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第六話 「残念ながら、それは無理な相談だ」


 出迎えてくれたメイドに屋敷の中へと通され、ルチアはソファに寝かされた。

 それから他の二人のメイドが、虫眼鏡みたいな器具を片手にルチアを眺める。

 キリオ曰く、身体の不調を発見するためのものらしい。


 ルチアが目を覚ますまではもう少しかかるだろう。

 俺はパソコンを開いて、原作の流れを確認する。


 山賊っぽいポジションのオークはどうやら原作でも居たみたいだな。

 あまりにもさっくり進みすぎて、全然気付かなかったぞ。


 で、予言によれば。

 明日、ドリトント鉱山が封鎖されて、作業員も何者かに襲われる。

 炎が使えないアンジェリカを、ルチアが助けてピンチを乗り越えるっていう展開だ。


 これ……未然に防げねーかな。

 それとなく危機を伝えたい所なんだが、下手に発言して怪しまれないかな?

 流れに身を任せても別に死人が出る話じゃなかったし、いいのかな。


 と俺が思い至った辺りで。


「んっ……あれ、私……」


「気が付いたかい、ルチア。此処はモードマン伯爵の屋敷だよ」


 ソファから一歩も動かずルチアを見ていたキリオが、心配そうな眼差しを送る。

 ルチアはぼんやりしているようで、辺りを見回してから首を傾げた。


「お兄様、どうして?」


「偶然居合わせたのだ。さあ、用事を済ませておいでなさい」


「は、はい……ファルドさんにアンジェリカさん、それにシンさんも、ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました……」


 ルチアは立ち上がり、一礼しようとしたがよろめいてしまう。

 その両肩を、キリオがすぐさま支えた。


 ルチアはその手を「大丈夫です」と言わんばかりに押し退けようとして、またよろける。

 するとキリオは、今度はソファに座らせた。

 ……このシスコン野郎、妹を溺愛してるな?


「いいよ、大丈夫」


「アンタのその失神癖、早く治しなさいよね。危なっかしくて見てられないわ」


「が、がんばりますっ」


 ルチアはアンジェリカの励ましに、俯きながら赤面する。

 その様子を見ていたのか、メイドが奥の部屋からやってきた。


「皆様、これでお揃いですね。ご主人様がお待ちです。どうぞ、此方へ」


 促されるままに足を進めるが、キリオだけはその場でソファに腰掛けた。


「あれ、キリオさんは行かないんですか?」


「私の用件は済ませましたので」


 どういう用件だったんですかねえ……。

 それに、原作ではこのメイドが鉱山での案内役も兼任していた。

 ムーサ村までの道中は馬車で行ったから、少し展開が変わったのか?

 まあ、それならそれで。


「キリオさん。一応、鉱山の警備を強化するように打診しておいて欲しいです」


「石版の予言ですね?」


「よくご存じで」


 やっぱこいつ、ストーカーしてたろ……。

 俺はみんなより一歩遅れてモードマンの研究室へと通される。


 研究室だからか、ソファなんて気の利いた物は無い。

 つまり立ち聞きだ。

 椅子がくるりと回転し、初老の男が姿を見せた。


「こんな辺鄙な所へよく来て下さった。

 私がヴァン・タラーナの現村長にして、錬金術師のジュリス・モードマンだ」


 白髪交じりの金髪と、顔に刻まれた皺。

 顎に手を当てた思案顔からは、知性の高さが窺える。

 典型的なインテリ老紳士のイメージだ。


 ……これでマッドサイエンティストでメイドを何人も侍らせてなけりゃ、嫁に困る事も無かっただろうにな!


「君、お客様に茶をお出ししてくれ」


「御意に」


 メイドが茶を、つぎつぎと手渡していく。

 ソファとテーブルがあればそこに置いたんだろうな。

 最後に俺の手元に茶が行き渡ったところで、メイドは涼しい顔で口を開いた。


「君達が私の発明品の未来を託すに相応しいかどうか、見極めたい」


「ご主人様は斯様な事を申しておりますが、真に受けて頂かなくて結構ですので」


「ちょ、ちょっと君! 真面目な話に茶々を入れないでくれたまえ!」


「反論なさるおつもりでしたら、真夜中に研究をしながら馬鹿笑いをするのをおやめになってからにしてください」


「ついテンションが上がってしまうのだから仕方ないではないか!」


「はぁ……色々と台無しだわ……」


 それにしても、この雰囲気は何だ?

