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第七十七話 「こいつは思わぬ大当たりを引いちまった」

今夜の更新パート2です。


 帝都のある西へと向かう俺達。

 ただしルチアとヴェルシェとメイが不在で、代わりにジラルドとビリーがいる。


 まったく。

 メイの奴、ふざけやがって。

 回復担当と情報収集担当がいなくなるから、パーティ編成が戦闘に偏るんだよな。


 しかも折悪しく、ポーションは原材料の薬草が不作とかで価格高騰中だった。

 今までの三倍ってどういう事だよ。



 眼下に広がる、真っ黒い葉の生い茂る森林地帯。

 なるほど、文字通り。

 黒い森とはよく言ったもんだ。


 遥か遠くでは、帝国製ゴーレムもといガンツァの巨体が見える。

 今は飛竜のひーちゃんで来てるから、万一アレと戦えってなっても厳しいな。

 カグナ・ジャタならあるいは大丈夫そうだが。


「どうだ、ファルド。メダルは反応してるか?」


「駄目だ。ちっとも光らないよ」


 ゆっくり上空を飛び回りながら探しても駄目っぽいな。

 ここはハズレと。



 *  *  *



 次は、谷――スコール・キャニオンだ。

 帝国南部に位置する巨大な峡谷地帯。降水量が多く、岸壁が削られる事でこのような地形になった。

 水害を未然に防ぐため、河川の水を堰き止める構造になっている。

 いわゆる、ダムって奴だな。


 さて、アンジェリカ曰く、普段なら大雨の中で連合騎士団が警備についているらしいが。

 今こうして見下ろしている限りでは、彼らの姿は人っ子一人見えない。


「こっちは、大当たりだな」


「そのようね。どうする? 一度、帝都にも寄ってみる?」


「……そうだな。気掛かりだ」


 原作だと、占拠されるのはここじゃなくて帝都だからな。

 そろそろ予言だけを基準に考えるのは、やめにしなきゃいけない。


 原作の登場人物達の行動原理を考えたほうがいい。

 あるいは、俺が原作を書いていた時、その人物に何を思わせて、そのような行動に至らせたのか。


 難しい問題だな。

 殆ど、こじつけでもしなきゃ繋がらないかもしれない。

 だが今までのパターンを全て思い出せば、もしかしたら不可能じゃない。


 何故、スナファ・メルヴァンが帝都を占拠するのか。

 考えられるのは、ただ一つ。

 ――聖杯だ。


 予言の中のスナファ・メルヴァンは既に夏の聖杯が帝国側で確保していた事を嗅ぎつけていて、それを強奪する為に帝都を攻め落とした。

 ましてその世界でのファルド達は国中に追われ、安息の地は無い。

 時間稼ぎには持って来いなワケである。


 問題は、勇者に頼らなくなった大陸各国だが、これも二つほど解決策がある。

 一つは聖杯だけを奪い取り、残った戦力を総動員して魔王軍にぶつかる事。


 二つ目。

 これはもっと残酷だ。

 ファルド達を囮に使って魔王を倒させ、共倒れにさせるか、それが無理ならまとめて消す。


 それを知ってか知らずか、原作バージョンのスナファ・メルヴァンは帝都を占拠した。


 ……とでも考えたらいいのかな?

 だがこれらは推論でしかない。

 見ない事には、断定はできない。



 だから俺は確かめなきゃいけない。

 俺自身が諦めて止めちまったシナリオの、その先を。


 先へ進む。



 *  *  *



 帝都は静かだな。

 スコール・キャニオンがもぬけの殻だってのに、慌てふためく様子は無い。


「ファルド、帝都官邸に向かえるか?」


「えっと、確か宰相がいるんだっけ」


「それな。スナファ・メルヴァンの件については、前の会議で伝達済みだ。何かしらの対策は講じてるだろう」


 飛行船の発着場らしき場所には、今は何もない。

 着陸して、近くの兵士に謁見の話を伝える。


 ちなみに、ジラルドとビリーはお留守番だ。

 特にビリーは、元帝国所属だしな。


 気持ちは解らんでもない。

 辞めた後のバイト先って、どうも行くのが億劫になるんだよな。

 それのデラックス大人バージョンって事だ。



 数分すれば、俺達は案内して貰えた。


「まさか、こんなにも早くご足労頂けるとは。ちょうど、便りを出そうと思っていた頃でした」


 そう言って現れた、ペゼル・ラルボス宰相。

 その眼光は、やはり射抜くような鋭さを持っている。

 コイツもコイツで、油断ならない雰囲気なんだよな。

 何を考えてるか解らないし。


「僕達の前に、誰か来ませんでしたか?」


 という俺の質問に、考えこむペゼル。

 何を答えようとしてるのか、って感じか?


「せいぜい、スナファ・メルヴァンを討ち取った程度ですね」


 はい?

 ……討ち取った?


