイ……ゴッ!」


 何発もの銃弾が、俺達をかすめていく。

 ファルドとジラルドとビリー、そして俺による包囲網。


 ライフル銃の威力は確かに折り紙つきだろう。

 だが、囲まれれば撃てまい!


「く、くそ!」


 ――!?


 レジーナの背中から、三丁のライフル銃が浮遊する。

 え、嘘だろ。


 ティロ・フィナーレでもするつもりじゃねーだろうな!

 それともファンネルか!


「このジャマーフィールドには弱点がある! 操作系の魔術は妨害できないようになっているのだ! 使用者の帝国軍が、一方的に蹂躙する為にな!」


「やけに詳しいじゃないかい?」


「当然! 俺を誰だと思っている!」


「誰だよ」


「私は、私は――あ、うぐ……!」


 一人称も安定しないし、割と付け焼き刃の洗脳っぽいな。

 よーしよし、その調子で揺さぶりを掛けてみるか。


「春の聖杯の守人、レジーナだろ!」


「違う! 我はスナファ・メルヴァン! 闇の射手だ!」


「ああそう。じゃ、コイツを食らっても無事だよな?」


 俺は咄嗟に瓦礫の陰に隠れ、ヒトデ型の通信機を口元に持って行く。

 スタイリッシュ・ドラゲナイ・スタイルだ!


「オペレーションコード、猫まっしぐら!」


 間髪入れず、上空を飛んでいた飛竜の何匹かが袋を開封する。

 むせ返るほどの大量の粉末が、空から舞い降りた。

 大雨の中だからあんまりニオイはしないだろうが……コイツはかなり“きく”ぜ。


「が、あ……!」


 そうだろうそうだろう!

 マタタビの粉末を浴びて、猫が無事なワケねーだろうが!


「んんんニャああああああ!」


 浮遊していたライフル銃も、手元のそれも取り落とし、レジーナはのたうち回る。

 両目には涙も浮かんでいた。


「手荒な真似をして悪いが、こうするしか無かった。許せ、レジーナ」


「が、ぐッ、うううああ!」


 駆け寄り、ぎゅっと抱きしめる。

 本当の勝負はこれからだ。

 レジーナがどうやって洗脳されたかは判らないが、ショック療法というものがある。


 コイツみたいな寝坊助は、叩き起こすのが一番だ。

 あ、痛え。引っかき傷が……!


 顔はやめて! 顔は!


「楽しそうで何よりだわ」

「そっとしておいてやろうぜ」

「お盛んだねえ」

「ああ、全くだな!」


 薄情な奴等め! 助けろ!

 まったく、どいつもこいつも!

 大事な場面なんだから、もう少しくらいシリアスな流れを続けてくれよ。


「うぐ、く……かくなる上は……!」


 未だにもがき苦しむレジーナが、そっと右手を空に掲げた。


 今度は何をするつもりだ?


 そう思った矢先、光の塊が空から降ってくる。

 まばゆく輝いていたそれは、やがて光を霧散させた。



 はたしてその中心にいたのは、見覚えのある男だった。


「ザイトン、司祭……」




 マタタビ

 植物の一種。

 猫に与えると、酩酊状態となる。

 帝国では一般的に猫を飼う家が多く、マタタビは生活必需品にもなっている。

 魔王軍に所属する魔物を手懐ける為に、ある冒険者の一団が用いたとされている。

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