 いやにほのぼのとしているじゃないか。


「では本題に入るとしよう。既に話は通っていると思うが……」


 モードマンはがさごそと、冷蔵庫くらいの大きさのアイテムボックスを漁り始める。

 あれでもないこれでもないと呟く様子からは、この男がめちゃくちゃものぐさな奴だって事が想像できる。

 五分ほど待たされて、ようやく見付けた。


「これが私の発明した行軍疲労軽減装置、通称“地平線歩き”だ。開発期間は二ヶ月で、うち三日は名称の考案、一週間は基礎設計、二週間は材料集め、三週間は仮組、そして残りは全て完成形に近付ける為に費やした。早速装着してみてくれたまえ!」


「ご主人様、女性の方々には私が別室にて」


「解説書も無しにかね?」


「斯様な代物は、拝見すればすぐにでも構造を理解できましょう。お気遣い無く」


 なんで別室でやるのかちょっと解っちゃったぞ。

 基本的に、旅の服は洗ったり買い換えたりしない限りずっとそれを使い続ける。

 アンジェリカとルチアの服は、間違いなく洗ってるだろう。


 だが靴は毎日磨いても、内側まで完全洗浄ってワケには行かないよな。

 三日も同じ靴を履き続ければ、ニオイもまた……。


 なんで俺はファンタジーな異世界に召喚されて、女子の足のニオイに思いを馳せなきゃいけないんだよ。

 世界設定にセクハラされるとか、前代未聞じゃねーか!



 ……それはともかく。

 俺達は“地平線歩き”を靴の中に装備した後、中庭へと案内された。


 中庭の中心には大きなグリルが置かれ、キリオが涼しい顔で準備を進めている。

 屋敷のメイド達も、食器を並べたり、厨房から食材を運んだりしていた。

 ほほう。あれが鉱山バーベキューか。


 俺も手伝おうとしたが、メイド達に止められた。

 曰く、客人の手をわずらわせるわけにはいかないとの事だ。

 じゃあなんでキリオが手伝ってるのかって話だが、素人が手出しすべきじゃないって事なんだろう。


 せっかく肉の切り方とかをググったのにな。

 この俺の行き場の無い情熱は、肉を焼く事に費やすとしよう。



 準備が整ったところで、俺達は肉を焼き始めた。

 モードマンはファルドの隣に座り、色々と話をしているみたいだ。

 俺が周囲の喧噪に耳を傾けながら黙々と肉を焼いていると、キリオが俺のトングをひょいと取り上げた。


「どうか、後は私にお任せ下さい」


「警備増強、どうでした?」


「通りましたよ。ありがとうございます。おや、この部位はもう焼けていますね」


 俺の取り皿に牛肉を乗せながら、キリオは微笑む。

 ドレッタ商会の長男という事もあってか、その立ち振る舞いは上品だ。

 この際だから、後付け設定であるキリオとモードマンの関係について訊いとこう。


「キリオさんは、伯爵とはどういうご関係で?」


「まだルチアも生まれていなかった頃、グレンツェ帝国と、このアレクライル王国は戦争状態でした。

 伯爵は帝国出身でしたが、当時私の父が伯爵の亡命を手引きいたしまして。

 戦争が終わると、ドレッタ商会を通じて伯爵の発明品を王国に広める事になったのです」


 なるほど。そういう後付け設定になっているのか。

 そういや原作では、あちこちで発明品が出回ってたが、特に理由とか作ってなかったな。


「以来、私も伯爵の下で道具の発明の修行をしておりました。

 途中から方向性が合わなくなり、袂を分かつ形にも一度はなりました。ですが……」


 そういう形でなら、キャラ被りも不自然じゃない。

 むしろ、どういったいきさつで道を違えたのかといったサイドストーリーも作れるな。


 キリオは、寂しげな顔でモードマンのほうを一瞥する。

 一筋縄では行かない関係みたいだな。


「それでも……こうして今もお付き合いが続いているのは、父のお陰なのでしょうね」


 などと話していると、ファルドがガタンッと席を立った。

 行儀の悪い奴だな。

 案の定、アンジェリカがうんざりした顔でファルドの肩を押さえて座らせてる。


「飛行船、一隻譲ってくれませんか!?」


「残念ながら、それは無理な相談だ」


「なんでですか! 早く魔王軍を倒さなきゃいけないんでしょう!」


「大陸同盟の条約だよ。

 国は勇者に一定額以上の援助をしてはならないと定められている。

 勇者を見出した国が投資しすぎて国家間の均衡を崩さないようにする為だ。

 魔王を倒したその後に、国が戦争をしない為の条約なのだよ」


「俺が魔王を倒したら、王国がそれをダシに他の国に戦争を仕掛けるかもしれないって、そう言いたいんですか」


「その危険性が無いとは言えない。現陛下が近いうちに隠居なされるという噂も耳にする。主が変われば、国もまた変わるものだよ」


 大陸同盟?