「待って下さい! スナファは春の聖杯の守人なんだ! 討ち取ったって、殺したんですか!」


 青ざめたファルドが、真っ先に食って掛かった。

 胸ぐらを掴まれたペゼルもまた、やっちまったって顔をしてる。


「落ち着いて! 国の、危機でしたから……!」


「ファルド、離してあげて」


「でも!」


「ファルド!」


「……わかったよ。ペゼル宰相、それで、死体はまだ残ってますか?」


「コホッコホッ、はい。何しろ、貴重な魔物のサンプルです。解剖して、何かに使えないかと」


「か、解剖!?」


 あちゃー……こりゃ、いよいよマズい流れになってきたぞ!

 嫌な予感はしてたが、まさかこれほどとは思わなかった。

 あー、くそったれ! 今日は何て日だ!


「一応、案内させましょう。ご期待にそえるかは、保証しかねますが……」



 ペゼルを含めた帝国兵に連れられ、俺達は地下の解剖室へと案内される。

 結果的に、ルチアはいなくて正解だったかもな。


 フォボシア島で嗅いだのと同じだ。

 濃厚な血の匂いで、鼻が曲がりそうになる。


「こちらが、スナファ・メルヴァンの死骸です」



 そうして見せられたのは。

 解剖台に載せられた、一人の“青い肌をした長身痩躯の男”の死骸だった。


「これが、スナファ・メルヴァンだって……?」


「何かの間違いだったら、それでいいわ。レジーナは生きてるんだもの」


「彼は確かに、そのように名乗りました。

 実際、闇の射手という二つ名に違わず、暗闇から矢を放つ腕前は見事だと、連合騎士団からも報告が」


 何となく、見えてきたぞ。

 レジーナがスナファ・メルヴァンと名乗ったのは、シナリオが改変されたとかじゃない。

 やっぱり誰かが、レジーナを操ってそのように名乗らせたんだ。


 だが、誰が?

 魔王にしては、やり口が変だ。

 あんまりこう言うのは変だが、原作での魔王はもうちょっと解りやすい手口を、豪快にゴリ押しする。

 失った配下を、わざわざ守人を操ってまで補填するか?


 そんな事しなくても、人型の魔物は魔女に産ませるだろう。

 数ヶ月もあれば、魔物は使い物になるレベルに成長するっていう設定があった筈だ。


「ちなみに、このスナファ・メルヴァンはいつ頃現れましたか?」


「先日です。討ち取ったのですが、まだ残党がスコール・キャニオンに残っていまして。

 重要な設備ゆえ、下手に破壊作戦を立てる訳にも行かず」


 じゃあ、その時までスナファ・メルヴァンは二人同時に存在していたって事になる。

 ……一体、どうなってやがるんだ?


 何のためにやったのかも、ちょっと解らない。

 下手を打てば聖杯ごと奪還されて終わりだっていうのに。


 まあ頭脳明晰な魔王の事だし、俺達にも考えが及ばない何らかの作戦を立てている可能性は否めないが。


「ますます、こんがらがってきたな」


「急ごう、スコール・キャニオンへ」


「まあ、待て」


 勇み足のファルドを止める。


「それで、ペゼル宰相。もう一人のスナファ・メルヴァンは、何と厄介な事に、テレポートを使うんですよ」


「逃げられるリスクがありますね」


「その通り。そこで物は相談なんですがね、こう、ちょっと、人手をお借りできたらなと……」


「お安い御用です。おい、きみ」


「はっ!」


 近衛兵が退室して、待つこと数分。

 戻ってきたぞ、頼もしい奴を引き連れて!


 見ろよ、この星形のフォルム!

 五つのトンガリ、そしてその裏側には溝が走っている。

 昔、水族館で見たことあるぞ。


 これはまさしくアレだ!


「海産物のヒトデじゃねーか! 非常事態なんだから真面目にやれ!」


 流石に生きてるヒトデじゃなくて模型みたいだが、何に使えっていうんだよ!

 どうしろっていうんだよ!

 こんなのポイだ、ポイ!


 ――しようとしたら、宰相閣下渾身の走り込み前転からのキャッチ。

 見た目より素早い。


「心外ですね。これは列記とした通信装置です。我が国の“残党軍”を自称する者達のね」


 宰相閣下、やっぱりあの黒船の人達をご存知でしたか。

 こりゃ恐れ入ったな。

 突っ込みどころ満載だが、まずは置いとこう。

 優先すべき質問事項は一つだけだ。


「来てたんですか。彼ら」


「ええ。残党には残党をぶつけるのが定石というものでしょう?」


 などとニッコリ笑顔で言うが、俺はそんなセオリー聞いたこと無い。

 つまりアレだな。

 一介の傭兵団が向かったとあれば、何か不測の事態が起きても本国が責任を取らなくて済むっていう奴。


 やっぱり食えない奴だな、この宰相閣下は。

 友軍がいるのは、有り難い話だが……。


「こいつは思わぬ大当たりを引いちまった」


 しかも、どうやって使うんだよ。

 このヒトデ。




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