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間話iii 愚者達の謀り方


「話が違うじゃないか、サレンダー」


 あまり面白い事態ではない。

 夏目倫人は現状を、そのように評した。


 夜徒ナハト・ブレイヴメイカーは間違いなく様々な力を持っている。

 一つ目。

 味方に対する能力の強化。

 これはまだ、序の口だ。


《アレは今、確認できてるだけでも六つのスキルがある》


 二つ目。

 マジックアイテムの性能を限界以上に引き出す。


 三つ目。

 敵対者に対する、物理防御力を無視した攻撃が可能。

 ファルドの剣に付けられたメダルが赤く光っている時、その能力が発現する。


 四つ目。

 会話の読み取り。

 聞こえない筈の距離や声量を無視して、内容を理解する。


 五つ目。

 味方の精神に作用して恐怖心を大幅に軽減する。


《まだある》


 サレンダーが提示した、残る一つのパッシブスキル。

 それは恐るべき内容だった。


 六つ目。

 それは夜徒と二人きりになった時、彼からの質問に対して嘘をつきづらくなるというものだった。

 しかも厄介なのは、スキルの影響を受けている自覚が無いという事だ。


「こんなものがあってたまるか! これじゃあ、近いうちにバレる!」


 倫人は戦慄した。

 どれもが一見すると地味だが、効果は絶大だ。


《大丈夫、手は打ってある》

仮想身体アバターには影響が出ない》

《少なくとも、六つ目のスキルに関しては》


「でもそれ以外も危険だ」


 どれもが、恐らくは夜徒が創作者である事に起因しているのだろうと、倫人は結論付けた。


 創作者が作品をエンディングに導く為に、全員の能力を御都合主義的に上げている。

 設定を把握しているからこそ、マジックアイテムの原理を無意識に理解して使える。

 シーンを書くだけで敵が倒されるから、彼は敵を倒すのも容易である。

 他にも推論を述べると、枚挙に暇が無い。


 身の毛のよだつ、忌むべきチートスキル。

 そのようなものが、判明しているだけで六つもあるのだ。

 今後も解析を進めれば、まだまだ出て来るのだろう。


 倫人にとって面白くないのは、これらのスキルが半ば強引な代物であるにもかかわらず、周囲の仲間達に肯定的に見られている事だ。

 その仲間達もまた同じく、更に外側のモブ達に。


 主人公が過ちを犯してはならないと、誰が決めた?

 主人公の為した事は何もかもが肯定されるべきと、いつから決まった?



 倫人は他にも、そしてこれが何よりも吐き気を催した事を思い出す。

 それはハーレムだ。


 夜徒は完全に、この作られた異世界を満喫している。

 女性達とのじゃれ合いを楽しんでいる。

 世界を救おうという旅をしながら、にもかかわらず。



「カグ何とかというトカゲの化け物を倒したって、そんなの所詮は茶番だ! 調子に乗りやがって!」


 お陰で、様々な妨害工作は殆どが無意味となった。

 倫人は今まで、勇者の悪評を広めやすいように、あらかじめ武勇伝の広まりにくい体制作りを心掛けてきた。

 だが実際はどうか。


 今日に至っては、あの第二王子から表彰までされていたではないか。

 煌びやかな勲章を受け取る勇者。沸き上がる歓声。

 皆が寝静まった頃合いを見計らって、こうして仮想身体からログアウトしても、やはりそれらの光景が脳裏から離れてくれない。



 ……幾つもの要素が重ね合わせられる。

 チート能力と、ハーレム。

 そして周囲からの賞賛。


「あんな陳腐でクソッタレな冒険記より、俺の考えたシナリオのほうが面白いに決まってる……!」


 倫人の仮想身体の裏切りにあの作者が絶望する頃には、とっくのとうに物語は倫人に乗っ取られている……そういう算段を立てていた。


《本質を見失うな》

《目的、わかってるよね?》


「言われなくても。それより、サレンダー。計画の修正はそろそろ終わるか?」


《問題無い》


 度重なるイレギュラーな介入のせいで、計画の第二段階は大幅な変更を余儀なくされた。

 このような事があってはならなかった。


 特に倫人を苛立たせたのは“あの女”の存在だった。

 まさかあの女が既に夜徒と接触済だったとは。

 挙げ句の果てに、夜徒が仲間に引き入れてしまった。


 裏工作をしようにも、彼女はいつもそこはかとなく見張っているのだ。

 ゆえに倫人は裏工作の際に仮想身体が使えなくなり、活動範囲が限定されてしまった。

 今は議会四柱枢機卿の手を借りるしかない状況だ。


「まあいい。だったら引き続き料理してやるだけだ」


 幸い、手駒の数はこちらが勝っている。

 赤毛の男も、使いようによっては面白い方向に転がってくれるかもしれない。


 双方の思惑から大きく外れたこの世界を、再び奪ってやらねば。

 倫人は、己の精神の高揚を禁じ得なかった。


「アンジェリカが魔女になった時、お前の物語は俺達に奪われる」




第三章終了です。

ここまでお付き合いいただいた皆様、ありがとうございます。

次章は諸事情により、10/12の夕方頃を予定しております。


引き続き、お付き合い頂ければ幸いです。

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