 俺はそんな設定知りませんよ。


 過去設定でアレクライル王国、グレンツェ帝国、ゼルカニア共和国、北方連邦の四ヶ国に分かれて戦争していたっていうのは、覚えていた。

 戦争が終わった今は各地に散らばる魔王軍と戦ってるって事も、確かに設定したが……。


「アンジェリカ。大陸同盟って?」


 質問ばっかりだが仕方が無い。

 勝手に妄想して早合点した結果、ロクでもない事になるのは御免だしな。


「大陸の四つの国が、魔王と戦う為に手を組んでるのよ。

 空の戦力で言えば、アレクライル王国からは飛行船、グレンツェ帝国からは飛竜騎兵って具合にね」


 とか話してる間にも、ファルドとモードマンの会話は続く。


「勇者には勇者の役割がある。魔物の大群は、連合騎士団に任せておけばいい」


「でも、ここに来る途中にも、魔物が隠れていた。それを騎士団の人達は倒したのか?」


「遅かれ早かれな」


「遅いと誰かが犠牲になるかもしれない。それに魔王軍は魔物だけじゃない、魔女だって!

 だから効率的に回って、その分だけ多くの敵を倒さないと……」


「効率などと、君には似合わない言葉だ。誰の受け売りかね」


 ファルドは一瞬だけ、アンジェリカのほうを見る。

 それからすぐにモードマンを睨んだ。


「あんたとは初対面の筈だろ……! 俺の何が解るんだ」


 これって、もしかして喧嘩か?

 マジかよ。ここに来て気まずい事をしてくれるなよ……。

 モードマンも中々に強情だ。この様子じゃ鉱山襲撃の話、黙っといたほうがいいな。


「君の情熱ゆえの苦悩は解る。

 だが、蛮勇じみた情熱は時として、招かれざるものまで引き寄せてしまうぞ」


「簡単に言ってくれるぜ。グリーナ村だって、あと少しでヤバい事になるところだったんだ!」


 グリーナ村という言葉を聞いて、キリオの顔が引きつったのを俺は見逃さなかった。

 大方、グリーナ村でルチアが危ない目に遭ったんだろ。

 シスコンだしなコイツ。


「キリオさん、どうかしましたか?」


「いえ、肉の筋が喉に詰まりまして……」 


 そう言って、キリオはコーヒーを一気飲みした。苦しい言い訳だな。


「本当は、妹さんに命の危険があったのを思い出しただけじゃ?」


「これは、お恥ずかしい。シンさんに隠し事は出来ませんね」


 どんなもんだ。設定知識があれば、この程度はお手の物だ。



「魔王は君が生まれる以前から、この世界に存在していた。そして、魔物はその更に以前から。人は、君が思う程には弱くはない」


「それでも死ぬ人が居る!」


 ……ファルドとモードマンはまだ喧嘩してるな。


「ならばそれは、運命を変えようとする事を怠った者達だ。

 そうとでも思わねば、君自身が慈悲や善意であると確信しているその感情に、いつかは押し潰されてしまうかもしれん。

 守りたいと思うのは、約束事と、親と、君にとって一番大切な誰か……それだけにしておくべきだ」


 とどめを刺されたと言わんばかりに、ファルドはがっくりとうなだれた。

 拳を握り締めてるから、すごく悔しいんだろうな。


 重たい沈黙が、この場を支配した。

 気弱なルチアはもちろん、負けん気の強い筈のアンジェリカも、浮かない顔で俯いている。


「……折角の食事が不味くなってしまうな。この話は終わりにしよう」


「それには俺も……賛成です」


 誠に残念だが既に気まずいです。

 といっても、これも主人公の成長イベントか、その為の布石だと思えば途端に微笑ましい気分になるぞ。


 ただ単に敵を倒せばオーケーっていう訳じゃないって事を学べば、勇者としてもっと成長できるって事だ。

 頑張れ、ファルド! 俺はお前の隣で見守っているぞ!


「あ、お肉、焦げちゃいますよ!」


 というルチアの敢えて空気を読まなかった発言で、どうにか重たい空気を脱した。

 この気配り上手め。

 これで気絶癖が無けりゃ完璧だったが、寧ろその欠点が魅力を引き立てているのか?


 それから軽く雑談を交えたりとかして、その日のバーベキューは無事に終了だ。

 アンジェリカの提案通り、俺はパソコンをモードマンに預けた。



 壊れたツルハシ

 持ち手が半分に折れ、ピックが歪んでしまったツルハシ。

 道具としてはもう使い物にならないが、持ち主がどのような運命を辿ったのかを僅かに窺い知る事が出来る。

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